第106話 勇者の功績
手紙を持つウォルドがニヤニヤと笑う。
それから俺の肩に手を回すと、悪い顔をして囁いてきた。
「照れるなよ。お前さんが夢にまで見た勇者の権利だ。しかも今度は公認だぜ? 命を懸けて戦っただけの価値はあるだろ」
「あいつは面倒事を俺に押し付けたいだけだ。安請け合いすると痛い目を見る。勇者って地位は問題ばかりを呼び寄せやがる」
俺が尚も愚痴を垂らした瞬間、ウォルドが真顔になる。
ウォルドはいつもの気の抜けた雰囲気を見せずに視線を返してきた。
「だけどお前さんは魔王を倒した。ある意味では、本物の勇者よりも勇者なんだ。その事実は意識しとけよ」
「…………」
俺は返す言葉を持たずに黙り込む。
それから気まずくなって髪を掻きむしって言う。
「いつになく真面目だな。どうしたんだ」
「そりゃ真面目な話だからなぁ。おいらだって、常にふざけているわけじゃない」
「ウォルド、かっこいい」
メニが惚れ惚れした様子でウォルドに抱き付く。
その頃にはウォルドも平常通りになっていた。
こいつは底の知れない部分がある奴なのだ。
付き合いは長いものの、別にすべてを知っているわけではない。
特に経歴については謎だ。
どこで何をしていたか不明な時期も多い。
別に詮索はしないものの、さっきみたいな真面目な一面を見せられると、多少なりとも過去は気になってしまう。
機会があれば、いずれ訊いてみてもいいかもしれない。
そんなことを密かに考えていると、ウォルドが手紙を投げ渡してきた。
「急ぎじゃないが、しっかり決めとけよ。ジタン、お前さんが自分で選択することだ」
俺は手紙を開いて再び読む。
そこには勇者の近況が記されていた。
魔王が死んだというのに、色々と忙しいらしい。
特に王国の派閥や陰謀関連でまだ働く必要があるそうだ。
しばらく再会することはないだろう。
だからこそ、新たな勇者の誕生を求めているのかもしれなかった。
(俺が勇者か)
ふと右腕が疼いた気がした。
包帯をゆっくりと剥がしていくと、漆黒の甲殻に包まれた腕が現れた。
手の甲には、なぜか魔王の核が埋まっている。
心臓に押し付けて消滅させたはずなのに、ここまで移動した末に定着したらしい。
よく分からないが、そうとしか思えない状態である。
とりあえずいきなり暴走するような気配はない。
それでも安心できるわけがなかった。
俺は頬の引き攣りを自覚しながらぼやく。
「……勇者っていうより魔王だろ、これ」
「問題ねぇさ。あっちの勇者だって死霊術師なんだ。新しい勇者の右手が魔王でも大したことじゃない」
「いやいや大したことだろうがよ」
気楽に言うウォルドに、俺は突っ込みを入れざるを得なかった。
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