第21話 陥落
ジュヌーンの足音が近づいてくる。
「奴隷はおとなしくしてればよかったのだ・・・!分をわきまえろあの世でな!」
ジュヌーンの罵声が聞こえた。
これでいい・・・・私はなすべきことをすべてなしおえた。
ジュヌーンはどの道ここから生きて脱出はできない。
ハイランド軍の手か、味方のローディス軍の手か・・・彼を待つのは死あるのみ。
私は静かにその時を待った。
しかし・・・・・
シュッっと空を切り裂いて一本の槍がジュヌーンの足元に突き立った。
「・・・・・・・」
私は目を開けわずかに体を起こした。
「感心しないね・・・・今の言葉は・・・・」
槍を投げた主がさわやかな声で言った。
その声に聞き覚えがあった。
「貴様!!何者だ!邪魔するとただでおかんぞ!?」
ジュヌーンが咆哮をあげる。
「君こそせめて最期くらいわきまえたらどうだい?」
声の主はルイ・ロックハート・・・
ハイランド軍との緒戦で出会った青年・・・・私に鉄鎖術を教えたクラウザ・ロックハートの息子・・・
そしてハイランド軍の赤鳳師団の先鋒・・・・
ルイは静かに馬から下りると私のそばにしゃがみこんだ。
ジュヌーンの周りの兵はすべて駆逐され、ルイの配下の兵で人垣が作られている。
「クラン・・・大丈夫かい?」
「・・・・・・ルイ・・・・様・・・・」
ルイの手が私の髪をなでるのを私は朦朧とした意識の中で感じた。
「もういい・・・あとは僕らに任せて」
ルイは静かに立ち上がるとジュヌーンをにらみつけた。
「僕が相手になろう。この子に指一本触れさせないよ?」
「ほざけ若造!」
ジュヌーンは槍を風車のように回しルイに打ちかかろうとした。
その時だった。
「ルイ・・・!」
澄み渡った声がその動きを止めた。
「あなたの手を煩わせるまでもありません・・・」
ルイが静かに言った。
「ミスカ様・・・」
現れたのは赤鳳師団長、ミスカ卿だった。
「ミスカ・・・様・・・・」
「クラン・・・・」
ミスカ卿は静かに私に微笑みかけると無造作にジュヌーンに近づいた。
「さぁ・・・・私の首を狙っていたんだろう?」
「・・・・・・・」
ミスカ卿の瞳に雷光のような激しい光が宿るのを私は息を呑んで見つめた。
「とってみよ・・・とれるものなら・・・」
気おされたジュヌーンが一歩一歩後ずさる。そのくらいにミスカ卿の体全身から信じられないほどの殺気が放射されていた・・・
ジュヌーンはさっと向きを変えるとルイの配下の兵が作った人垣を突破し、王都に向けて遁走していった。
「・・・・・・・」
私の肩からジュヌーンの槍が引き抜かれた。
血止めが塗りこまれ、私の肩を誰かが手際よく包帯でまいてくれているのに気づいた。
「・・・・・・・あ・・・・」
私の手当てをしてくれているのはミスカ卿だった。
「あ・・・・・・」
あまりの恐れ多さに私は体をよじって逃れようとした。しかしミスカ卿の抱擁がそれを許さなかった。
「もう大丈夫。あなたは守るべきものをすべて守った・・・・」
ミスカ卿の涙が私のほほを濡らした。
「あなたも見に行こう。あなたが切り開いた道を・・・・」
そういうとミスカ卿は私を抱き上げ馬に乗せ、体越しに手綱を握った。
「王都に向け進軍する!ジュヌーン・アパタイザを追うぞ!」
赤鳳師団が進軍を開始した。
遁走するジュヌーンとその配下の兵たちは王都の北門を目指している。
レイチェルの部隊が城壁から迎撃の態勢を整えているのが私からも見える。
レイチェルたちの部隊だけなら心配はないのだが、私が説得して戻らせた残りの兵たちがレイチェルの指揮に従ってジュヌーンを迎撃してくれるか・・・それだけが心配だった。
しかし・・・・
驚くほど統率の取れた動きで城壁からジュヌーンの部隊に向けて一斉に弓矢の掃射が行われた。
「なにをしておる!門をあけよ!俺はこの王都の統治者だぞ!!!」
ジュヌーンが大声で叫んだ。
その声に答えるかのように一人の人物が城壁の上に姿をあらわした。
「あ・・・・・・!!」
私は肩の傷の痛みも忘れて体を乗り出した。
城壁の上にたっているのは、ローディス教国三星の長、カミュ・アークス卿だった。
「馬鹿な!お前は死んだはずだ!!」
「死んだのは別人・・・・人を殺そうとするのなら死体の特徴をよくみることだな。顔がわからないほど切り刻まれた死体を見て安心した卿の負けだ」
カミュ様の声が静かに響いた。
「死ぬがいい・・・・ローディスにこれほどの混乱をもたらした罪は重い。」
カミュ卿の合図の下、呆然と立ち尽くしたジュヌーンの体に無数の矢がつきたった・・・
私はただその壮絶な姿を見つめているしかできなかった・・・
そしてザナドュを混乱の極地に陥れたジュヌーン・アパタイザは死亡し、王都は陥落した・・・・




