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九十二話 大樹をめざして

「さあ、早く行きましょう魔王様」


「儂は今、結構本気なんだがな」


 ネミルと共に今回の魔力吸収の解決のため、ユグドラシルを目指す。


 コイツ、目がキリッとしたからてっきり走るのかと思ったがベッド移動は継続なのか。


「それにしてもよくそんなに早く原因に気づいたな」


 儂からほとんど説明はしていなかったはず、それであそこまで推理できたのだから相当なものだ。


「いえいえ、ただ僕はここが好きでずっといただけですよ。報告書も日記のような感覚でしたし。むしろ、好きなことを仕事にしていただけて感謝しております」


 そうか、コイツは好きで好きだからこそ異変には誰より敏感なんだろう。ニュイ、見る目があるじゃないか。


「初めましての儂にそんな丁寧にせんでもーーー」


「みーつけたぞー!主よ、何も言わず置いていくなと言ったはずじゃぞ!」


 儂が次に口を開いたその瞬間、言葉を遮るようにして聞いたことのある声が。


「れ、レンセツ⁉︎」


 あ、しまった!素で忘れてた、そういやいたなコイツ。


「全く、昨日は随分と走らされたんじゃからな。町中探してもおらんから外の森にまで足を伸ばして.....」


「あー、わかったわかった。悪かった、今はそんなことで言い合っとる場合じゃないんだ」


 なんかぺちゃくちゃ長そうな話を始めたレンセツ、いつもなら言い返してやるところだが今は時間がない。


「レンセツさん、ですね。鬼の貴方でも気づいているはず、体が少し重いことに」


「ああ、魔力が吸われとる感覚じゃな。そうじゃ、主よ。この状況、メルルナはまずいんじゃないか?」


 ネミルが間に入り、簡単に伝えてくれた。その言葉にレンセツが儂の方を向き、不穏なことを口にする。


 ーーーっ⁉︎


「そうだ、メルルナ!アイツにとってこの状況は下手すりゃ命に関わるぞ!」


 メルルナの体は持続的に魔力を身体強化に絶えず費やされている、アイツは成長と共にそれに耐えうる体へと進化した。


 負荷を軽減するために進化した体にとって、負荷が減るということはかえって危険な状態になりかねない。この状況で娘たちの中で一番危険なのはメルルナ。なんで、こんなことに気づかなかった!


「..........っ!」


「おい待て、どこへいく気じゃ。主の向かっとる先はあの大樹じゃろ」


 感情のままに向かおうとした儂をレンセツが止めた。


「あっちにはルイナにニュイもおるじゃろう。それにこんなことを言うたが、メルルナはそんなにヤワじゃないわ!」


「ええ、今はこの魔力吸収を止めるのが先決かと思います」


「そ、そうだな。すまん、先を急ごう」


 まさかネミルにも言われてしまうとは、我ながら醜態を晒してしまった。


「いえ、もうすでに目の前まで来ていますよ」


 改めて大樹を目指して地を蹴ろうとした矢先、いつのまにか目と鼻の先まで近づいていた。


 ちょっと、出鼻をくじかれたな。まぁ良い、ついたならさっさと原因を取り除くとしよう。


「来ましたか、魔王」


 木に近づこうとしたその瞬間、ついさっき聞いた女の声が聞こえてきた。見ると、巨大な根の影から白衣を着た女の姿が。アキラである。


 マジか、最初から親玉が出てくるか。いや、ジンカイの時もそうだったか。やはり価値観が違うのか。


「阻止されるわけにはいかないのです、我々がここであなた方を妨害させていただく」


 アキラのその言葉を皮切りにゾロゾロと出てくる白衣の連中。ざっと百人くらいといったところ。


 と、一つここで疑問が浮かぶ。


「なぜお前らはここを選んだ、ここを落としてもなんのメリットも無いはずだが」


 この状態を早く解決すべきなことはわかっている、だがこれだけは聞きたかった。


 この国は見てきた通り、何もしなければ危険のない連中ばかり。それに落としたところで拠点にするには周りの森が邪魔、わざわざここを敵に回す理由なんざない。魔族ですらここに攻め入った記録は1、2回程度しか存在しないからな。


「それを、答える必要がありますか?」


 答えは返ってこなかった、そりゃそうだ。


「ですが、そうですね。強いて言うならば、この大樹を利用するためといったところでしょうか」


 話さないのかと思えば次にまた口を開いた。ゆっくりと根をさするように触れている、心なしか優しさのようなものを感じる。


「そうか。こっちはこの状態が続くのはよろしくないってことは理解してるはずだ、随分用意したようだが勝てると思ってるのか?」


 ここに来てからずっとあった心地の良い感覚、それはユグドラシルから流れてくる優しい魔力によるもの。魔族も人間も関係なく癒してくれる、あの木が魔族を選んだわけではなくたまたま魔族が先にここに住んだだけに過ぎない。


 そういや、考えてみたらここ回復場所としてはかなり良いんじゃないか?


「そちらは見たところ3名、数ではこちらが圧倒的ですが」


「あ、僕は戦いませんよ。というか戦えないので」


 アキラの言葉の後、ネミルが口を開いた。じゃあ、なんのために着いてきたんだ、と言いたいところである。


「じゃあ、下がってろ。レンセツ、すぐに終わらせるぞ」


「報酬は今回も良いもんを期待しとくぞ」

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