②ヒロシ、無反応!
なんて事をするんだ、このクソガキ……。
股間を蹴られた祐介は、怒りと憎しみに満ちた顔で、凛を見上げた。
そんな兄を、仁王立ちで見下ろす凛。
「ほらっ、早く人工呼吸して!」
「……クソッ、分かったよ!」
涙目の祐介は、仕方なく人工呼吸をする事にした。
また凛に股間を蹴られたら、堪らないからだ。
祐介は昔、高校の授業で教わった人工呼吸のやり方を、思い返した。
「や……やるぞ」
深呼吸をして、覚悟を決める。
祐介はヒロシの鼻を摘んで、口に何度も息を送り込んだ。
ヒロシの口臭は、この世のものとは思えないほど酷かった。
例えるなら、腐ったミカンと、腐った牛乳と、腐ったミンチを混ぜ合わせたような悪臭だ。
それは、汚物以上の汚物。
地獄以上の地獄だ。
こんな拷問が、この世に存在するのか。
裕介は気絶そうになった。
それでも我慢して、人工呼吸を続けた。
その様子を見ていた凛は、引きつった顔で口元を押さえた。
……見てはいけない、目の毒だ、視力が下がる、眼球が腐る、網膜が破裂する。
凛は、そう自分に言い聞かせたが、やはり気になって見てしまう。
その度に「うわぁ……最悪、汚い……」と、何度も小声を漏らした。
祐介は息を送るだけではなく、心臓マッサージも試みた。
だが、とうとうヒロシが目覚める事はなかった。
しばらく繰り返した後、ついに祐介に限界がくる。
「おえぇぇぇぇぇ……!! も、も、もう無理!!」
祐介は気持ち悪くて、仰向けで倒れた。
咳や吐き気、めまい、頭痛、しびれ、悪寒、呼吸困難……ありとあらゆる体の不調に襲われた。
祐介は、このまま自分も死ぬんじゃないかとさえ思った。
その時、「そうだ!」と、凛が大きな声を出した。
また、何か思いついた様だ。
キッチンへと走った。
戻って来ると、手には小瓶が握られている。
具合の悪い祐介が、半身を起こした。
「……なんだよ、それ?」
「これ、ヒロシが買ってた精力増強剤」
「はあっ? そんな物で、人が生き返るわけないだろ!」
「でも、ここ見てよ!」
凛が、小瓶に貼られたシールを指差す。
「蘇る、みなぎる、奮い立つ。マカの力で復活、最強の皇帝降臨だって!」
「いやいや、無理だって! 皇帝って誰だよ!」
しかし、一度思いついたら、絶対にやらないと気が済まないのが凛。
蓋を取ると、瓶をヒロシの口にねじ込んだ。
「おいおい、溢れてるだけじゃないか! やめろって」
祐介が、ヒロシの口から小瓶を取り出した時、凛が驚いた顔をした。
「あれっ? 今、ヒロシが目を開けたよ!」
慌てて祐介が、ヒロシの顔を確認する。
しっかり閉じている。
「開いてねえよ! お前の願望だろ?」
「あれ、おかしいな……」
おかしいのは、お前の頭だ。
祐介は、そう言いたかった。
つづく……




