『朝礼台』
中三の冬にさ、夜に学校の校庭を使ったフットサルのクラブっていうか野試合みたいなイベントがあって、おれは友達と行ったんだけど、そこでほんのすこしだけ言葉を交わしたんだ。
朝礼台あるでしょ。
おれは町内会かなんかのおばさんたちが作ってくれた豚汁を秒で食べ切ってさ、そこの縁にすわって、他の連中がまだ続けるのを見てたんだ。
そしたら、そいつがおれの——隣じゃない、なんていうのかな、45度隣? 朝礼台って四角いだろ? そこの斜め手前の辺に腰かけたんだ。
おれは意識して緊張してた。
たぶんそれぞれの行く高校とかの話だったと思う。二、三なんか話してから、そいつが「そういえば携帯の番号渡してなかったよね」って言った。
でも、なんでだったのかな。
肝心なところは覚えてなくて、結局のところ、連絡先の交換はしなかったんだよ。
交換してたらなんか変わったのかな、って急激に後悔したのはもう二十歳も過ぎてからのことでさ。ちょうど『秒速5センチメートル』を見た後だったから、急にそいつのことを思い出して、おれは会いたくて仕方なかった。
毎日のように色んなとこに出掛けて、偶然再会するのを祈った。
いつもキョロキョロしてさ、そいつの姿を探したんだ。
あの頃はそれを原動力に生きてたな。今の自分を見てほしかった。今なら受け止められる気がした。
でも、結局どこいっても、もう会うことはなかったよ。
おれはとある家電量販店の店員さんになり、いつしかそのことも忘れていった。
「そういえば携帯の番号渡してなかったよね」まで言われて交換しなかった中学生のお前、鈍いって?
おれも意識して緊張してたんだ。
当時のおれにはそれが最後のチャンスだなんてわからなかったんだよ。
それからだね、『秒速5センチ』を見て、きをみてせざるはゆうなきなりだっけ? 恥も外聞もなく、時も場合も関係なく、好きな人には本気のアピールをするようになったのは。
けど、そうしてたら今度は出会うたんびにその誰かを傷付けて、困らせて、怒らせる……そんな顛末なんだから、ほんと、どうしようもない奴なんだよ、おれって人間は。
この散文は、それでもやっぱりちょっといいと思っちゃってる自分がいる。
だから、残しておこうと思った。
それだけなんだ。




