↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/6

⑤ヒロシ、拘束!


 その後もヒロシは、手に負えないほど暴れたが、やがて取り押さえる事に成功した。


 玄関の隅で埃をかぶっていた、二つの縄跳びで、ヒロシの体をグルグル巻きにしたのだ。



 ちなみに、この縄跳びは祐介と凛が、小学生の頃に使っていたものだ。


 まさか、こんなふうに役立つとは。


 兎にも角にも、これでヒロシはもう動けない。



 さらに、ヒロシの口をタオルで縛ると、彼はフガフガと唸るだけになった。



「……噛まれてないよな? 凛」


 ふと祐介が、凛に問いかけた。


 ゾンビに噛まれると、ゾンビウイルスに感染するかもしれない。


 祐介は、それを心配したのだ。



「大丈夫、噛まれてないよ。それより、ヒロシどうする?」


「うーん、こんな奴がいたら、生活出来ないしな。もういっそ、ゾンビですって公表しようか。テレビの取材が殺到して、お金を稼げるかもしれないぞ!」


「そんなのイヤ! クラスのみんなから、気持ち悪がられちゃうよ」



 祐介は、しかめっ面で再び、うーんと唸った。


 こめかみをポリポリと掻きながら「じゃあ、畑に埋めるか?」と、提案する。



「畑?」


「母さんが、野菜を作るために買った、農地があるじゃないか。今はヒロシが、ビールのつまみにと、枝豆を植えているんだけど、そこにヒロシを埋めようぜ。埋めた後、枝豆の葉っぱや蔓を上に置いて、カムフラージュすれば、分からないだろう」



「……殺して、埋めるの?」


「殺すっていうか、すでに死んでるけどな。ゾンビの弱点は頭だから、頭をカチ割れば、やっつけられるよ。どのゾンビ映画でも、そうだったから」



 またヒロシが、暴れ出した。


 首を左右に振り、ウガウガと唸っている。


 そんなヒロシを押さえつけながら、凛が言った。



「でも、ヒロシがいなくなったら、さっきのおじさんが探すよ。きっと警察も来るよ」


「大丈夫。酔っ払って外に飛び出し、そのまま行方不明になったっていう事にするよ。ヒロシが暴れていたのは事実だからな。そのおじさんが証人だよ」




 凛は感心したように、何度も頷いた。


「お兄ちゃん、頭いいね!」


 妹に褒められた裕介は、得意げな顔をした。


 しかし、そんな会話の最中も、ヒロシは延々と暴れ続けている。



 凛は、苛立った声を出した。


「じゃあ早く、ヒロシをやっつけてよ! うるさいから」


「ここじゃあ駄目だ。ヒロシの太った体を、二人で運ぶのは大変だぞ。畑まで歩かせた方が、どう考えても楽だろ?」


「あ、そっか、そうだね!」



 さっそく兄妹は、ヒロシを起き上がらせた。


 外は肌寒いので、祐介は上着を着る。


 ヒロシには、黒いロングコートを羽織らせた。




 だが玄関を出たところで、祐介が困惑した顔で振り返った。


「畑は、すぐそこだけど、それまでに人に顔を見られたら困るな」


「全員、マスクすれば? もう十一月だし、おかしくないでしょ?」


「おっ、それはナイスアイデアだな」


 祐介は、凛から差し出されたマスクを着けた。



 さらに凛は、玄関棚に置いてあった個包装のマスク二枚を、自分とヒロシに着けた。


「よし、俺がヒロシを引っ張って先頭を行くから、お前は後ろからヒロシを押してくれ」


「うん、分かった」





◇ ◇ ◇





 暗い夜道を進む、三つの影。


 風に転がる落ち葉を踏みしめながら、祐介は街灯の光に近寄らないよう、注意して進んだ。



 途中、何度かアツシが暴れたが、その度に祐介と凛が、蹴って殴って強制的に進ませた。





 畑は、すぐに見えてきた。


 約五メートル四方の、狭い土地だ。



 周りには他人の畑があり、近くに家はない。


 ここまで来るのに、誰ともすれ違っていない。


 それはとても幸運だったが、ここにきて、祐介の具合が悪くなる。



「……なあ凛、このマスク変じゃないか? ずっと思ってたんだけど、煙草とニンニクの匂いがするぞ」


「あ、それ玄関に落ちてたマスク。あのおじさんが着けてたやつだよ」


「おぶぉええ……!」


 祐介は、嘔吐しそうになった。


 急いでマスクを取ると、地面に叩きつける。



「お前、ふざけんなっ! おっさんが着けてたマスクを渡してくるか、普通!」


「だって、マスク二枚しかなかったんだから、しょうがないよ。誰かが、あのマスクをしないと」


「だったら、ヒロシでいいだろ! ゾンビなんだから、気にしないだろ!」


「あ、言われてみれば、そうだねー」



「……ふざけんなよ、まったく!」


 ペッペッと、何度も唾を吐く祐介。




 その時、遠くで車の走る音がした。


 続けて、犬の遠吠えも聴こえると、祐介は焦りを覚えた。



 いつまでも、気持ち悪がってはいられないのだ。


 誰かに目撃される前に、事を済まさなければ。



 祐介は気を取り直し、少し離れた茂みの中にある大きな木に、ヒロシを縛り付けた。


 ヒロシに着せていたロングコートを脱がし、それを使って動けないようにしたのだ。



 ヒロシの見張りは、凛に任せる事にして、祐介は土を掘るためのスコップを探した。


 街灯の弱い明かりが、それらしき農具を照らしている。


「お、スコップ発見!」



 祐介は、誰かの畑に放置されていた、長さ一メートル程の鉄製のスコップを見つけた。


 ヒヤリと冷たいスコップを両手で持ち上げると、枝豆を植えている畑へと戻った。




 畑の枝豆は、辺り一面、乱雑に生えていた。


 ちゃんと畝にしていないからだ。


 ヒロシらしい、いい加減な植え方だが、それがかえって好都合。


 人一人なら、隠せるだろう。


 祐介は力を込めて、中央付近をスコップで掘り始めた。





つづく……

(次回、完結)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。