九十七話 筆鬼
「堂雪、今は邪魔をしてくれるな」
「おお、その呼び方は避けて欲しいな。何故なら今、余は八鬼衆とやらに入っていてな、名は筆鬼という」
儂の呼びかけにそう答えた堂雪。
ましかよ、コイツ。八鬼衆かよ、じゃあ呼び方は筆鬼にした方がいいな。後で絶対混乱する。
「その願いは聞けない、何故ならばこの心地、いち早く治したいのだ」
続いてさっきの言葉の返答が返ってきた、どうやら聞く気はないらしい。
こりゃダメだ、この男が自分の意見を変えた試しはこれまでに一度もない。対立したとき、取る行動は二つ。諦めるか、力で無理矢理ねじ伏せるか。今回に限っては前者は論外、なら!
「レンセツ、悪いが頼めるか?」
「おいおい、我にやらせる気か?他は良いが、この人の相手は勘弁願いたいんじゃが.....」
「もちろん儂も一緒に戦う」
この男とは正直戦いたくはない、だがレンセツ一人に任せるには荷が重すぎる。
「はぁ、おい筆鬼じゃったか?相手してやる、そのかったい頭ぶった斬ってやるからのう」
「ほう、孫の分際で爺に対して随分となってない口の聞き方だな」
「勘当しておきながら、都合の良い時だけそういうこと言うんじゃのう」
なんか言い合ってる二人、聞いていて分かったとは思うが筆鬼はレンセツの実の祖父。これだけでも察せられるというもの。ちなみにレンセツという名前は本名ではない。
にしてもレンセツも結構歳いってんのにその倍以上も歳いってるはずのアイツはなんであんな元気なんだ。今ひいひい爺さんくらいなはずなんだが、鬼の寿命こえぇわ。
「ニ対一だ、儂も忘れるな」
「ムハハハハ、魔王もか!これは久しぶりに楽しい戦いになりそうだねぇ」
分かってはいたが、ニ対一宣言は意味をなさなかった。むしろ焚き付けた結果に終わった、言わない方が良かったかもしれない。
まあ、戦力われてるしな。だが、そこはこっちも条件は同じだが。
「ゆくぞ、筆鬼!お前をあの世に送ってやる!」
先に動いたのはレンセツ。勢いよく刀を振るう、これまでにない殺意と身内相手とは思えない躊躇のなさ。もちろんこの攻撃にはありったけの衝撃がのせられていた。広範囲にに砂埃が舞い、ちらほらとたっていた建物や木を悉く薙ぎ倒す。
うおっ、後ろにいるはずなのにとんでもない衝撃だ。
「あいも変わらず派手なばかりの攻撃よな、それに容赦のない、爺は悲しいぞ。今度は爺の番であるなぁ」
効かんと言わんばかりにそう口にする筆鬼、続けて不気味さとわざとらしさを感じる言葉を吐いた。
「チィ!させるわけがーーー」
「かぁーーーつ!」
レンセツが防御の構えを取ろうとしたが遅かった、筆鬼はすでにレンセツの腹に手を置いていた。だが、レンセツは攻撃を受けた様子がない。
儂は知ってるぞ、あれはレンセツが衝撃を吸収したからじゃない。.....そろそろ来るぞ。
「ぐほっ⁉︎」
筆鬼のあの声から数秒遅れてレンセツが後方に飛んでいく、その際苦しげなレンセツの声が聞こえてきた。まるで遅れて衝撃を受けたかのような動きだった。
「まだまだよなぁ、これくらい見切れんでどうするよ」
「そりゃ無理な話だろ、アンタのやったあれを見切れるやつはいねぇって分かってんだ、ろ!」
「ぬおおっ!」
レンセツに気を取られている様子の筆鬼、儂はそこを狙って近づき拳をぶつける。魔力も込めて本気で。
良い感触、はあるだよなぁ。
「魔王は本当に良いパンチを打つ。だが、打ったからには分かってるなぁ?」
「ああ、分かってーーーうぅっ⁉︎」
儂は即座に防御の構えをとった、間に合ったが受け切るのは不可能。儂は宙に浮いた。
一様鬼とでもある程度張り合える儂がただの鬼の拳程度ではのけぞるくらいで済む。当たり前だが筆鬼のあのパワーは規格外どころじゃない。
「全く、こんな戦い方でよく生き残ってやがるもんだ」
筆鬼の能力は特別なものではない、なんなら普通の人間でもできる簡単な方法。だが、誰もやらない。そんな感じ。
アイツがやってるのは単なる魔力操作に過ぎない、体にぶつかった衝撃を体内の魔力で包み込んでいるだけ。衝撃魔法と似てはいるが、できることといえば『体内での移動』と『放出』。吸収はできないから直で肉体で受けるしかない、防御すればもちろん体への衝撃は少なくなるから。つまり、めっちゃ痛い。
「本気で殴るおって、爺とかいっておきながら孫に一切の加減をせんのじゃから。怖いのう!」
ここでレンセツが戻ってきた。あの時の遅れたように見えたレンセツへの衝撃も本当に遅らせていただけ。衝撃魔法の『吸収』は術者本人がその衝撃の瞬間を意識しておかなければならない。レンセツの祖父、衝撃魔法もしっかり理解しているということだ。
筆鬼の使う魔力操作、唯一レンセツが使えない衝撃の『圧縮』ができる。受けた衝撃を魔力で包み込んだのち、体内で押し潰し何倍にも威力を膨らますことができる。これは厄介だ、でもやっぱりリスクにリターンが見合ってないから敢えて使うやつは絶対にいないと断言できる。




