③ヒロシ、復活!
「そうだ! 復活ソングを聴かせようよ!」
また凛が、馬鹿な事を言い始めた。
いい加減にしてくれ、と祐介はきつく目を閉じた。
「ねえ、『愛しい人よグッドモーニング』って歌、知ってる?」
「……知らないし、知りたくもない」
脱力した祐介が、投げやりに答える。
対照的に凛は、目をらんらんとさせていた。
制服のポケットから、スマートフォンを取り出すと、画面をタップし始めた。
その歌を、聴かせるつもりなのだろう。
「今、大人気のガールズバンドだよ。イカレポンチーズっていうバンド。この『愛しい人よグッドモーニング』が凄い話題になってるの。死んだハムスターが、この歌を聴いて生き返ったって、ネットニュースになったんだから!」
「……それ、ハムスター死んでなかったんだよ。ビックリして動かなくなったのを、死んだと思ったんだよ。そしたら、また動きだしたんじゃないの? その時、たまたまテレビでその歌が流れてたとか……どうせ、そんなところだろ」
「とにかく、やる価値はあるよ」
「ねえよ、時間と電波の無駄! そもそもヒロシは、ハムスターじゃないぞ」
しかし何を言っても、聞く耳を持たない凛。
さっそく、音楽を再生した。
スマートフォンから、軽快なイントロが流れ出すと、パンチの効いた女性ボーカルが歌い始める。
(Aメロ)
誰かが食べた うどんの残り汁
それが私の主食なの
幼稚園児にカツアゲされる俺様
逃げると三輪車で轢かれ 意識不明の重体
(Bメロ)
ねえ あたいのメガネ 何処にある?
今 バキッと何かを踏んでしまったわ
マジでキレる五秒前
コロス、ウメル、クサル、ルルル
(サビ)
ラブ・イズ・オーバー 愛のはじまり
アイル・キル・ユー 長生きしてね
お願い起きて 起きろボケ クソ野郎
愛しい人よグッドモーニング
「何だよ、このふざけた歌詞は。こんなものが流行るとか、世も末だな」
祐介が呆れかえっていると、ウウゥ……と不気味な声がした。
祐介が怪訝な顔で、凛を見た。
「変な声を出すなよ、凛。気持ち悪いな」
「私、何も言ってないよ」
凛が音楽を止める。
今度はハッキリと、ウウゥ……と、地を這うような呻き声が聴こえた。
祐介と凛は、同時にゴクリと唾を飲み、ヒロシの顔を覗き込んだ。
すると突然、ヒロシの目が、カッと見開いた。
「うわっ、ビックリした! ヒロシが生き返った!」
「ほらねっ! やっぱり、この歌は復活ソングなんだよ!」
「とにかく良かったぁ!」
祐介と凛は、心から歓喜した。
しかし、ヒロシの様子が、どうもおかしい。
身体を小刻みに震わせている。
目は充血し、口から泡を吹いているではないか。
「うがぁぁぁ!」
突然、ヒロシが叫びながら、凛に襲いかかった。
「キャア!」
悲鳴を上げて転がる凛に、ヒロシは馬乗りになって、嚙みつこうとした。
慌てて、ヒロシを押しのける祐介。
「やめろよ、ヒロシ!」
「ヒロシ、どうしちゃったの?」
二人は後ずさりして、ヒロシから距離をとった。
「むがぁぁぁ!」
また襲いかかってくる。
完全に、狂人と化していた。
恐怖を感じた祐介と凛は、近くにあるトイレへと逃げ込んだ。
そこは便器が一つある、狭い個室。
祐介は素早く、内側の鍵を閉めた。
ドスン! ドスン!
外からヒロシが、開けろと言わんばかりに、何度もドアを叩いてきた。
つづく……




