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第4話 伝説

私は夢を見ている・・

私は大きな鉄の檻の中にいる。コロシアムにいる大勢の人間たちが血走った目で私を見ている。

「殺せ!」「犯れ!」

悪意に満ちた罵声に私の全身がすくむ。若い女の奴隷を無残に犯し殺すという見世物・・・私はそこにいた。



「!!」

私は寝台から跳ね起きた。汗で服がべっとりと肌にまとわりつき不快な気分を増幅させる。

「クランの乱・・・か」

私は額にそっと指を押し当て目を閉じた。私は気分を落ち着ける時必ずこうする。

私の運命を変えたあの人から教わったやり方だ。私の脳裏でまた過去がフラッシュバックを始めた。



「出場おめでとう」

嘲笑うかのように私に告げ立ち去っていく獄吏。コロシアムでの狂気の見世物に出されると知り絶望にうめく私・・・

「これが私の運命なの?」

「運命ではない、選択だ」

私はしゃがえれた声を耳にした。顔を上げると片目のつぶれた老人の奴隷がこっちを見ていた。

「運命は変らんがこいつは運命じゃない」

老人はそう言うと獄吏が私に渡した”出場書”をつついた。

「この見世物にでる女奴隷は相手を倒せば特約で自由の身になれる。」

老人の言葉に私はかぶりを振った。

「無理よ、私人を殺したくないし相手は戦に出たれっきとした兵士よ?」

私の言葉に老人は低い声で笑った。

「じゃあ死ぬだけだ。それは運命ではなくお前の選択だ。」

老人は静かに言った。

「ただ、死という選択をしないのならお前に力をやろう。」

「え?」

私は老人の眼光に未来への光を見たような気がした。どうせ死ぬならこの老人の言う事に耳を傾けてみようと私はあの時決意した。

老人は低い声で語りだした。

「わしらは労働が終わると鎖をつけられたままでこの地下に入れられ、明日の朝までは誰も来ない。」

「その間にお前に相手を倒す力をやろう。」

「力?」

首をかしげる私に老人は低く笑って言った。

「わしらには唯一武器が与えられている。」

老人は自分の腕の鎖を鳴らしてみせた。


老人が私に教えたのは異国の奴隷たちが唯一主人の暴虐に抵抗するために使ったという鉄鎖術だった。

コロシアム出場までに残された時間は一週間にすぎず私は必死に老人から学んだ。

自分が生きるために人を殺す方法を学んだ。そして忘れられないあの日、コロシアム出場の日がやってきた。

「大丈夫だ。」檻を連れ出される寸前に老人が私の肩をつかんで言った。

「お前の瞳には力がある。だからお前はここでは死なない。それこそが運命だ。」

「あなたは一体・・」

私がずっと聞きたかった問いに老人は低く笑って答えた。

「これでも異国で将軍と呼ばれる身分だったよ。祖国に見放されるまではな。」

戦争奴隷だった老人は開いているほうの目をすっと細めた。

「名前は?」

「クラン・・姓はないけど」

「わしはクラウザ・ロックハートだ。」

「時間だ、来い!!」

獄吏が私の腕を強く引っ張り私と私に命をくれた師との最後の出会いは終わった。


それから私は師の教えどおりに闘った。私の悲鳴と血を期待していた観客たちが見たものは、私の鎖に顔を打ち砕かれ地面に倒れ伏す兵士の姿だった。

勝利した私を待つものは自由という名の栄光のはずだった。しかし檻から出された私を待っていたものは剣を抜き殺意に満ちた多数の兵士たちだった。

「よくもヴェルナーを殺したな!」

「あいつはいい奴だったんだ!」

身勝手以外なにものでもない怒りの叫びとともに私はまた命の危機に見舞われた。

兵士たちの斬撃を必死にかわす私の脳裏に師の言葉がよぎる。

「お前は死なない、それこそが運命だ。」と。

そうだ!私は死なない!私は身を翻すと奴隷たちが入れられいてる檻へと飛びついた。

「聞いて!」

怯えた目でこちらを見る奴隷たちに私は叫んだ。

「私たちはここで死んじゃいけない!運命はそういってる!あなたたちは、ここで死ぬのを待っていてはいけない!」

私は兵士の死体の腰から剣を抜き放ち檻の鍵を壊した。

「さぁ!闘うのよ!」

私の叫びに奴隷たちの喚声がこだました。

もとより反撃など予期していなかったコロシアムの守備兵たちはあきれる程もろく私たちの反乱に屈した。

「これからどうする!?」

サームという名前の奴隷に聞かれ私はずっと考えていた事を口にした。

「ローディス教国へ行く!あそこの国教は人種差別を禁じている!きっと私たちを自由にしてくれる!」


希望に満ちた私には悲しい別れが待っていた。

「どうして?」

腹部から多量の血を流し倒れていた師を私は夢中で抱き起こした。

「クランか・・」

老人はうっすらと目を開けた。

「お前の光はわしが見たよりももっと大きかったようだな。よくぞ立ち向かったな。」

「死なないで。あなたも一緒に行こう?ローディスへ!」

未練がましい私の言葉を断ち切るように師は言った。

「わしはもう死ぬ。」

師は私の手を握り締めた。

「すぐに行け。鎮圧の軍隊が来る前に!戦い方は・・・わかるな??」

師はそう言うと私の目を見て優しく微笑んだ。

「お前に会えてくだらん人生の終わりを有意義に出来た。礼を言う。」

それだけ言うと師は目を閉じ・・・逝った。

「私こそあなたに会えてよかった。」

私は立ちあがった。師はこの状況を予期していたのだろうか、私には鉄鎖術だけでなく師から教わった兵法がある。

これでみんなを守る。それが私の役目・・・

それからの私たちの行動は迅速だった。コロシアム守備兵の装備を得た私たちは港町につくまでに討伐軍を何度も撃破した。それは列国も注目する事となり私たちのローディス教国への亡命は比較的好意的に対応された。これが列国にも有名なクランの乱である。



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