第3話 神将
ローディス教国の軍事の権限は「三星」と呼ばれる三人の将軍が握っている。
大将軍カミュ・アークス卿をはじめとし、前将軍ジュヌーン・アパタイザ卿、後将軍ラシュディ・オヴェリス卿が近隣の諸国にも畏怖をもって呼ばれる「三星」である。
ちなみに私の異名である「奴隷将軍」とは当然に官職名ではない。
私の官職名は「燕将軍」。これは私がこの国に来てから作られたものである。私はいくら戦場で功を立てようとその功を階級の上昇によって報われる事はない。元奴隷の私には今日のような金銭の褒美しかないのである。
それを不満には思わないが、差別を禁じる教義を信じているはずのこの国でここまでの差別がある事に私は落胆を隠せない。
物思いにふけりながら廊下を歩いていた私は、不意に肩を叩かれはっとした。
「クラン!帰ってたのね。」
「シェリー様!」
私の曇っていた心は一瞬で晴れに変った。
この女性は大将軍カミュ卿の妹君シェリー・アークス様だ。私はこの人のすべてを包み込むような優しい瞳が好きだ。
「また功をあげたらしいわね。怪我はなかった?」
18 歳の私より二つ年上のシェリー様はいつもの優しい微笑を私にくれる。
「はい!」
「兄が言ってたわ。あなたがいてくれるから自分の苦労が半分ですむって。」
私の率いる部隊は一応形式上大将軍カミュ卿の配下ということになっている。もっとも装備も軽装備しか与えられていない奴隷軍はほぼ独立した大系をとっているのだが・・・
「もったいないお言葉です。」
私がそういった時うわさの人物が現れた。
24歳の若さで大将軍にのぼりつめ、それから今日に至るまでの二年間、強国ローディスを支え続けている人物、大将軍カミュ卿。
戦場における彼は未だ無敗である。それゆえにいつしかついた異名が「神将カミュ」
「兄様!」
シェリー様が輝くような笑顔を浮かべていった。
「クランが帰ってきたわ。」
「ああ」
カミュ卿は妹君と全く同じ色艶の髪をかきあげながら私に向き直った。
「ごくろうだったな、クラン」
そう言うとカミュ卿は優しく笑った。
「また金貨の山でも拝領してきたか?」
カミュ卿の言葉に私は苦笑して頷いた。私が拝領した金貨のほとんどは部下にいつも分けているのだが、これではまるで傭兵だ。そのことを一度シェリー様にこぼしてしまったことがあるが、どうやら伝わったらしい。
シェリー様がにこにこしているのが妙に気にかかる。
「それではお前の功に報いたことにはなるまい。お前は傭兵ではなくこの国の将軍なのだからな。」
そういうとカミュ卿は自分が佩いていた剣を外した。
「確かお前の剣は長剣だったな。これは王都一の業師に頼んでうってもらった長剣だ。」
私は目の前に差し出された長剣をどうしていいかわからずただ見つめるばかりだった。
そんな私にシェリー様が優しく言ってくれた。
「兄からの気持ちよ。いつも補佐してくれるあなたへの・・・」
私は胸が熱くなった。この国に来たことを少なからず失望していたのだが、私を元奴隷としてではなく一人の人間として見てくれる人たちがここにいる。私はこの人たちを守るためなら命をかける・・・この時私の決心が芽生えた・・・




