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15.公爵令嬢8

※下に簡易登場人物説明を入れておきます。

 月日が経ち、ルーファスとフェリシアが入学して来た。コフィ伯爵子息ジョシュアもだ。

 リディアの学院生活は様変わりした。

 校内を歩いていると、自分の名を呼んで駆け寄って来る者ができたのだ。


「リディア!」

「フェリシア。ルーファスとジョシュアもいっしょの授業でしたのね」

「はい。姉上は今からカフェテリアへ?」

「ええ、そうなの」

 そんなふうにしていっしょにランチをする者ができたのだ。


 物おじしないフェリシアはすぐにクラスで馴染み、それどころかリーダーとして統率するようになっているらしい。

 今や、そのうつくしさから、リディアとともにプレスコット学院の美の双璧と称されるほどである。

 ルーファスはライオネルと双璧と言われている。

 同学年に入学した第二王子アルバートは影が薄いことこの上ない。一応、彼もまた留学生を加えて四天王と言われているのだが、アルバートとしては不本意なことである。


 なお、ジョシュアは傍観者に徹している。こういうのは傍から眺めているのが最も面白いという意見の持ち主で、幼いころからフェリシアとルーファスに振り回されていることから身についた処世術である。


 ルーファスはジョシュアに友好的だが、リディアが彼と仲良くしそうなときには間に入る。それでいて、ルーファスはフェリシアと仲が良く、なにかにつけ話しているのを見かける。

 リディアはなんだか、それが面白くない。


「我がままでしょうか」

 今ではすっかりお馴染みとなった魔導書への問いかけだ。

『素直に言ってみたら? こういうのはね、勢いで、えいやっと言ってしまうのがイイのよ!』という答えが返って来た。ちなみに、「えいやっ」のところで文字が特大になった。だから、ついつい笑ってしまう。それで肩の力が抜ける。


 ルーファスには言いにくいので、まずはフェリシアに伝えた。

 友だちを取られると思って焼きもちを焼いたというと、フェリシアはほほを染めてリディアに抱き着いた。

「わたくしは一生リディアの親友ですわ!」

『やっぱりね! サイコー! 楽しいわ。そのままヒロイン攻略を進めるわよ!』

 魔導書はなにやらとても楽しそうな雰囲気だったが、リディアはなかなかルーファスに気持ちを伝えるきっかけを掴めずにいた。


『ううん、どうなのかしらね。アンタが片鱗でも見せればルーファスもガッとイッちゃうんでしょうけれど、でも、そうなるとジェイラスとギルバートがねえ。聖獣たちもいるしねえ』

 リディアにはよく分からない事柄を綴る文字は躍っているかのようだった。

『少なくともルーファスが卒業して結婚するまではオアズケでしょうけれどね!』

「ルーファスが結婚」

 魔導書の躍る文字を読み取ったリディアは思わず復唱した。

 とたんに、腹の底がずんと重くなる。


 ルーファスは今や、身長が伸び、とうにリディアの背丈を越した。フェアクロフ公爵家に来てほどなくして鍛錬をしていたから、身体つきもしっかりしている。聞くところによると、武芸にも秀で、馬術にも優れているのだという。それでいて、黒髪に琥珀色の瞳はどこか神秘的な印象で、人を寄せ付けない雰囲気がそれを増幅させている。


 学力においては突出しており、ジョシュアなど、ルーファスは学院で学ぶことはないのではないかと言っていた。

「リディア嬢といっしょに学院生活を送りたいから入学しただけじゃないかな」

「まさか」

 ジョシュアはよくそんなふうに冗談口を言ってはリディアを笑わせてくれるのだ。


 そんなあらゆる面で優れたルーファスであるから、引く手あまただろう。現に、茶会やガーデンパーティでは多くの子女たちから声を掛けられている。令嬢たちの熱意はリディアを気後れさせた。魔導書が言う婚活の場は戦場という言葉が脳裏によみがえる。


 そんなふうに多くの好意を寄せられても、ルーファスは淡々と儀礼的に返し、リディアのエスコートに徹し、なにかと気遣う。突き刺さる令嬢からの羨望の眼差しに、リディアはもういい加減、義弟を解放しなければならないのではないかと思わずにはいられなかった。自分はきっともう結婚相手を見つけることはないだろう。ならば、早々に引っ込んで、ルーファスを自由にしてやるべきではないかと思い始めていた。


 それこそ、彼を独占しているのは、我がままではないかと思えてならなかったのだ。

 なのに、フェリシアと仲良くしていて嫉妬したなんて、言えるはずもない。


「姉上? ご気分でもお悪いのですか?」

 沈んだ表情をすぐに読み取って気遣うのはいつだってルーファスだ。

「いいえ、ちょっと考えごとをしていただけなの」

 微笑んでみせても、ルーファスはなかなかごまかされてはくれない。

「馬車を呼びますか?」

 休むとか救護室へ行くというのではなく、帰宅しようかとルーファスは問う。

 ここで頷けば、ルーファスもいっしょに帰ってしまう。すでに経験した事柄に、リディアは慌てて否定する。

「大丈夫よ」

「しかし、」

 ルーファスはリディアの片手を両手で包み込む。そうするために近づいた美貌に、リディアは落ち着かない気分になる。


「女性にしつこくするのは、いただけないな」

 ふたりに、笑いを含んだ声がかけられた。

「わたしは姉上を心配しているだけだ」

 振り向いたルーファスの表情は一変して、冷淡なものだった。冷たい視線を向けられても、ランドルフ・ダヴェンポートは肩をすくめるだけで、面白そうな顔つきのままだ。

 ダヴェンポート国からやって来た留学生であり、第四王子だ。金髪に紫色の瞳が、褐色の肌と相まってエキゾチックな魅力にあふれている。


 彼の後からやって来たのは、同国からの留学生アシュリー・イーズテイルだ。ランドルフと同じような褐色の肌に水色の瞳をしており、顎のところで切りそろえた金茶色の髪がさらさらであり、多くの子女がうらやむほどだ。

 ふたりには常に影のように付き添う護衛がおり、名をアドルフ・グレネルという。


 同学年に第二王子がおり、ふたつ上に王太子がいるにもかかわらず、「王宮に滞在しているからそちらで会える」と言って、なにかとルーファスやフェリシアと行動を共にすることが多い。勢い、リディアも彼らと会話するようになった。


 ジョシュアなどは、学院での美と知の粋が集まって来ていると思える。ランドルフに対しては、「あの」ルーファスをからかうことができることに、感心してもいた。


「やあ、こんにちは、リディア嬢」

「ごきげんよう、殿下」

「いやだなあ、ランドルフと呼んでくださいと言っているのに。ああ、もちろん、分かっていますよ。貴女の狭量な義弟がそれを許さないのですよね」

 そうなのだ。ランドルフは真っ向からルーファスを突いてみせるのだ。実に大した胆力の持ち主である。ルーファスからしてみれば、リディアの名前を呼ぶ異性というのだけでも許し難いのである。確かに、狭量極まりない。


「ふふ。ルーファスに歯に衣着せぬ物言いをされるご友人ができて、祝着ですわ」

 ため息交じりで笑うリディアに、その場に居合わせた者たちはぽかんと見とれた。まず、その可憐さうつくしさに目を奪われ、一足飛びに物事の核心に触れた聡明さに感嘆した。


「まことに、エントウィッスルの聖女はおうつくしく、かつ英明でいらっしゃる」

 そう言うアシュリーはダヴェンポートの宰相の子息であり、幼いころから英才教育を施されている。その能力を買われて王子の同行者として留学を許可された。その手腕を発揮して、アシュリーはリディアから一定の距離を取りつつ、人となりを見極めようとしていた。その結果が今発言した称賛である。

 ダヴェンポートにおいても、四頭もの聖獣に愛される聖女というのは興味津々で、その実態を把握し報告することが最優先任務となっている。


「さあ、そろそろカフェテリアへ移動しましょう」

 脱線しがちなこの七人の集団の統率を取るのは、はやりフェリシアだった。



※簡易登場人物説明


・リディア・フェアクロフ:フェアクロフ公爵令嬢。セシリアとジェイラスの娘。

・ルーファス・フェアクロフ:フェアクロフ公爵家に引き取られた遠縁。後に養子に。

・フェリシア・エヴァレット:公爵令嬢。リディアとルーファスの従兄弟。

・ジョシュア・コフィ:コフィ伯爵子息。リディアとルーファスの幼馴染。

・ランドルフ・ダヴェンポート:ダヴェンポートの第四王子。留学生。

・アシュリー・イーズテイル:ダヴェンポートの侯爵子息。留学生。

・アドルフ・グレネル:ランドルフの護衛。


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― 新着の感想 ―
[一言] フェリシアの経験値が知りたいところですね…!彼女だけ一人で高そう。
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