第8話 え?!~まさかの展開なんですけど?!~
カーテンの隙間から朝日が差し込む。
隆司は、ゆっくりと目を開けた。
「ん……朝か。今、何時だ?」
枕元の時計に目をやると、時刻は午前七時二十五分。
「おっと、もうこんな時間か。……あれ? 美咲が起こしに来ないな」
いつもなら、妹の美咲が部屋のドアをノックしてくる頃だ。
「昨日の撮影で疲れたのか。読者モデルも楽じゃないってことだな。よし、今日は兄貴が起こしに行ってやるか!」
隆司は制服に着替える前に、美咲の部屋へと向かった。
コンコン。
「美咲ー? 起きてるかー?」
返事はない。
「……まさか、まだ寝てるのか?」
そっとドアを開けると、案の定、美咲は布団の中ですやすやと眠っていた。
「おいおい、こりゃ相当お疲れのようだな」
隆司は起こそうと近づいた。
ところが、そこで思わず足を止める。
美咲は寝返りを打った拍子に掛け布団がずれてしまったらしく、寝間着の上着だけを着た状態で、下半身は布団に隠れていた。
「……っ!?」
隆司は反射的に視線をそらした。
「お、おいおいおい……! 朝っぱらから何だ、この不意打ちは!」
昨日の撮影で見せていたモデルらしい華やかな姿とは違う、無防備な寝顔。
普段は元気いっぱいに兄を振り回している妹が、今は安心しきって眠っている。
そのギャップに、隆司の心臓が妙に跳ねた。
「……いや、待て。落ち着け、隆司。これは妹だ。いつも一緒にいる、あの美咲だ」
自分に言い聞かせるものの、さっきから妙に意識してしまう。
なんと言っても、下は下着姿だったのだ。
「昨日、撮影の話をあんなに楽しそうにしてたからな……。って、何を考えてるんだ、俺は!」
隆司は頭を抱えた。
そのとき、机の上に置かれたスケッチブックが目に入った。
「……いや、待てよ。昨日の撮影で美咲がやってたポーズ、イラストの参考になりそうなんだよな。いやいや、今はそれどころじゃない!」
創作脳が動き出しかけたところで、隆司は自分の額を軽く叩いた。
不覚にも、欲情と共に同人誌のネタになると思ってしまった隆司。
「とにかく、風邪をひかれたら困る。布団をかけて、さっさと退散だ」
バレないように、そっと布団を掛け直そうとした、その瞬間――。
「んん……」
「おっ、起きるか?」
「……ん? おにいちゃん?」
美咲が目を開けた。
「お、おはよう、美咲。いや、その……布団がずれてたからな。風邪をひくといけないと思って」
「…………」
美咲は状況を理解した途端、顔を真っ赤にした。
「えっ!? お、おにいちゃん!? なんで部屋にいるの!?」
「いや、起こしに来たんだって! いつもならお前が起こしに来る時間だろ!」
「そ、それはそうだけど! ちょっと待って、今はダメ! 早く出てって!」
「お、おう! 悪かった!」
隆司は慌てて部屋を出た。
バタン!
廊下に出た隆司は、壁に背中を預けて深く息を吐いた。
「……朝から心臓に悪すぎるだろ。まさかの展開なんですけど……」
部屋の中から美咲の声が飛んできた。
「おにいちゃん!今の絶対に忘れてね!エッチー!」
「忘れろって言われても、あの慌てっぷりは忘れられんだろ……って、聞こえてたら面倒だな」
隆司は咳払いをして、何事もなかったかのように自室へ戻った。
「よし。今のは記憶の引き出しに封印だ。鍵をかけて、さらに南京錠を三つ。これでよし!」
もちろん、そんな都合よく記憶が消えるはずもなかった。
数分後。
制服に着替えた隆司が食卓につくと、美咲も少し遅れてやってきた。
「おはよう、おにいちゃん」
「お、おう。おはよう」
一瞬、気まずい沈黙が流れる。
しかし、美咲はすぐにいつもの調子を取り戻した。
「昨日の撮影、すっごく楽しかったんだよ! 衣装もいろいろ着せてもらったし、メイクさんにもアドバイスしてもらえたの!」
「へえ。やっぱりプロは違うか?」
「うん! ほんの少し変えるだけで、全然印象が変わるんだよ!」
美咲は身振り手振りを交えて説明する。
その楽しそうな様子を見て、隆司も自然と笑顔になった。
「そりゃよかったな。昨日の疲れも吹き飛んだか?」
「うん! ……あっ、でも今朝のことは別だからね!」
「まだ引きずってるのかよ!?」
「当たり前でしょ!」
二人の声が食卓に響く。
結局、家を出る頃には、いつもの兄妹に戻っていた。
……少なくとも、表面上は。
通学路を歩く隆司と美咲。
美咲は上機嫌で、なぜか隆司の腕に自分の腕を絡めてきた。
……胸が当たるのを何故か意識してしまう。
「おいおい、どうした? 今日はやけにご機嫌じゃないか」
「えへへ。昨日のことを思い出してたの!」
「撮影のことか?」
「うん!」
美咲は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔を見て、隆司は小さく笑う。
「まあ、楽しめたなら何よりだ」
やがて、前方に杏子と三紀子の姿が見えてきた。
「杏子先輩! 三紀子先輩! おはようございます!」
美咲は隆司の腕を離すと、二人のもとへ小走りで駆け寄った。
「あら、美咲ちゃん。おはよう!」
「おはようございますぅ~。昨日の撮影、楽しかったですねぇ~」
杏子と美咲は、昨日の撮影について盛り上がり始めた。
「私はメイクが一番楽しかったわね。やっぱりプロはすごいわ。ちょっとしたコツで、あんなに印象が変わるんだもの」
「ですよね! 私も教えてもらったんです!」
「へえ……メイクか。イラストの色塗りにも応用できそうだな」
隆司が創作のヒントを得ていると、隣を歩く三紀子のカバンが目に入った。
……異様に膨らんでいる。
「おい、三紀子」
「はいぃ~?」
「なんでカバンがそんなにパンパンなんだ?」
「えへへ……わかっちゃいますぅ~?」
「いや、わかるだろ! カバンが悲鳴を上げてるぞ!」
「今日は実習が多いって先生がおっしゃっていたのでぇ~」
「教科書を入れるにしても限度があるわ!」
隆司がツッコむと、杏子が不思議そうに尋ねた。
「三紀子ちゃん、そんなに教材が必要なの?」
「ええ、まあ……必要なものがいろいろとぉ~」
三紀子はカバンを抱きしめた。
その表情には、妙な使命感が漂っている。
隆司はため息をついた。
「……そのカバンの中身が全部教材だったら、俺は明日から人間を信じられなくなるぞ」
「ひどいですぅ~!」
そんなやり取りをしているうちに、前方から大きな荷物を背負った蓮司が歩いてきた。
「おう、蓮司! おはよう!」
「よぉ。朝から騒がしいな、お前らは」
蓮司の荷物を見た隆司が、口笛を吹く。
「すげえ荷物だな。剣道の防具か?」
「ああ。対抗戦も近いからな。後輩の指導もある」
「相変わらず熱心だな。沖田総司を目指して天然理心流でも極めるつもりか?」
「剣道と天然理心流を一緒にするな。そもそも俺は沖田総司本人じゃねえぞ」
「いや、知ってるわ!」
蓮司は肩をすくめた。
「俺より強い奴なんていくらでもいる。特に九州の強豪なんか、相当なもんだぞ」
「謙遜するねえ。中学から負け知らずの男が言うと説得力が違うわ」
隆司は、蓮司が剣道でも喧嘩でも負けたところをほとんど見たことがない。
とはいえ、本人は決して自分の強さを誇らない。
「……おっと、話してる場合じゃないな。校門の前、見てみろ」
校門の前には、教育担当の教師が立っていた。
生徒のカバンを確認しているらしい。
その姿を見た瞬間、三紀子の肩がピクリと跳ねた。
隆司はその反応を見逃さなかった。
「……なるほどな」
「な、何がですかぁ~?」
「いや、別に?」
隆司は三紀子の肩を軽く叩くと、一歩前に出た。
「先生、おはようございます。今日は持ち物検査ですか?」
「ああ、秋月生徒会長。今日は実習が多いからな。授業に関係のないものを持ち込んでいないか確認している」
「そうなんですね。僕たちは登校中、生徒会の打ち合わせについて話していたところなんです」
教師は一同を見回した。
「なるほど。君たちなら問題ないだろう」
そのとき、蓮司が隆司の耳元でささやいた。
「俺に任せろ。お前らは先に行け」
蓮司は教師に向き直ると、爽やかな笑顔を浮かべた。
「先生、今日は生徒会の打ち合わせもあるそうですね。よろしければ、チャイムが鳴るまでこちらのお手伝いをしても構いませんか?」
「おお、森崎か。風紀委員としても助かる。頼めるか?」
「もちろんです」
こうして、蓮司だけが校門に残ることになった。
隆司たちはそのまま校内へ。
「助かったな、三紀子」
「た、助かりましたぁ~……」
「ところで、俺のカバンにも人に見られたら困るものが入ってるんだよな」
「えっ!?」
「エロい同人誌。バレたら生徒会長の座が危うい」
「りゅ、隆司君も持ってるんですかぁ~!?」
「お前、声がでかい!」
「す、すみませんんん!」
隆司は額を押さえた。
朝から騒動の連続である。
そして、この日はまだ始まったばかりだった。
教室に入ってしばらくすると、予鈴が鳴った。
担任が教壇に立ち、いつもとは違う連絡を始める。
「今日は午前中、一斉学力テストを行う。各教科の試験を続けて実施するので、気を抜かないように」
教室の空気が変わった。
名門校であるこの学校では、定期的に学力の総合順位が掲示される。
「うへえ……テストかよ」
誰かが小さくうめいた。
しかし、隆司は机に頬杖をついたまま、さほど気にしていない。
「まあ、テストなら気楽なもんだ。さっさと終わらせて、CGの下絵でも描くか」
隣の席の生徒が思わず振り向いた。
「秋月、お前、余裕だな……」
「いや、時間を有効活用したいだけだぞ?」
「それを余裕って言うんだよ!」
ホームルームが終わり、最初の試験が始まった。
問題用紙を受け取った隆司は、さっと全体を確認する。
「……ふむ」
ペンが動き始めた。
その速度は異様だった。
一方、杏子も黙々と問題を解いている。
三紀子は数学の問題を見た瞬間、少しだけ表情を明るくした。
「……ここは、こうですねぇ~」
彼女もまた、迷いなく解答を書き込んでいく。
やがて十五分ほどが経過した頃。
隆司、杏子、三紀子の三人は、すでに解答を終えていた。
「……早すぎるだろ、お前ら」
近くの席から小声が飛んでくる。
隆司は答案を見直しながら、肩をすくめた。
「いや、見直しも大事だぞ。焦って間違えたら意味がないからな」
……その言葉には、妙な説得力があった。
こうして午前中の試験は続いていった。
休み時間。
杏子はノートを開いて何かを確認している。
三紀子はいつもどおり表情を崩しながら怪しげな本を読んでいて時おり変な笑い声が聞こえてくる。
隆司は答案の裏に、次に描くCG集の構図を小さくスケッチしている。
そこへ、蓮司からメッセージが届いた。
『今日の昼休み、風紀委員のことで相談がある。時間あるか?』
隆司は短く返信した。
『了解。昼休みに生徒会室でな』
蓮司は剣道部の主将であると同時に、風紀委員としても活動している。
最近は後輩の指導だけでなく、校内の規律に関する相談も増えていた。
隆司は生徒会長として、その話を聞くつもりだった。
そして、すべての試験が終了した。
「よっしゃ、終わった!」
教室のあちこちから安堵の声が上がる。
答案用紙は学級委員長の三紀子が職員室へ運ぶことになっていた。
「うわぁ……この量、ひとりじゃ無理ですぅ~!」
「そりゃそうだろ。よし、俺も手伝うよ」
「私も手伝うわ。三紀子ちゃん、三等分しましょう」
隆司と杏子が手を貸し、答案用紙を分担して運ぶ。
「ありがとうございますぅ~! お二人とも、なんて頼もしい……!」
「感動するのはいいけど、足元に気をつけろよ。答案用紙をぶちまけたら、今度は全校生徒から恨まれるぞ」
「ひぃっ! それだけは勘弁ですぅ~!」
三人は無事に職員室へ答案用紙を届けた。
その後、隆司は教師から掲示板への結果発表について、校内放送で告知するよう頼まれた。
「……なんで生徒会長が放送までやるんだよ。放送部がいるだろうに」
ぶつぶつ言いながらも、隆司は放送部員と一緒に放送室へ向かった。
必要な内容をノートにまとめ、放送部員に原稿を渡す。
放送が終わると、隆司はようやく生徒会室へ向かった。
昼休み――風紀委員の相談と、二人の観察者
生徒会室のドアを開けると、美咲がコーヒーカップを並べていた。
「おにいちゃん、お疲れさま!」
「おう。そっちも準備してくれてたのか。ありがとうな」
杏子は紅茶味のシフォンケーキを切り分けていた。
三紀子はカバンの中を探りながら、何やらごそごそと動いている。
「……お前、また何か増えてないか?」
「気のせいですぅ~!」
「その返事をする奴は大抵、何か隠してるんだよ!」
そこへ蓮司がやってきた。
「おう、待たせたな」
「いや、ちょうどいいところだ。で、風紀委員の相談って?」
蓮司は椅子に腰を下ろし、少し真剣な表情になった。
「最近、一年の連中から相談を受けてるんだ。上級生の一部が、後輩に部活の道具を買わせようとしてるらしい」
隆司の表情が変わった。
「……それは、ただの冗談で済ませられる話じゃないな」
「ああ。ただ、今のところ直接見た奴が少なくてな。誰がやってるのか、はっきりしてない」
「被害に遭った生徒を先に守るべきだな。無理に名前を聞き出したり、本人たちだけで相手に詰め寄ったりするのは避けよう」
蓮司はうなずいた。
「俺もそう思ってる。剣道部の後輩にも、ひとりで抱え込まずに相談するよう伝えた」
「よし。生徒会としても、相談窓口を周知しよう。風紀委員と連携して、事実関係を確認する。証拠もないのに誰かを犯人扱いするのはダメだ」
「助かる。お前に相談して正解だったな」
蓮司は、ふっと表情を和らげた。
「それにしても、お前はこういう話になると本当に頼りになるよな。普段は適当なくせに」
「誰が適当だ! 俺はやるときはやる男なんだよ!」
「はいはい」
二人は笑い合った。
その様子を、生徒会室の少し離れたテーブルから眺めている人物が二人いた。
変態コンビの三紀子と詩織である。
詩織はスケッチブックを開き、鉛筆を走らせていた。
三紀子はその横から、じっと二人を見つめている。
「……詩織ちゃん」
「……なに、三紀子ちゃん」
「今の会話、聞きましたか?」
「聞いた。全部聞いた」
二人の視線が、再び隆司と蓮司に向けられる。
隆司が真剣な顔で話す。
蓮司がそれにうなずく。
そして、蓮司が隆司の肩を軽く叩いた。
――その瞬間。
詩織の鉛筆が止まった。
「……来た」
「来ましたね……」
二人の声が、妙に低くなった。
「詩織ちゃん。今の肩を叩く仕草……あれは単なる友情の証しでしょうか?」
「違うね」
詩織は即答した。
「えっ、違うんですか!?」
「いや、現実では友情の証しだと思うよ? でも創作なら話は別。肩を叩くってことは、相手を信頼してるってことじゃん?」
「なるほど……! つまり、言葉にしなくても伝わる信頼……!」
「そう! しかも今回は風紀委員の相談。蓮司くんが困ってることを隆司くんにだけ相談してる。ここ重要!」
詩織はスケッチブックをくるりと回した。
そこには、制服姿の二人の男性キャラクターが描かれていた。
一人は腕を組み、真剣な顔で相手を見つめている。
もう一人は、その肩に手を置いている。
まだラフ画ではあるものの、表情や姿勢には妙な説得力があった。
「見て、三紀子ちゃん。この構図! 肩に置いた手と、視線の交差! これは『背中を預けられる相手』って感じ!」
「素晴らしいですわ……! まさに、戦場を共にする二人の騎士……!」
「ちなみに、もろ聞こえてるぞ!戦場って学校だけどね!」
「学校という名の戦場ですわ!」
「言い切った!」
二人は小声で盛り上がった。
三紀子は自分のノートを開き、ページをめくる。
そこには、人物相関図やら、物語の断片やら、謎めいたタイトルが書き込まれていた。
「では、こういう設定はどうでしょう……。普段は飄々としている隆司くんが、蓮司くんの相談だけは真剣に受け止める。蓮司くんも、誰にも見せない弱さを隆司くんにだけ打ち明ける……」
「いい! すっごくいい! でも、もうひと押し欲しい!」
「もうひと押し……?」
詩織はスケッチブックに新しい構図を描き始めた。
「たとえば、相談が終わった後に、蓮司くんが『お前に話してよかった』って言うの。そこで隆司くんが一瞬だけ照れる!」
「な、なんと……! 無自覚な信頼が、禁断の感情へと変わる瞬間……!」
「まだ変わってないからね!? 私たちの創作だからね!?」
詩織は自分でツッコミを入れつつ、さらに描き込んでいく。
「でも、この表情は使える。隆司くんが照れるんじゃなくて、ちょっと困った顔をするのもいいかも。『お前は昔からそういうところがあるな』って笑う感じ」
「幼なじみではないけれど、長年の親友だからこそ通じ合うもの……!」
「そう、それ!」
二人の妄想は、もはや止まらない。
詩織はラフ画に吹き出しを加えた。
『お前に相談してよかった』
『……当たり前だろ。俺たち、親友なんだから』
三紀子は両手で口元を押さえた。
「詩織ちゃん……! この台詞、尊すぎませんか……!」
「でしょ!? まだラフなのに、もう完成した気分!」
「いけません……このままでは私の中の物語が覚醒してしまいます……!」
「もう覚醒してるよ!」
二人は顔を見合わせ、声を殺して笑った。
――そのとき。
「……おい」
低い声が背後から聞こえた。
二人の動きが止まる。
「お前ら、さっきから何をやってるんだ?」
振り返ると、そこにはコーヒーのおかわりを取りに来た隆司が立っていた。
三紀子はノートを閉じようとした。
詩織はスケッチブックを胸に抱えた。
「な、何でもありませんぅ~!」
「何でもない奴は、そんなに慌てないんだよ!」
隆司は二人の間に視線を落とした。
そこには、制服姿の男性キャラクター二人が肩を寄せ合うラフ画。
そして、意味深な吹き出し。
「…………」
沈黙。
隆司はゆっくりと顔を上げた。
「……お前ら、俺と蓮司をモデルにしてないか?」
「し、してません!」
「まだラフだからモデルじゃないよ!」
「まだラフ!?」
隆司の声が裏返った。
「おい、詩織! 今、まだラフって言ったよな!?」
「言ってない! ……いや、言ったけど、そういう意味じゃなくて!」
「どういう意味だよ!」
三紀子は慌てて割って入った。
「隆司君、これはあくまで創作上の人物でしてぇ~! 現実とは何の関係も……!」
「じゃあ、なんで俺の髪型と蓮司の制服の着崩し方がそっくりなんだよ!」
「そ、それは……資料が身近にあるから……?」
「資料って言うな!」
少し離れた席から、蓮司が声をかけてきた。
「おい、隆司。何を騒いでるんだ?」
「お前はこっちに来るな! いや、来てもいいけど、スケッチブックを見るな!」
「何なんだよ……」
蓮司が首をかしげる。
詩織と三紀子は、顔を見合わせた。
そして、二人同時に小さくつぶやいた。
「……今の慌て方も、いい」
「え?」
「何でもないですぅ~!」
隆司は天井を仰いだ。
「……俺の平穏な昼休みを返してくれ……俺らはお前らのBLのネタじゃねぇ~!」
その声は、生徒会室の笑い声にかき消された。
昼食を終え、午後の予定を確認していたときのこと。
杏子が、机の上に一通の手紙を置いた。
「……またか」
隆司が手紙を見て、ため息をついた。
「最近、よく届くな。髪型を変えたからか?」
「さあね。正直、困ってるのよ」
杏子は苦笑した。
「返事はしてるのか?」
「内容によるわ。返事をしないままにしているものもあるけど……」
美咲が興味津々で身を乗り出す。
「杏子先輩、綺麗だからモテモテですね!」
「美咲ちゃん、からかわないの」
杏子は笑っていたが、どこか困った様子だった。
その様子を見た三紀子が、ふとつぶやいた。
「……今回のお手紙、差出人の方が少し気になりますねぇ~」
「どうして?」
杏子が尋ねる。
「いえ、いつもと少し雰囲気が違うというか……。でも、私の気のせいかもしれません」
隆司は肩をすくめた。
「まあ、本人が困ってるなら、無理に返事をする必要もないだろ。気持ちに応えられないなら、きちんと断るのも大事だ。それに、もし変なやつだったら一緒に行ってやるから安心しろ」
杏子は小さくうなずいた。
「そうね。ありがとう、隆司」
その後、杏子は手紙に目を落とした。
しばらくして、意を決したように立ち上がる。
「ちょっと体育館裏に行ってくるわ」
「体育館裏?」
隆司が首をかしげた。
「ええ。少し、話をしてくるだけ」
杏子はそう言って、生徒会室を出ていった。
その姿を見送った隆司は、三紀子に目を向けた。
「……なあ、三紀子。今のって、告白の返事だよな?」
「さあ、どうでしょうねぇ~」
三紀子は曖昧に笑った。
そのとき、隆司のスマホが震えた。
美咲からだった。
『おにいちゃん、私もちょっと用事があるから、先に帰らないでね!』
「……何だ?」
隆司は返信を打った。
『了解。何かあったら連絡しろよ』
スマホをしまうと、隆司は三紀子を見た。
「……ちょっと様子を見に行くか?」
「えっ!? 覗き見はよくないですよぉ~!」
「いや、別に盗み聞きするつもりは……」
「……でも、ちょっとだけなら……」
「おい、今、自分から言ったよな!?」
結局、二人は体育館裏へ向かってしまった。
もちろん、少し離れた場所から様子を確認するだけのつもりだった。
体育館裏には、杏子が立っていた。
しばらくすると、一人の女子生徒が現れた。
「あっ……あの、一条さん……」
「え? どうしたの?」
女子生徒は、緊張した様子で手を握りしめていた。
「あの……私の手紙、読んでくれましたか?」
「ええ。ちゃんと読んだわ」
「わ、私……前から一条さんのことが好きなんです!」
女子生徒は顔を真っ赤にしながら続けた。
「私と……付き合ってください!」
杏子は目を見開いた。
「えっ……!?」
隆司も三紀子も、思わず息をのんだ。
女子生徒は続ける。
「私、一条さんのことをずっと見ていました。優しくて、勉強もできて、誰にでも公平で……。私、そんな一条さんに憧れていて……いつの間にか、本当に好きになってしまったんです!」
杏子はしばらく言葉を失っていた。
やがて、困ったように眉を下げる。
「……ごめんなさい。あなたの気持ちはうれしいけれど、私はあなたと同じ気持ちでは応えられないわ」
女子生徒の表情が曇る。
「……私じゃ、ダメですか?」
「あなたがダメというわけじゃないの。私には、好きな人がいるから」
その言葉を聞いた女子生徒は、唇をかみしめた。
「……そう、ですよね。ごめんなさい。急にこんなことを言って……」
「謝らないで。勇気を出して伝えてくれて、ありがとう」
杏子は静かに頭を下げた。
女子生徒は小さくうなずくと、涙をこらえながらその場を去っていった。
杏子は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
そして、小さく息を吐く。
「……まさか、女の子から告白されるなんて。びっくりしたわ……」
物陰では、隆司と三紀子が固まっていた。
「……おい、三紀子」
「……はい」
「今の、聞いたか?」
「……聞きましたぁ~」
「レズ展開なのか?まさかの展開なんですけど!?」
「私もびっくりですぅ~!」
二人は顔を見合わせた。
隆司は額を押さえた。
「いや、別に同性を好きになること自体を笑うつもりはないけどさ……。杏子があんなに困ってるところ、初めて見たぞ」
「そうですねぇ~。杏子ちゃん、いつも落ち着いていますからねぇ~」
「……よし。これは本人が話してくるまで、俺たちからは何も言わないでおこう」
「賛成ですぅ~」
二人はそっとその場を離れた。
……ところが。
「でも、三紀子ちゃん」
「はい?」
「今の告白シーン、イラストにしたらドラマチックじゃない?」
「……詩織ちゃんが聞いたら、絶対に描きたがりますねぇ~」
「いや、詩織は今ここにいないから!それにお前BLだろっ」
「わかってますぅ~!」
二人は思わず笑ってしまった。
しかし、隆司はすぐに真顔に戻った。
「……とにかく、杏子のことはそっとしておこう。本人が話したくなったら聞けばいい」
「はい。そうしましょう」
二人は生徒会室へ戻った。
生徒会室に戻ると、コーヒーの香りが漂っていた。
杏子は何事もなかったかのように、シフォンケーキを切り分けていた。
「おかえりなさい。遅かったわね」
隆司は一瞬、言葉に詰まった。
「……ああ。ちょっと、な」
「ふうん?」
杏子は意味ありげに目を細めた。
三紀子は慌てて席についた。
「わぁ~! 今日のケーキもおいしそうですねぇ~!」
「紅茶味よ。キャラメルソースも作ってみたの。よかったらかけて食べてね」
美咲がうれしそうに手を伸ばす。
「いただきます!」
一口食べた美咲は、目を輝かせた。
「おいしい! 杏子先輩、すごいです!」
「ふふ、ありがとう」
隆司も一口食べた。
「おぉ、これはうまい。毎回違うお菓子を作ってくるけど、どれだけレパートリーがあるんだよ
お前、花屋よりもパティシエ向きなんじゃないか?」
「そこまで上手じゃないわよ、趣味のひとつよ。料理もメイクも、やってみると面白いもの」
杏子はコーヒーを飲んだ。
その姿を見た三紀子が、うっかり口を滑らせる。
「……杏子ちゃんは、女の子にもモテるんですねぇ~」
「……え?」
空気が止まった。
隆司は目を閉じた。
「……三紀子。お前、今、何て言った?」
「あっ……」
杏子はカップを置いた。
そして、ゆっくりと振り返る。
「……あなたたち」
「い、いや、杏子。これはだな……」
「体育館裏、見てたわね?」
「…………」
「見てたのね?」
「……はい」
次の瞬間。
「このっ……!」
杏子は隆司のこめかみをぐりぐりと押し始めた。
「痛い痛い痛い! 悪かったって!」
「覗き見はダメって、普段から言ってるでしょうが!」
「いや、ちょっと気になっただけで……!」
「言い訳しない!」
「すみませんでしたぁぁぁ!」
三紀子はそっと手を挙げた。
「杏子ちゃん、私は反対したんですよぉ~」
「三紀子も同罪!」
「ひゃあああ!」
美咲は驚きながらも、心配そうに杏子を見た。
「杏子先輩、大丈夫ですか? 無理してません?」
その一言で、杏子は手を止めた。
「……美咲ちゃん。ありがとう。大丈夫よ」
そして、隆司と三紀子を交互に見た。
「いい? この話は絶対に秘密。誰にも言わないこと!」
「わかった!男に二言はねぇ」
「はいぃ~!」
「……本当に?」
「本当だって!」
杏子はようやく二人を解放した。
隆司はこめかみをさすりながら、深く息を吐いた。
「……今日一日で、何回心臓に悪い思いをすればいいんだ」
「自業自得よ!」
そのとき、三紀子がカバンから一枚の紙を取り出した。
「……あ、そうだ。杏子ちゃん。これ、見てくれませんか?」
「何よ、今度は?」
三紀子は、にっこり笑った。
「さっきの出来事を、創作の参考にしてみたんですぅ~」
「…………は?」
紙には、体育館裏の告白シーンをモチーフにした漫画のラフが描かれていた。
ただし、吹き出しには大胆なアレンジが加えられている。
『実は、私もあなたのことが……!』
「ぶっ……!」
杏子は思わずコーヒーを吹き出した。
「ちょっ! 三紀子! 何を描いてるのよ!」
「いやぁ~、創作ですからぁ~!」
「破棄しなさい!」
「えええっ! せっかく描いたのにぃ~!」
「今すぐ!」
隆司も思わず吹き出しそうになった。
「お前、BLしか描かないんじゃなかったのかよ!」
「これはBLじゃなくて、恋愛漫画ですぅ~!」
「その違いを今、説明してくれ!」
「えっと……登場人物が違うんです!」
「説明になってねえ!」
生徒会室は、再び大騒ぎになった。
その騒ぎの中で、杏子はふと笑った。
「……まったく。あなたたちといると、悩んでいる暇もないわね」
その言葉を聞いた隆司は、少しだけ表情を和らげた。
「まあ、無理に話す必要はないからな。何かあったら相談しろよ」
杏子は一瞬驚き、それから小さくうなずいた。
「……ありがとう、隆司」
その横で三紀子は、こっそりとノートに何かを書き込んでいた。
『友情と信頼。何気ない一言に救われる心――そして揺れる女心』
「おい、また何を書いてるんだ!」
「これは真面目なメモですぅ~!」
「本当かよ!」
ひと騒動が落ち着いた頃、杏子がメイク道具を取り出した。
「そうだ、美咲ちゃん。ちょっとメイクの練習をさせてもらえない?」
「いいですよ! 昨日、プロの方に教えてもらったんですもんね!」
「そうなの。せっかくだから、忘れないうちに練習したくて」
杏子はノートを開き、昨日教わった内容を確認した。
「まずは肌の色を整えて……それから目元を……」
三十分ほど経過した。
「……うーん。思ったより難しいわね」
鏡を見た杏子は、首をかしげた。
「やっぱり、練習が必要ね。美咲ちゃん、ありがとう。次は三紀子ちゃん、お願いできる?」
「えっ、私ですかぁ~? メイクなんてしたことないですよぉ~」
「だからこそ、試してみてほしいの。三紀子ちゃん、絵を描くのが得意でしょう?」
三紀子は少し考えた。
「……まあ、水彩やパステルなら、よく描きますけどぉ~」
「色の扱いは似ているかもしれないわ。どうかしら?」
「……わかりましたぁ~。やってみますねぇ~」
杏子は道具の名前や使い方を説明した。
三紀子は真剣な表情で聞きながら、メイクを進めていく。
「肌色を整えて……目元の色を少し抑えて……眉の形を合わせて……」
手つきは驚くほど迷いがなかった。
「……あれ?」
杏子が鏡をのぞき込む。
「……えっ!?」
そこには、自然でバランスの取れたメイクが完成していた。
「すっごい! 三紀子ちゃん、初めてなのにどうしてこんなに上手なの!?」
「えへへ……。たぶん、色のバランスを考えるのが好きだからだと思いますぅ~」
三紀子は照れくさそうに笑った。
「肌の色が決まると、目元や口元も合わせやすいんですよぉ~。イラストと同じで、ひとつのパーツだけ目立っても全体の印象が崩れちゃうのでぇ~」
「なるほど……。確かに、全体のバランスがいいわ」
隆司は感心したようにうなずいた。
「……お前、絵だけじゃなくて、そういう才能もあるのか」
「えへへぇ~。褒められちゃいましたぁ~」
「いや、素直にすごいと思ったんだよ」
そのとき、生徒会室のドアが開いた。
「おう。まだいたのか、お前ら?」
蓮司が顔を出した。
「お疲れ、蓮司。部活は終わったのか?」
「ああ。後輩の指導が長引いてな。……って、何だ? その道具の山は」
「メイクの練習よ。三紀子ちゃんがすごく上手なの!」
杏子が説明すると、蓮司は感心したように三紀子を見た。
「へえ。意外な才能だな」
「えへへ……ありがとうございますぅ~」
その一言を聞いた三紀子の目が、わずかに輝いた。
詩織がいれば、今の一言だけで新しいイラストが三枚は生まれていたかもしれない。
……いや、五枚かもしれない。
「さて、そろそろ掲示板に結果が出る頃だな」
隆司が時計を確認した。
「蓮司も来たことだし、全員で見に行くか?」
杏子は少しだけ闘志を燃やした。
「今度こそ、隆司を抜いてみせるわ!」
「へえ。もし負けたら罰ゲームでもするか?」
「いいわよ。言っておくけど、私は本気だからね!」
「おお、怖い怖い。俺に勝ったらなんでも一つだけ願いを叶えてやろう」
掲示板の前には、大勢の生徒が集まっていた。
二年生の順位表を確認した隆司は、あっさりと言った。
「……お、今回も一位か」
杏子は順位表を見て、がっくりとうなだれた。
「また二位……! どうしてよ! 授業中にイラストを描いてるあなたに、どうして勝てないの!」
「才能の差……と言いたいところだが、まあ、趣味と勉強は別腹だからな」
「お腹の話じゃないわよ!」
三紀子は数学の順位を確認していた。
「私はまあまあですねぇ~。数学は満点でしたぁ~」
蓮司は自分の順位を見て、肩をすくめた。
「……まあ、こんなもんか」
「お前、もう少し勉強しろよ。真面目にやればもっと上に行けるだろ」
「俺には剣道がある」
「便利な言い訳だな!」
その後、隆司は一年生の掲示板へ向かった。
「美咲、どうだった?」
「おにいちゃん! 私、二位だったよ!」
「おお、すごいじゃないか」
「読者モデルの仕事には直接関係ないけど、勉強もできるに越したことはないもんね!」
隆司は妹の頭を軽くなでた。
「そうだな。何をするにしても、知識があって損はない」
美咲はうれしそうに笑った。
こうして、学力テストの結果発表は終わった。
……しかし、杏子の闘志だけは終わっていなかった。
「次こそは……次こそは絶対に一位を取るわ!」
「おう、頑張れ」
「その余裕が腹立つのよ!」
みんなの笑い声が、夕暮れの校内に響いた。
帰宅後。
夜の秘密基地――同人作家、秋月隆司
「ただいまー」
隆司が玄関を開けると、母親が顔を出した。
「おかえりなさい。今日のテスト、どうだったの?」
「まあ、いつもどおり。美咲も上位だったよ」
「そう。二人とも頑張ったのね」
母親は満足そうにうなずいた。
隆司は少し考えてから言った。
「おふくろ、悪いんだけど、今日は部屋で夕食を食べてもいいか?」
「あら、珍しいわね。勉強でもするの?」
「……まあ、そんなところ」
「無理はしないのよ」
「わかってるって」
自室へ戻った隆司は、ドアを閉めた。
机の上には、ペンタブレット、スケッチブック、印刷見本、CD-R。
そして、完成を待つ原稿の山。
「……よし」
隆司の表情が変わった。
「ここからは同人作家、秋月隆司の時間だ」
普段は飄々としている隆司だが、創作に取り組むときだけは別人のようになる。
今回の目標は二つ。
自分のCG集を仕上げること。
そして、三紀子の同人誌を完成させること。
「三紀子の画力は本物だ。構図もいいし、キャラクターの表情も生きてる。あとは、ストーリーの流れを整えれば……BLだけどなっ」
隆司は三紀子の原稿を広げた。
「……ただし、BLの構成は難しいな。俺自身、専門じゃないからなあ」
しばらく考えた末、隆司は大きく息を吐いた。
「よし。三紀子のこだわりは崩さずに、読みやすさを優先する。あいつの持ち味を消したら意味がないからな」
ペンを走らせる。
ページの順番を入れ替え、台詞を整え、コマの流れを確認する。
自分の原稿も同時に進める。
気がつけば、時計は深夜を回っていた。
「……やばい。時間が溶けてる」
隆司はコーヒーを一口飲み、再び作業に戻った。
「俺の仕事は、売れる本を書くこと。そして、三紀子の本も完売させてやることだ」
その目は真剣だった。
趣味だからこそ、手を抜きたくない。
隆司は絶対に妥協はしないタイプだ。
自分の作品を手に取ってくれる人にも、三紀子の作品を読んでくれる人にも、楽しんでもらいたい。
その一心で、隆司は作業を続けた。
やがて、最後のページが完成した。
「……できた!」
隆司は椅子の背もたれに体を預けた。
「三紀子の原稿も完成。俺のCG集も、あとは印刷と製本だけだ」
印刷会社へ送るデータを確認し、必要なファイルを整理する。
見本用の冊子を一部だけ製本し、CD-Rにもデータを書き込む。
プリンターが動き、ディスクにタイトルが印刷されていく。
「よし……これで、ひとまず完成だ」
時計を見た。
午前三時十五分。
「……は?」
隆司は数秒間、時計を見つめた。
「いやいやいや! 昨日の夜から何時間経ってるんだよ!」
窓の外は、まだ暗い。
しかし、東の空は少しずつ明るくなり始めていた。
隆司は完成した原稿を机の端にそろえた。
「……三紀子、喜ぶだろうな」
そうつぶやいて、ベッドに倒れ込む。
「……明日、学校で渡そう……」
まぶたが重くなる。
「……詩織にも、イラストのことで相談してみるか……」
そのまま、隆司は眠りに落ちた。
机の上には、完成した同人誌とCG集。
そして、書きかけの小さなメモが一枚残されていた。
『次回、コミケ準備。三紀子と詩織の合作企画も検討』
その文字の下には、なぜか小さくこう書き足されていた。
『……蓮司をモデルにするのは、絶対にやめさせる』
――もちろん、三紀子と詩織がそのメモを見たら、どうなるか。
考えるまでもなかった。




