ダッジ煩い!!
2065年3月26日
「良かったーー 退院おめでとう!!」
『別に大したことねーよ!』
「何言ってるのよ! 二週間も寝たきりで! このまま目醒さなかったらどうしようかと思っちゃったよーー」
『まぁなー、起きたら記憶喪失とかな…』
「やめてよー 変な冗談! でもコーイチが生きてくれてさえいればいいかなー❤️」
『バッカじゃねーの! なんだそれ!』
「でも、起きてくれて良かったよーー」
『そんなやわじゃねーよ』
『でよ、今度、海でも行かねーか?』
「どうしたの急に、」
『ダッジ乗ったことないよな、まゆみ?』
「当たり前でしょー あんなの任務じゃないと乗らないじゃん!」
『でよ、ダッジで行っちゃうか!!!』
「バッカじゃないの!」
『ある意味うちら世界を救ったんだぞ! 多分! 許してくれるだろ? 多分!!』
「お巡りさんに追われるよ? ニュースとかになっちゃうよ?」
『ニュースになっちゃおうぜ! うちらが救いましたってよ!!』
コーイチが笑っている。
『つーか、その前に俺のダッジなら逃げれるしな! つーか、なんならまゆみもハッキングしちゃえばいいしな!!』
「バッカじゃないの!! 大騒ぎになっちゃうよ? 知らないよ? でもちょっと楽しそう❤️」
『だろー! パンのキューバサンドでも買ってよ! ダッジで湘南ドライブ! 捕まるか捕まらないかのチキンレースドライブ!』
「うーーん、行っちゃおうか!!」
****
2065年3月28日
【パン】
店内には、焼きたてのパンの香りが広がっていた。
テイクアウトカウンターの前には、何人かの客が並んでいる。
俺とまゆみも、その列に並んでいた。
『まゆみーー 甘いものは何にする?』
「えぇー、決まってるよ。ドーナツみたいなケーキ❤️」
『自分で注文しろよ!』
「コンッ、コンッ……ゴホン、ゴホン!!」
『おい、大丈夫か?』
「ごめん、咳が出て注文できないかも…」
『ったく、分かったよ……』
順番が来る。
カウンターの向こうから、店員が笑顔で声をかけてくる。
ご注文はお決まりですか?
『キューバサンド二個、アイスコーヒー、ガムシロだけ、アイスカフェオレ、あと……』
俺はメニューを見る。
『ドーナツみたいなケーキを二つ』
はい?
店員が一瞬、手を止めた。
申し訳ありません、確認させてください
「キューバサンド二つ、アイスコーヒー、ガムシロ入り一つ、アイスカフェオレ一つ、ドーナツ二つ」
以上でよろしいでしょうか?
『いや、あの……最後のだけ』
『ドーナツみたいなケーキを二つ』
……?
『なんか真ん中に穴空いてて、ドーナツみたいな甘いやつありましたよね?』
隣を見る。
まゆみが口元を押さえている。
肩が小さく震えている。
クスクスと楽しそうに笑っていた。
こっちは必死だって言うのに。
あー、はい。ございます
店員もようやく分かったようだ。
そちらを二つでよろしいでしょうか?
『お願いします』
かしこまりました。出来上がるまで、こちらでお待ちください
俺たちはカウンターの横へ移動する。
まゆみはまだ笑っている。
『そんなに面白いかよ……』
そう言うと、
まゆみはさらに笑った。
目には、涙まで溜まっている。
俺は呆れながら、まゆみを見る。
『……ったく』
まゆみは涙を拭いながら、腕を組んでくる。
その勢いのまま頬っぺたにキスをしてきた。
『……ったく』
****
ヴォォーーーッン!
ヴォォーーーッン!!
ヴォォーーーーーッン!!!!
エンジン音がガレージいっぱいに響く。
「何これ、近くで聞くとこんなに煩いの?」
『これぞ、V8サウンド! これぞアメリカンマッスル! これぞスーパーチャージャー!』
コーイチは、待ってましたと言わんばかりに説明を始める。
エンジンがどうとか。音がどうとか。スーパーチャージャーがどうとか。
ワタシには何が何だか分からない。
でも、
そんなことを子供みたいな目で話しているコーイチを見るのが好きだった……
「へぇーー、凄いんだね❤️」
『だろー! すげーんだよ! ちょっと運転席乗ってみるか?』
全く興味ない。
死ぬほど興味ない。
でも、合わせてあげよ❤️
「えぇーー、いいの? 乗っても!」
『しょうがねーなー。少しだけだぞ』
「やったーー❤️」
ワタシは運転席に座る。
……。
「座りにくっ!!!」
「シート硬っ!!! サイテーーー」
『アクセルふかしてみろよ!!!!』
コーイチが、キラキラした目でこっちを見る。
そんな顔されたら、断れない。
ワタシはアクセルを踏む。
ヴォォーーーッン!
ヴォォーーーッン!!
……煩い。
ただ、ただ、煩い。
『どうだ? スゲーーーだろ!!??』
「うん。なんかモンスターみたい!」
『だろーー! やっぱV8だよな! すげーよな!』
コーイチは、本当に嬉しそうに笑っている。
ワタシはよく分からない。
でも、
こういうコーイチを見るのは、好きだった……




