エピローグ 自由
私は夢を見ている・・・・
あの日の夢・・・・
闘技場の歓声の元私は暗闇から押し出された・・・・
両手には忌まわしい鎖・・・・
だが・・・・・
急に腕が軽くなった・・・
ガチャンと音を立てて足元に落ちた鎖を呆然と見つめ・・・・
「クラン・・・」
私を呼ぶ声で私は我にかえった。
「ルイ様・・・・」
私に声をかけたのはルイ・ロックハート卿だった。
「いよいよだね。」
「はい・・・・」
「大丈夫・・・・」
ルイ様は静かに私の肩に手を置いた。
「君しかいない。みんながこの決定を喜んでいるんだ」
「・・・・・・・」
「僕もずっと君のそばにいて君を支えるから」
「よかったのですか?祖国を離れるなんて・・・・」
「君だってそうしたじゃないか・・・・そしてこれは僕が望んだことなんだ」
ルイ様は優しく笑って言うと私を促しドアを開いた。
「・・・・・・・」
私はドアのそばの鏡を見た。
ローディス教の最高位をあらわす真紅の法衣・・・・
その法衣をまとった私がこっちを見ている。
王都ザナドュの広場に出た私を出迎えたのは割れんばかりの歓声だった。
広場に集まっているのはローディス教国の兵士たち、そして民衆の代表者たち・・・
私のそばに来て私の手をとったのはミスカ卿だった。
ミスカ卿に誘われ、私は中央に進み出た。
横にはライア様が微笑みながら立っている。
「・・・・・・・私は・・・・・」
私の言葉に皆が静まりかえった。
「与えられた立場に値する人間なのか・・・・?」
静かに周りを見渡した。
カミュ様、シェリー様、ラシュディ様、サーム、レイチェル、ジャック・・・・
すぐ後ろにルイ様・・・・
そばにはライア様、そしてミスカ様・・・・
「私は今まで一番下の立場にいました。そこで私は毎日のように言われなき理由で命を落としていく者たちを見ていました・・・」
私は静かに言葉を重ねた。
「人として生まれたのになぜ・・・?そんな疑問すら持たせてももらえない・・・・そんな立場の人たちは確かにこの国にもたくさんいました。そして誰もそれを疑問に思うこともなかった」
「・・・・・・」
広場に集まった全員が水をうったように静まり返り私の言葉に耳を傾けている。
「それは誰の罪でもありません。ただ・・・・私たちは無知だった。自分たちがしていることのおろかさに気づいてもいなかった。気づいていても気づかないふりをしていた。」
私の心が熱くなった。もう迷いはない・・・・・
「でも・・・・今日からそれは変わるのです。私たちはもう自分たちが犯してきた罪から目を背けたりしない。もう無駄な命が落とされることがあってはならない・・・・」
私は広場に集まった全員を見回した。
「新しい時代がきました・・・・・これよりすべての『奴隷』と呼ばれる人たちの労役義務をなくしその存在自体を認めません。ローディス教の教義にのっとり私たちすべては平等になるのです・・・!」
私は言葉に力をこめた。
「私・・・・新教皇クラン・ロックハートの名において・・・・今日から新しいローディス教国の歴史が始まります。皆さんの力を貸してください!みんなで新しい時代を築くのです・・・!」
私の言葉に全員が割れんばかりの歓声を送った。
私は大きく息を吐き出し、一礼するとライア様の下に歩み寄った。
「新しい時代の始まりに私たちは頼もしい盟友を得ることができました。」
私はライア様の手をとり広場の全員に見えるように大きく掲げた。
「ハイランド帝国とローディス教国はこれより同盟国としてともに同じ道を歩みます・・・!」
歓声の中私はライア様を見上げた。
エメラルド色の瞳も私を見つめていた。
「有難うクラン・・・・・君がこの役を引き受けてくれなかったらどうしても政治的な要素を排除できないところだった」
「まだ迷いはあります・・・・私なんかでいいのかと・・・・」
「君はハイランドにとってもローディスにとっても新しい幕開けの象徴なんだ。異を唱えるものはいなかった」
ライア様は静かに微笑んで見せた。
「大将軍としてカミュ殿がいる・・・政策については君と彼で協議して進めていけば問題はない」
ライア様は後ろにいるミスカ様を振り返った。
「彼女もここに残りたそうだけど・・・・彼女が残るとどうしてもハイランドの政治干渉という色合いがぬけないからね」
「兄上・・・・・!」
ミスカ様が恨めしげにライア様をにらんで見せた。
「ルイがうらやましい・・・」
ミスカ様はやさしく私の両手をとった。
「また・・・・会いに来るから・・・!」
「はい・・・!」
私は力強く頷いた。
「教皇クラン!」
「教皇クラン!」
広場の鳴り止まない歓声の中私は空を見上げ大きく息を吸い込んだ。
やらなくてはいけないことが山積みだ。
奴隷たちは解放された。
でも彼らは支配され続けた歴史ゆえに生きるすべを知らない。
彼らに職を与え、生きていくすべを教えていかなくてはならない。
多分私一人では何もできないだろう。
でも私はもう一人じゃない・・・・たくさんの仲間たちがいる!
「クラン!」
「クラン!!」
王都ザナドュにいつまでも私の名前が響き渡った・・・・・・・
ローディス教国 新教皇クラン・ロックハートはその後さまざまな改革を推し進めた。
解放された奴隷たち向けの学問所の設立
商業技術所の設立
屯田制による土地分譲・・・・
数え切れないその政策はすべて成功を収め、人々はクランをローディス史上最高の教皇・・・・
『解放者クラン』として名を歴史に刻んだ・・・・




