モスコミュールとジントニック
店へと入り準備を始める。
『まゆみは適当に座っといて』
「はぁーい」
準備と言ってもカウンターを拭いて音楽を流すくらいだけどな。
すぐに準備が終わる。
『なんか飲むかー?』
「飲む飲む! モスコミュールちょうだい!」
『お前最近モスコ好きだなー。
いつもそれじゃねーかよ』
「だって美味しいんだもん」
『まぁ、いいけどよ、俺も飲もうっと』
俺はモスコミュールとジントニックを作る
『どうぞー』
「ありがとー、乾杯しよっ!」
『なにに?』
「今宵の夜に乾杯! なーんてねっ」
『なんか平成っぽくてダサくていいな、それにしよう』
【 カンッ! 】
俺のジントニックとまゆみのモスコミュールのグラスの重なり合う音が店に響いた。
プルルルルル
「ちょっとごめんね」
「もしもしー
はい、
はい、
えっ?
はい、
すぐ行きます」
『どうした?』
「また出たんだって、行かなきゃ」
『またか、最近多いな。
危なそうならすぐ連絡しろよ、すぐ行くからよ』
「うん、危なそうならすぐ連絡するね、ありがと」
まゆみはモスコミュールをすぐに口に含み、すぐに店を後にした。
****
ワタシは迎えの車に乗り込みノートPCを開いて現場へと向かった。
最近巷で噂になってる暴走アンドロイドを止めるためだ。
【アンドロイド鎮圧セキュリティ】
通称【ACS】
これがワタシの職場だ。
実際には直線距離で300m以内まで近づきハッキングを試みる。
そこまで危険ではない。
コーイチの所属は
【アンドロイド制圧セキュリティ】
ワタシ達ACSが失敗したら、今度は武力で強制的に制圧する部隊だ。
通称【ASS】
実際にASSまで出動するのは年に数回。
だから、コーイチは暇な時間を持て余して店をやっている。
アンドロイドが一般化して十数年。
ウィルスなのかハッキングなのか、それともアンドロイド自体の意思なのかはわからない。
ただ、暴走するアンドロイドが後を絶たない。
この一週間で5件目だ
昔は年に5件くらいだったのに……
何かが起きているのは間違いない……
目標から280m地点に到着しました。
「ちょっと待ってやってみる。
ここじゃダメ、干渉物が多くて捕捉出来ない。他に良いところ探して!」
ワタシは車に位置情報を送る。
「ここは? ここに行って!」
そこは目標から190m地点です。
目標から近過ぎます。
逃走経路も確保出来ません。
「じゃここはどう? ここなら離れてる」
ワタシはとあるビルの屋上を指差した。
目標から225m。
高さ516m。
安全マージンはクリアしています。
「ここに行ってみて、いけるかもしれない」
****
チロチロリーン!!
昔ながらのチャイムの音が広がる。
『いらっしゃーい』
おいーっす、コーイチ!
『どうもーっす』
カウンターの端の席に腰掛ける。
どうすっかなー、ビールかな
『なんのビールっすか?』
コロナだな!
プシュッ!
瓶の上にカットしたライムを刺す。
この飲み方は昭和から続いてるらしい。
ひょっとしてお酒の飲み方って世の中で一番変わらないものなんじゃないか?
『どうぞー』
なんかまた出たんだってな……
『そうみたいっすね』
俺はもう現場離れた身だから詳しいことは分からないけどよ、だんだん凶暴化してないかアイツら
『それは俺も気になってるっす。
ACSにも武器携行指示は出てるみたいですけどね』
『そんなのは何かあった時に当局がちゃんと対応してましたアピールってだけでしょうからねー』
『本当にACSのこと思うなら俺たちASSも初めから動かした方がいいんだ絶対に』
まぁそのうち同時作戦になるんだろうな、今はまだその時じゃない、ACSで対応可能案件が殆どってことだろ?
『でも、直近2件はASSに出動要請かかってるんですよ……』
2件連続でか?
『はい……』
それはどうやって止めた?
『破壊です。どうにもなりませんでした』
レベル5か?
『そうなりますね』
何か起きてるな……
『それは多分ACS、ASSの連中も、上の連中も気づいてます。
ただ、まだ何かまでは』
情報統制入ってるのか
『多分入ってると思います』
『アンドロイドがASS出動レベルの暴走ってだけでも世の中ひっくり返るのに、それが【レベル5】ですからね』
だよな、大混乱だ
****
「そこで待ってて、試してみる」
ワタシはビルの屋上の隅に腰掛けてターゲット捕捉を試みる。
(いける!)
ガッーッ、こちら211、ターゲット捕捉完了
了解、他の隊員が位置に着くまで待機しろ。
了解、このまま待機する
(パッと見はレベル2か3かな、コーイチ呼ぶまでもないかな)
アンドロイドはその危険度によってレベル別に分けられる。
ガー、こちら415、ターゲット捕捉完了
次から次と捕捉完了の無線が飛んでくる。
この時代に無線?
反対に安全らしいよ、5万通りの周波数をその都度変えられるから、まぁ結局アナログ管理が安全って結論になるのはどこの企業でも同じようなもんね……
最後に他の隊員の捕捉完了の無線が入る。
【ハッキング開始】
一斉に隊員がそれぞれの場所でハッキングを開始する。
「はぁー、めんどくさい、たかがハッキングするのにAI使えないなんて」
まぁそのお陰で物理ハッカーは仕事にあぶれないんだけどね。
ノートPCにハッキングコードを打ち込んでいく。
キィィーーーッン、
まただ、
また。
偏頭痛ってやつかな?
ストレス? 笑
最近物理ハッキングするといつもこうだ。
終わったら病院行こうかな……
次々にそれぞれのハッキングコードが入力されていく。
今回はやけにスムーズだな……
その時けたたましいアラートと共にPCに表示される。
Code C、CodeD発生
緊急退避
(ヤバいっ!)
急いで車へと戻る。
「出て!」
緊急退避モード。
安全圏へ離脱する。
同時にASSに緊急要請。
ピーピーピー
CodeE発生
ピーピー
緊急離脱
CodeC.D.E同時発生
次々に車のフロントガラスに緊急アラートが表示される。
物凄い勢いでワタシはビルの屋上から離脱した。




