『年賀状』
こう書いててさ、今度はこれをエッセイとして出そうかとか考えてる。『ライ麦畑でつかまえて』みたいで良くね? とか考えだしてんだ。
ほんと、どうしようもないだろ。
『ライ麦畑』にはそれでも最後、雨の中で妹と踊るっていう、なんていうか、絶望の中のわずかな希望みたいなシーンがあって、それから『あんなんでも、また会いたくなってくるんだから。人間ってやつは笑っちゃうよな』みたいな、ある種哲学的でもあり、同時に救いでもあるような独白で終わる。
でもこれにはそんなものすらないんだ。
なぜって。おれはキザでサイコパスじみているが、ホールデン・コールフィールドほどの人格も落ち着きも幅広い視野もない、正真正銘のクズだから。
逆にスッキリしてきた。
自分をクズだとやっと受け止められた気がする。
そんで開き直ってんだからな。
ほんとに、どうしようもない奴なんだよ。
おれって人間は。
これ以上書けることもないよ。
あーあの幼馴染のさ、一度だけくれた年賀状だけ、今も持ってんだ。
年齢がバレるからモチーフは言えないけど手書きの絵付きでさ。
最近実家の古いお仕入れを整理してたら、当時の写真と一緒に出てきたんだ。なんでそんなとこに仕舞われてたのか、おれにもわからないけどな。
で、驚いたことにはだ。
そこにはなんて書いてあったと思う?
なんて書いてあったか?
「あけましておめでとう! クリスマスの日、ごめんね…。でも、イブとクリスマスの日、いっしょにいれてよかった!! (おれ)は? …(汗)
あそんだとき、「ビックリすることがある!」っていったでしょ。あれは、うそじゃなくて、私が(おれ)にクリスマスカードをあげようと思ってもってたんだけど、はずかしくてなか2わたせなくて、んでとうとうわたしそびれちゃったの…(汗)
もし、ほしかったら、いってね。クリスマスすぎたけどほしかったらあげるから❣️
3がっきは、もっといっぱいあそんだりしよ〜ね。PS,ながくてごめん♡ …(汗)」
この年賀状を見たとき、おれはちょっと泣きたい気分になってきた。
でも、そいつときたら、教室じゃいつもおれに怒ってばかりで、だらしないとか弱虫だとか、事あるごとに最低だとか言って、挙げ句の果てに、おれは好き嫌いが多くて給食ではいつも残してたんだけど、ある日突然おれのおぼんをかっさらって、ご飯とおかずを混ぜ込み出しやがったんだ。メニューはビビンバだった。よく覚えてる。当然おれはもう飯が食えなくなっちまってさ、終いにゃ、自分でも情けないとは思うけど泣き出して、でもそいつは悪びれもせず、つーんと澄ました顔でいて。
とにかく、いつもそんな態度だったんだ。
中学に上がっても態度は変わらなかった。
ある時なんか、おれがあんまり無理矢理にスクールバッグに物を詰め込むんで、見かねたそいつが「そんなにしたら壊れちゃうでしょ!」とか言って怒り出してさ、丁寧に教科書やらノートやら体操着やらを詰め直し始めたんだ。お前はおれのお母さんかっての。
弁当を残すと、「あんた、そんだけしか食べられないの?!」とか大袈裟に言い出したり、何かと世話焼きで、おれはその度にショックを受けてた。
でも、おれが一度ガスのやりすぎで不登校になって、一ヶ月ぶりに登校してさ、先生と同学年の廊下を歩いたんだ。明日からまた来るからって、その慣らし運転ってやつだな。
そんな時にいの一番に愛想よく挨拶してくれたのもそいつだった。
話を戻すと年賀状だけど、おれは一切覚えていないんだから笑っちゃうよな。そんなのを渡された経緯も、そこに書いてあるクリスマスなんかのことも。なにもかも覚えていない。
だからきっと、クリスマスカードももらってないぜ。
ずっと待ってる間に捨てちまったかなんかしたんだろうと思う。
あんなわかりやすいアプローチ受けといて、ほんと、どうしようもない奴なんだよ。
おれって人間は。
※年賀状の♡、(汗)の部分は、本来はもっと可愛い絵文字で書かれていましたが、環境依存文字のため♡、(汗)に置き換えています。




