第十三話「温泉地付近ですわ、おほほほほ」
二合目の宿場で一晩を明かしたハルカと測量隊の一行は、早朝に魔道荷馬車(馬はいない)の一台の荷台にある巨大な鉄の容器から小さな容器に液体を移し替え、それをさらに魔道荷馬車(馬はいない)の近くに持って行き…。
頭に赤い握り玉がついて、その下に二本の管がついた、握ると握り玉の中身が弁によって片方の管から押し出され、離すと弁によってもう片方の管から吸い込まれるという道具を使って魔道荷馬車(馬はいない)の燃料タンクに流し込んでいた。
その様子を見た宿の従業員が「その道具、便利ですね」と言わんばかりの目で見てくる。
「ポンプ、簡単、構造。
なのに、便利、すごい」
ヴォルフィンも目を丸くして見ている。
「おほほほほ…。
これはサイフォンの原理を使うポンプですの」
と言いながら、地面に置いた携行缶から給油口へは高低差が逆でサイフォンが使えず何度もシュポシュポしていた。
2台目の魔道荷馬車(馬はいない)に食事をさせると、ハルカの握力は限界になっていた。
「だから何でこんな汚れ仕事をハルカ嬢がしているんですか。
私の仕事奪わないでくださいよ」
整備士が文句を言う。
「おほほほほ。
冬の燃料気化送風式暖房魔道具が懐かしくて、つい…」
なお、当然だが入れているのは灯魔油ではなく軽魔油である。
それから測量隊はまた馬と一緒の登山道を魔道荷馬車(馬はいない)で登り始めた。
三合目はまた無人サービエリア状態だった。
「おほほほほ、深夜で店の閉まった道の駅ってこんな感じでしたわね」
ハルカは今日は後部座席で斜面を眺めている。
ところどころ、急な斜面をショートカットする階段で登っていくようなメンテナンス用の通路のようなものが見える。
「おほほほほ、作業員用の通路ですの?」
ヴォルフィンは首を横に振った。
「あの道、歩き用、昔、使った。
馬、登る、厳しい、荷馬車、引けない。
だから、作った、カーブ、256箇所。
道、緩やか」
過去には個人の行商人が背負いカゴで往来していたが、荷馬車が使われるようになってから新道が整備されたらしい。
しかも、カーブが256箇所ある?
「おほほほほ?
256というのは誰が数えたんですの?」
「私、数えた、昔。
商隊、ガイド、暇だった」
四合目はまた宿場町だったが、魔道荷馬車(馬はいない)の馬力(馬はいない)に任せて、この道路新記録の速度で踏破中の一行は軽く休憩してさらに上を目指した。
しばらくして遂に道が二手に分かれる場所に到達した。
立て札にはこう書いてあるらしい。
『五合目 1351ポミュ
左折:至温泉地・活火山連峰
直進:スタッキア北街道 至ワイズシティ』
「ここ、一番高い、峠の中で。
温泉、行く、左の道」
山として高さがおよそ2700ポミュと聞いていたが、峠道としての最高地点らしい。
「まっすぐ、近く、六合目」
五合目と六合目はあまり距離がないらしい。
たが、山頂方面は温泉地と同じ左の方、なぜか直進方向に六合目があるという。
「おほほほほ?
山頂に行くための『合目』ではないのでして?」
「山、登る、違う。
目的地、十合目、山、越える、先」
どうやら、山頂を目指すのではなく、峠道が過酷すぎるので、その峠道の向こう側への里程標として『合目』という言葉が使われているらしい。
「昔、都、デュアル。
デュアルから、行く時、ハイアベイリア、使った、この道。
これ、名残り、その時の」
古代のスタッキアでは、農耕可能なデュアル盆地に都市が形成され、都として栄えた。
ハイアベイリア系の王朝がワイズシティに都を置くまで、ワイズは何もない湿地帯の中の小さな宿場町だった。
そして、ハイアベイリアとの交易のために使われたこの道は、馬と一緒に越える峠が最大の難所であり、あとどれだけの距離で峠越えができるのかの目安として、デュアル盆地側から順番に数えた『合目』が使われるようになったのだという。
「おほほほほ、色々と歴史が詰まった道ですのね」
…と言いながら、ハルカたち測量隊は…。
車列を六合目宿場町に向かって直進させていた。
大坂峠
香川・徳島県道1号線(徳島引田線)の県境付近に「これでもか」と言わんばかりの線形の連続カーブがある。
地図で見ると大量のヘアピンが絡まったかのようなカーブがある。
そして山頂には展望公園があり、瀬戸内海を一望できる。
歴史的には阿波と讃岐を結ぶ交通の要衝であったが、古代、江戸時代、明治以降と何度も改修され大正時代に自動車が通れるように整備され現在の線形に落ち着いた。
当時の自動車性能や土木技術で勾配を抑えて峠越えをしようとすると、この線形が最適解であったのだろう。
急な斜面を緩やかに登りたければ、グネグネと回り道して距離を稼ぐしかない。
現在ではすぐ近くを高徳線がトンネルで通過、高松自動車道もトンネルで通過、少し遠回りだが海沿いを通る国道11号があり、峠の通行量は減った。
なお、本編の峠は国内唯一農耕可能な盆地で作られた野菜を満載した荷馬車(馬が引いている)が往来していると思われるので、馬が荷車を引き登り、馬を押さないよう荷車の速度を抑えながら降る必要があり、大坂峠よりも勾配の要求条件はシビアなはずである。
なお、逆にカーブでの勾配を全く作らずに斜面にまっすぐ突っ込んでいる道路に、茨城県道139号線がある。
こちらは筑波山神社のアクセス道路で、歩行者が登れれば何でも良いという割り切った設計だった「つくば道」が生活道路として定着し、ほぼ同一区間が県道指定されたもの。
軽トラがよく似合う。




