九十六話 大樹前の乱闘
「チッ、やっと終わったか」
「全く、主が根を傷つけぬように言うから余計に時間がかかったではないか」
ユグドラシル前、儂とレンセツはかなりの時間をかけ、やっと研究者連中を片付けた。
ああ、疲れた。大きい魔法は使えんわ、剣はないわで時間をくったな。ずっと殴り続けてたから手ぇ痛いわ。
「な、なるほど、ユグドラシルを傷つけずしてウチの職員を全て」
アキラは驚いた様子でこっちを見ている。
「さて、次はどう来る?お前が戦っても良いが、今の見ててやれるなら」
「そうですね、残念ながら私には魔力がなく魔法は一切使えません。だからといって武術に秀でているという訳でもない」
儂の質問にアキラはそう答える。聞いてみて拍子抜けの過ぎる限りである、戦えないのに戦いをふっかけてきた上に部下を無駄に使っているのだから。
コイツは一体何がしたかったんだ、ただ単純に仲間が殺されて感情だけで先走ったのか?この感じだとユグドラシルがどうのってのはとってつけた理由だろう、準備が無さ過ぎる。
「降参か?なら、さっさとこの異変を解除してくれ」
「私はあなた方のようにこの身ひとつでは何もできません、しかし!」
諦めるかと思ったがアキラは唐突に白衣の下へ手を突っ込み、ジョウロを取り出した。中にはすでに水が入っているようでチャプチャプ聞こえた、そしてもう片方の手は白衣のポケットへ。
なんだ、何をする気だ?
「職員の皆がこんな私に着いてきてくれた、戦ってくれた。であれば私も応えなければならない。この子たちの力を借ります、私以外の職員を倒してしまったことを後悔させてあげましょう!」
アキラはポケットから手を勢いよく引き抜き、そのままこちらに向けて手を広げる。どうやら何かを握っていたらしく、手を開いた瞬間に小さな粒のような何かが飛んでくる。そして同時にもう片方に持っていたジョウロを振り、前に飛ぶ粒に中の水を振りかけた。
すると、
「うわっ⁉︎なんだ、植物か!」
水に触れた粒から緑色の触手のようなものが伸びてきた、狙いは儂とレンセツの方に一直線。
投げてきてたのは種か、どういう性質か知らないがアキラには一切反応してないな。ていうか今儂、剣持ってないんだが。
「はっはっは、面白いのう!なんか伸びてきよるぞ」
なんかレンセツは楽しそうに伸びてくる植物を刀で斬っている。
なんも面白くないわ、お前は刀があるが儂は今丸腰だからな!あれって触って大丈夫なやつか?
「ええい、仕方ない。素手で払う!」
何もしない方が怖い、とにかく振り払わねば。そう思い、勢いのままに自分の方に伸びてくる植物を素手で振り払う。
「お、案外いけるのか?.....いや、なんか刺さっとるぞ⁉︎」
感触は軽かった、いけたかと思ったのも束の間、植物は腕に刺さって腕の中を這い上ってきた。
痛くは、ない。が、なんだこの気持ち悪い感覚。
「こんの、離れろ!」
儂はすぐにその植物を引っ掴んで体から引っこ抜く。
「この植物は寄生型、魔力に触れることによって発芽。発芽したこの子は魔力を持つ何かに根を伸ばす、そしてそれが生物であった場合、乗っ取り魔力を吸い取りながら成長する」
「なるほどな、だからお前には見向きもせんかった訳だ。お前の体には魔力が流れてないから」
アキラの説明通りならめんどくさいことこの上ないぞ、何より侵入の仕方が厄介だ。入った瞬間は痛みが一切ない。
まさか、植物を武器として使ってくるとは。魔力があれば襲ってくる植物、魔力のない特殊な人間だからできる攻撃への転用か。植物にどれだけダメージ与えてもアイツにとっては痛くも痒くもないか、どうにかして近づかんとな。
「主よ、こんなのに苦戦しとるのか?」
「お前は刀を持ってるからだろうが、儂だって剣持ってりゃお前と同じようにーーー!」
突然のレンセツからの挑発の言葉、儂がそう返そうとしたその瞬間だった。
「ムハハハハ、話は聞いていたぞ魔王よ」
そう、つい最近、もっと言えば昨日聞いた笑い声が割り込んできた。
巌忽に匹敵する体躯とツルツルの頭、そのくせ腰まで届く長い髭のごっつい爺さん、やたらしっかりと着物を着用して背中にはでっかい筆を背負っている。
「は?なんでお前が!」
そういやいたな.....じゃない!まずい、厄介な奴がきやがった。堂雪、儂が知る中で最も最悪な鬼だ。
「このだるい感じ、そこの木が原因と。かったるいことをしてないで、さっさと薙ぎ倒して仕舞えば良いだろうに」
「こっちゃあ、それができないからこうしてんだよ!」
「否、それは違うだろう。できる、しかしそれをするとこの国に被害が出る。だからできない、つまりできるではないか!」
元も子もないこと言い出した、儂の否定も聞いちゃいない。
コイツの厄介な一番の理由は理屈を分かった上で関係ないと吐き捨てること。今の状況で絶対に会いたくない奴がきやがった。




