第19話 奪還
時計台に近づく途中で何人ものジュヌーン配下の兵士にあったが怪しまれることはなかった。
頭までかぶったボロボロのフード、顔に塗った薄墨、皮肉なことながら奴隷としてのおどおどした態度なら私は自然に演じることができる。
時計台の下にやってきた私は、草陰にうずくまり息を潜めた。
あれだけの腕を持つ女だ、私を見つけるのは造作もないだろう。
そしてほどなく女は現れた。
「お待たせしました・・・」
「あなたはいったい誰なの・・・?」
「私の名前はマリアン・・・・ジュヌーン配下で身辺警護の任を最近与えられました」
「!!」
罠か!?
瞬時に私の顔に浮かんだ警戒の色を見て女・・・マリアンは首を振って見せた。
「私はジュヌーンの味方ではありません。ある方の命令であなたの計画をお助けするようにと申し付かっております」
「ある方・・・?」
私の問いかけには答えずマリアンは立ち上がった。
「行きましょう」
マリアンは私を促し堂々と時計台のほうへ歩き出した。
これには私も驚いたが、フードをかぶりなおしマリアンの後に続いた。
「ご苦労様です」
マリアンの問いかけに入り口を守っていたジュヌーンの兵は敬礼で答えた。
後ろに続く召使の姿をした私には一瞥もくれなかった。
この国の奴隷をさげすむ染み付いた姿勢が、逆に今は私に味方をしている・・・
「あのリンという少女・・・」
塔の階段をあがりながらマリアンがつぶやいた。
「相当の手練でした・・・塔までの同道も私は許されませんでしたのであなたのお陰で彼女を倒し、私がこの役目をもらうことが出来ました」
「でもあなたなら・・・」
「ええ、私ならリンを殺せましたよ」
マリアンは首をすくめこともなげに言った。
「ただ万が一殺し損ねて逃げられた場合、計画はふいになります。そう思って迷っていた時に・・・」
「私がリンに襲われて、彼女に隙ができた・・・・」
私はだいたいの事情を理解した。
マリアンはシェリー様を助けようとしていることは間違いなさそうだ。
「!!」
マリアンはある扉の前で立ち止まった。
「ここでこの方をお救いし、あなたの指揮下にある精兵2万とともに城外に脱出する・・・そのことで王都の反乱軍の兵の数は半減、ハイランド軍を撃退した2万が離脱したことで士気も一気に落ちる・・・」
マリアンは私を振り返って言った。
「それがあなたの狙いですね?」
「・・・・・・」
私は言葉に詰まった。
これほどまでに狙いを見抜いているのはなぜ?
マリアンに命令を出している人物が私の思考を完全に見抜いているとでも・・・?
「お手伝いいたします」
マリアンはそういいながら扉の鍵を開けた。
「!!」
中にはやつれ果てたシェリー様がいた。
「シェリー様!」
「クラン・・・!?」
シェリー様の目に涙がこぼれおちた。
「馬鹿・・・!私なんかのためにこんな危ないことして!」
「シェリー様・・・・」
私のために泣いてくれている人がいる・・・
絶対にこの人だけは守る・・・!
「さぁ・・・私の背中に」
私は衰弱しきったシェリー様を背中に背負った。
「外の兵は片付けておきました。さぁ・・・おはやく」
マリアンが背中から声をかける。
「ごめんね・・・・クラン」
シェリー様が私の背中でつぶやいた。
そのまま意識を失ったようだ。相当衰弱しているようだ・・・
「時計台に火をかけて。ここで火があがれば私の屋敷からも見える!」
「はい・・・」
マリアンがシェリー様の背中から大きなマントをかぶせた。
「お気をつけて」
「あなたも・・・・」
私はマリアンに微笑みかけた。
「あとでゆっくり・・・・話を聞かせてね?」
私の笑顔にマリアンは困ったように笑って見せた。
「お互い生きておれば・・・」
そういうとマリアンは風のように走り去った・・・
塔の外にでてしばらくして、塔から火の手があがった。
炎は天を焦がすほどに立ち上り、瞬く間にジュヌーン配下の兵たちが現れた。
私は必死に彼らをさけ、屋敷のほうに急いだ。
しかし・・・・
「待て!そこの女!」
一団の兵たちが私の前に立ちふさがった。
「背負っているものはなんだ!」
兵の隊長らしき男が馬を進ませて問いかけてきた。
「わ・・・・私は奴隷の召使でございます。背中のものは私の仲間でございました。さきほど死にましたためご主人より捨ててくるようにと・・・」
「見せてみろ」
「・・・・・・・・」
私の背筋に冷たい汗が流れた。
私の剣は怪しまれるため屋敷においてきてある。武器は腕に巻きつけた鉄鎖のみ。
シェリー様をおろして戦うには分が悪すぎる。
「貴様・・・怪しいやつ」
兵の一人が私を剣の鞘で小突いた。
よろめいた私のフードがずれ、私の顔があらわになった。
「お・・・・お前は・・・」
兵の隊長の顔に驚愕の色が浮かんだ。
「どれいしょ・・・・・」
しかし彼は最後までその言葉を言うことが出来なかった。
シュッ!と鋭い音を立てて飛来した矢が彼の背中に突き刺さり、胸まで鏃が飛び出した。
続けさまに飛来した矢は私を取り囲んでいた兵たちを正確にすべて射落としてしまった。
「大将!」
現れたのはレイチェルだった。
「レイチェル!シェリー様をお願い!」
私は必死にシェリー様をレイチェルの馬に押し上げた。
「兵たちは!?」
「召集をかけ北門付近に集合しつつあります。ジュヌーンにも気づかれていますが騒ぎを見ての集合だと伝えてあります。時間を稼げていますので本格的な戦闘になる前に離脱できます!」
「上出来よ!」
私はレイチェルに微笑みかけた。
「私の服と剣、持ってきてくれた?」
「はい、ここに!」
「ありがとう。あなたもすぐに北門に行って!私もすぐに行くから」
「はい!」
シェリー様を馬に乗せ走り去るレイチェルを見送り、私は手早く軍装を身につけ剣を背負った。
脱出についてはレイチェルなら問題なくやり遂げるだろう。
私は最後の仕上げにかかる・・・・・
王都をハイランド軍の手に渡すのだ・・・・




