第十一話「なぜ掘るのですって?おほほほほ」
ハルカは一合目で食料を買って、魔道荷馬車(馬はいない)の中で頬張りながらハンドルを握っていた。
基本的に、運転している人は酔わない。
次にどう揺れるかが予測できるからとも言われているが、単純にこの道では自分が酔ってたら崖から転落する未来に直結するので、仮に酔っていたとしても吐き気を感じている場合ではない。
戦場で大怪我をしても兵士が無痛で戦ってるアレに近い。
「ハルカ、それ、うまい?」
この国の気候は夏にやたらと高温多湿になる。
保存食はだいたい腐らせまいと、塩漬けに飽き足らず唐辛子とニンニクが大量に使われていた。
中には見覚えのあるようなニンニクと唐辛子たっぷりの真っ赤な白菜の漬物もあった。
真っ赤な梅の漬物もあった…が、紫蘇ではなく唐辛子で赤かった。
そんな保存食を食べられるわけないので、一番胃に優しそうな物を買った。
「ハルカ、食べてる、それ、馬の、ごはん」
「…………おほ…ほほほ?
馬の消化器は反芻動物である牛よりは人間寄りですわ。
だから馬が食べられる食事なら私も反芻せず食べられますの」
「それ、三段論法ってやつですよね?」
すぐさま整備士に突っ込まれる。
「ハルカ、頭、すごい。
けど、間違い、使い方」
ハルカが食べていたのは「ヨモギとハコベラたっぷり乾飯」だった。
米は形を作って固めるために少量しかなく、大部分が草であったが、普通に人間も食べられるやつだった。
「草不可避ですわ、おほほほほ」
やがてカーブを抜けると、斜面に強引に作られた宿場町が現れた。
「馬と一緒の二合目宿、987ポミュ」だった。
ちょうど商隊が馬を宿に預けているところを目撃した。
馬小屋の奥から出て来た人が馬を引き継いで連れて行く。
その手際の良さから察するに、馬の世話を専門に宿に雇われている人のようである。
「ここまでして、馬と一緒に山を越えるのです?」
「街があるから、仕方がないのですよ」
ハルカの独り言に、アプリシア語がわかるらしい宿場町の住人が律儀に答えた。
そうか。
確かにそうだ。
ハルカの悩みの種が一つ消えた。
「おほほほほ!
埋め戻される地質如きに遅れをとっている場合ではありませんの。
やはり掘らなくてはなりませんわ、トンネル」
「山、生き返る。
穴、大変。
掘る、なんで?」
ヴォルフィンが極めて普通な質問をする。
「おほほほほ、なぜ掘るのですって?
そこに山があるからですわ」
「ガイドさんの質問の回答になってないんですが」
「そして、その先に用事があるからでしてよ!おほほほほ」
乾飯(糒)
端的に言えば「昔のアルファ化米」
一度炊いた米を干して乾燥させた物が乾飯ほしいいまたは糒ほしいと呼ばれ、古来から携行食として用いられて来た。
平安時代くらいにはすでにあったとされる。
水で戻して食べたり、そのまま齧ったりする。
当然のことながらそのまま齧れば硬いし、美味しくない。
尾西食品の「尾西のご飯」はチート保存食である。
そこに山があるから
イギリスの登山家ジョージ・マロリーが「なぜエベレストに登りたいのか」と問われた時の回答「“Because it’s there.”(そこにエベレストがあるから)」が変な形で広まった言葉。
その質問と回答の背景を知らなければ、1ミリも回答になっていない返しなのだが、なぜか世界的に有名になってしまった。
山岳土木の場合、「”Because, someone lives there.”(そこに誰かが住んでいるから)」である。




