第20話 終焉
騒ぎが広がる中私は王宮に急いだ。
謁見の間に入るとジュヌーンが激怒して部下を怒鳴り散らしているところだった。
「貴様・・・!!」
ジュヌーンが血走った目で私をにらんだ。
「ついにやったな!?」
「何を言ってるの・・・?」
私は平静を装って問い返そうとしたが最後まで言葉が言えなかった。
ジュヌーンがこちらに突進し私を剣の鞘で殴り飛ばしたからだ。
その信じられない膂力で私の体は壁まで吹っ飛んだ。
激痛が体を走り私はうめいた。
「北門に集合したお前の兵2万がそのまま城外に命令なしに布陣した!しかもハイランド軍に背を向けて城に向かって布陣している!」
ジュヌーンは私の胸の上に足をどかりと乗せ重みをかけた。
メリメリ・・・私の体が悲鳴を上げる・・・・
「それより少し前!シェリーの監禁場所から火事が起こりシェリーが行方不明だ!」
私の喉元にジュヌーンの剣先がぴたりとあてられた。
「これはお前の仕業じゃないとしたらなんだ??」
「・・・・・・」
私はジュヌーンをにらみつけた。
「馬鹿な男ね!」
「なに!?」
「仮に私がこのすべてに絡んでいるとして・・!!なんで戻ってくる必要がある!?」
私はジュヌーンの目をにらみつけ叫んだ。
「殺すなら殺してみたら!?何度も言うけど私はハイランド兵を撃退した!私は王都の兵の希望なのよ!」
「・・・・・・・・」
ジュヌーンは私から足をどけると海が見える側の窓際へ歩み寄った。
「海上封鎖が完了する前に脱出するか・・・・」
ジュヌーンの口から信じられない言葉がもれた。彼の単純な頭脳を持ってしてももう勝算はないと踏んだか・・・でもそんなことはさせない・・・
「そんなことをしても・・・」
私は起き上がり口の中にたまった血を吐き出した。
「あなたは追われて殺される。誰もあなたに味方しない。覚えてる?あなたは反乱者なのよ。力を示せない反乱者は殺されるだけ」
「・・・・・・力だと?」
「そう。私がやってみせたようにあなたもハイランド軍を撃破するの、それも正面からね」
「・・・・・・・」
「そうすれば周辺諸侯はいっきにあなたに味方して形勢は逆転する」
ジュヌーンの目が泳いだ。
そう、彼は兵法でハイランド軍を打ち破ることができないのを知っている。
「大丈夫、部隊の指揮は私が取ってあげる。その間にあなたは敵の総大将と一騎打ちするの」
「一騎打ちか!」
ジュヌーンは血走った目で声を上ずらせた。
かかった・・・・・!
「すぐに出陣よ。騒ぎが大きくなる前に残った兵3万をすべて出陣させるの」
「王都が空になるぞ!?」
「問題ない。あなたが敵の総大将の首を上げたらすぐに王都に戻るんだから・・・・」
私の言葉にジュヌーンは機械的にうなづくだけだった。
もう正常な判断能力を失っている。あとは王都に残った兵をいかに多く助けるか・・・
それだけだ。
出撃の合図が響き渡る中、私はジュヌーンに馬を近づけた。
「わき目も振らずまっすぐ進むことよ。ミスカ卿の首を上げた時点で知らせて。それまで私が持ちこたえてみせるから」
「分かった」
ジュヌーンは血走った目をぎらぎらさせながら鉄槍をにぎりなおした。
「突撃!!」
王都の北門が突如開け放たれ、正面に布陣していたハイランド軍赤鳳師団中核にむけてジュヌーンひきいる3万の兵が突撃を開始した。
それ以前に城外に出て布陣していたレイチェルが指揮を執る2万の兵は鮮やかにジュヌーン軍との接触を避け2キロメタールほどを一気に退いた。
レイチェルの軍にはわき目も振らずジュヌーンを先頭に3万の兵は突進を続けた。
「・・・・・・・・」
そう、それでいい・・・どんどんがら空きになった王都から離れていく。
ハイランド軍側の陣がさっと開き迎撃の体制を整えているのが見える。
「思惑通りですね」
「!!」
気がつくといつの間にか私のそばに一人の将校が馬を併走させている。兜の中に見えた目、そしてその声は間違いなくマリアンのものだった。
「レイチェル部隊へ伝令に走りましょうか?」
「お願い、あなたなら信頼できるわ」
私から詳細の口上を聞くこともなくマリアンは走り去り、私もかまわず彼女を見送った。
「!!」
私は手を上げ軍の進軍を徐々に緩め始めた。
ジュヌーンとジュヌーンの親衛隊約4000と残る部隊との間に徐々に距離が出来始める。
縫矢型の陣形が崩れ、先端の部分だけがやや間延びしたかたちでハイランド軍先鋒との衝突がはじまった。
「うおぉぉおおお!」
獣のような咆哮とともにジュヌーンの槍がうなりをあげた。
さすがに個々の戦闘能力ではローディス一と言われたジュヌーンの剛勇ぶりはすさまじいの一言に尽きた。
一瞬で何人ものハイランド兵がその槍先に餌食となった。
私はジュヌーン親衛隊を残して徐々に兵を方円形にしじりじりと王都に向けて退かせた。
その間隙を見逃すことなくハイランド軍がそこに割り込んできた。
結果ジュヌーンは自らの親衛隊4000とともにハイランドの重囲に陥ることになった。
「・・・・・・・」
私はそばにいた副官をみやった。
「退却よ。戦いは終わった。王都に退却しなさい」
「し・・・しかし・・・!」
副官はジュヌーンの手勢を見やった。
「この戦いにはもともと正義なんかなかった。私たちの手で終わらせるの。王都に戻ったらレイチェル部隊の指揮下に入りなさい、いいわね!」
遠く離れた王都の北門付近には先ほど見事な退却を見せたレイチェル部隊が再集結している。マリアンの伝令通りがら空きなった王都に入りジュヌーンを締め出そうとしている。
「し・・・しかしそんなことをしたらこの国は・・・!」
「怖がらないで・・・・」
私は副官の顔を見て笑って見せた。
「新しい時代が来るだけよ。反乱の上に積み上げた国なんかに未来はもともとなかっただけよ」
「はっ・・・!」
副官は私の顔をまじまじと見てから、敬礼をすると部隊を指揮し退却を始めた。
「・・・・・!」
ハイランド軍の重囲に陥ってからもジュヌーンは猛獣のように暴れ周り続けた。
彼は生き残った手勢をすべて一点に集めなんと包囲網を突破したのだ。
「き・・・・貴様ぁ!」
重囲を突破したジュヌーンは私の前に阿修羅のように立ちふさがった。
「こ・・・これが狙いか・・・・!」
王都にはすでにレイチェル部隊2万と脱出を完了した部隊が合流し、門を固くとざしているのがわかる。
明らかにジュヌーンを迎え入れる意思がないのが見て取れる。
「言ったでしょ?あの反乱を起こした時点であなたと私は死ぬことが決まっていたのよ」
私は剣を抜いた。
私の武力では今のジュヌーン相手でも勝つことは出来ないだろう。
ただ私もシェリー様を救うためとはいえこの反乱に名を連ねた。ここで幕を下ろすのが私なりの仕上げだった・・・
「貴様だけは殺してやる!」
ジュヌーンの槍がうなりをあげて私を襲った。刃鳴りが連鎖し、焦げ付く臭いがあたりに立ち込める。
ジュヌーンは相当力を使い果たしていたが、その執念は私の武力さえも上回っていた。
「!!」
ジュヌーンの槍をうけとめきれず私の手から剣がはじきとんだ。
私は夢中で左腕を打ち振り、鉄鎖を繰り出した。狙いあやまたず鉄鎖はジュヌーンの腕と槍にからみついた。
「ど・・・奴隷風情が・・・!!!!」
ジュヌーンは鎖が絡みついた槍をそのまま私に投げつけた。私はわずかに体をそらすことしかできず、肩をつらぬかれ馬から落ちた。
痛みはもはや感じなかった・・・これで終わる。
私の心にあったのは恐怖でも悲しみでもなく・・・・安堵だった。
私にとどめをさすべく近づいてくるジュヌーンの足音が聞こえる。
私は目を閉じた・・・




