九十八話 乱入者撃退
「ムハハハハ、そろそろ余に任せてはくれんか?なに、そこの大樹を引っこ抜くだけのことさして時間は取らん」
「お前、分かってて言ってるだろ」
しばらく儂とレンセツで筆鬼とやり合ったのち、筆鬼がふと口を開いた。当然だが、受け入れられるわけがない。
どんな耐久力してんだ、この爺さん。もう二十回近く殴ったし、レンセツに至っちゃそれ以上に攻撃を加えてたはず。
「魔王よ、ではこのやり方より楽で早い方法があると?」
「おい、余計な話をしておる場合か?」
筆鬼が儂の方に意識がいっているところで、奴の背後から現れるレンセツ。
「全く、まだ分かっておらんようだ。この爺がもう一度拳をーーーっ⁉︎」
筆鬼は一切平常を乱すことなく処理に移ろうとした時だった、驚くほど素早い動きでレンセツの刀をかわした。そこで初めて表情が崩れたのが見える。
なんだ、今の一振りは別に衝撃は強くはなかった。なにをそんなに恐れた?
「やはりのう、斬撃は流石に肉体では耐えれんか」
レンセツはニヤニヤしながらそんなことを口にする。
ああ、そうか。儂らはずっと肉体にダメージを蓄積させる方向で攻めてたが、そもそも斬られりゃ耐えるもなにもない。なんで早く気づかなかったんだ、いや無意識で不可能だと判断してたんだ。.....レンセツよ、儂が言えたことじゃないがもっと早く気づいてほしかった。
「爺にそんな危ないものを近づけるとは、やはりもう一度受けるか!」
「ぬ、しまっーーー⁉︎」
筆鬼はめっちゃ至近距離にいるレンセツにそう話しかけ、拳を構える。レンセツも気づいた様子だったが、遅い。
近づき過ぎだ、あれじゃあ避けるのは!
「かぁーーーつ!!」
「ぐっ.......がはっ!」
レンセツの腹にまたも筆鬼の拳が直撃、さっきと同様にレンセツの体がしばらくの間を置いた後に大きく後方へと飛ばされる。
「爺に刃を突き立てようとは、悲しきことよな」
なんか言ってるがその顔には笑みが、言ってることと表情が合ってなさ過ぎて恐怖である。
「こうなったらまた儂の番か、これでもくれてやる!」
儂は手のひらの前で魔力を固め、投げる。ニュイの国でも使ったあれだ。
もう絶対に近づきたくない、近づけばほぼ確実にあの拳を受けることになる。斬撃が通用することは分かったが、レンセツが帰ってこん限りなにも始まらない。
「うむ、なかなかに重みのある一投。しかし先の拳の方が倍は強かったぞ、余にもう一度打ち込む気はないか?」
「断る、あの時の拳以上に勢い圧縮して殴ってくるつもりだろうが」
すごいわかりやすい誘導、流石に引っかからない。
「近づいてこないのであれば、余も拳を振るえん。そちらがその気ならば余も相応に対応させてもらう」
「お前の使う技は知ってる、遠距離は対応できないことをな。それとも圧縮した衝撃でも飛ばすつもりか?」
「そんなダサいことはせぬよ、この筆を使う」
筆鬼は背中に背負った筆を手に取り、先をこちらに向けてくる。
は、その筆使うのか?今までずっと背負ってるのは見てきたが使ってるとこは一度も見たことなかった。だから飾り程度のものだと認識してたんだが、まさか武器だったのか?
「驚くのも無理はない、これを使用するのは軽く百年ぶりくらい。余がまだ未熟で合った頃に使っていたもの。まぁ、言うより見るが易し。いっぺん受けてみぃ!」
筆鬼が叫ぶ、その次の瞬間だった。ありえない速度で複数の黒い玉が儂めがけて飛んできた。まるで銃弾の如く墨がばら撒かれる。直感で理解する、当たれば貫かれる。
その筆そういう使い方すんのかよ!
「いぃっ⁉︎遠距離持ってんのかよ!」
「避けたか、勘がいいな。だが、受けておいた方が分析は捗るぞ」
「儂はお前みたいにかったい肉体は持ってない、当たればほぼ致命傷だ。んなことできるか!」
ギリギリ全て避けることには成功したが、あれを何度もされたらまずい。
ーーーと、
「すまんのう、主よ。戻ってくるのに時間がかかった」
筆鬼とやり合っていると、レンセツが戻ってきた。
「まだ意識があったか、やはり爺の孫よな。しかし、今の爺には近づかせんぞ!」
筆鬼の筆先がレンセツを捉える、有無を言わさぬままに墨飛ばしが炸裂。
「珍妙な技じゃが、我に対してそれは愚策」
墨の雨の中、レンセツは距離を詰めていく。服は墨まみれになっていくが、衝撃は吸収しているのか怯む様子なく近づいていく。
「無駄か、まぁ良い。このままこの筆で受けてーーー」
「無駄じゃったな」
「おのれ、未だ爺に刃を突き立てるか」
筆鬼の判断が悪かった、筆を振り上げたその瞬間にレンセツは懐へと入り込み、刀をその腹に貫通させた。
「ぬ、筋肉で止めおったか」
「ムハハハハ、爺に刃を通したことをまずは褒めよう。しかし、同時に後悔させてやる。このまま三度目の拳をーーー」
「そうじゃ、しっかり止めておけよ」
刺したはいいものの抜けなくなった刀、不敵な笑みをこぼす筆鬼に対してレンセツはそんな言葉をつぶやいた。
「肉体の中から衝撃を加えたらどうなるか、我も初めての経験じゃ」
「ぐうっ⁉︎ぬぅ、ぐおおおおっ!」
多分刀を通して肉体の内部に直接衝撃を叩き込んだのだろう、流石の筆鬼も苦しそうな声を上げた。そして、踏ん張りが切れたか大声を上げながら遥か遠くまで飛んでいった。




