九十一話 ジェリエ
俺の父親は魔王だ、魔族の中で最も重要な存在。そんな存在の元に産まれたのだから相応の強さが必要だ、子が弱ければ他に示しがつかないからだ。そう聞いた。
姉さんは強い、誰にも負けないほどのパワーを持ってる。ミロも強い、はずだ。見たことはないけど、父さんの前であの態度はその証だろう。
「俺には何がある?」
ある日、ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。俺にあるのは距離があるのに何故か届く意味のわからない能力だけ、卓越したパワーでも強力な魔法でもない。
だからせめて心持ちだけでも強くなろうと強く見せようと俺の身近のーーーーの真似をした。だが、
「ジェリエ、あなたにその口調は似合わないわ〜。あの頃のあなたならきっと素直に、そしてお父様も喜ぶと思うわよ」
父さんがいない時、姉さんからダメ出しされた。でも今更変えることなんて.....
そう思ってたけど、ジェリエが突然走り出したあの時、父さんに思わず素で話しかけてしまった。
「あぁ、やっちまった」
予想外に慌て、父さんに助けを求めるような言葉を吐いてしまった俺は弱い奴だと見限られるかと思った。
でも違った、父さんからは普通に言葉が返ってきた。その時、父さんも取り乱していたのを見てさらにホッとした。あんな状況だったけど、父さんと会話できていることが心底気持ちよかった。
「これでよかったんだ」
そう気づいた、その瞬間姉さんに深く感謝した。
ーーーそんな姉さんが今、
「う、うぅ.....突然体が重く〜」
俺の目の前で苦しそうな声を上げて膝をついていた、顔は依然として笑顔だけど少し引き攣っても見える。
な、なんで.....俺も体は重いけど全然立ってられる。てか、いきなりきたこの変な感覚何?
「これは魔力が吸われてますね」
俺の隣でルイナが口を開いた、この変な感覚は魔力が吸われてるせいらしい。
「ルイナ、姉さんだけ明らかに酷くねぇか?」
「メルルナ様は少々特殊な体質、そのせいで魔力吸収によるダメージが大きいのでしょう。おそらく難しいかと思いますが、立てますか?」
ルイナが姉さんに手を差し出す。
「ごめんなさい〜、この状態から指一つ動かせそうにないわ〜」
ルイナの言葉にそう答える姉さん。
めっちゃ重症じゃねぇか!
「姉さん、ホントに大丈夫なのか?」
「ふふ、わたくしのことは気にしなくて良いわ〜。それよりも無事なうちに隠れておきなさい」
俺の心配は簡単にいなされた、やっぱり姉さんは強い。
「姉さん、それは聞けねぇよ。俺より重症なくせに偉そうなこと言ってんじゃねぇ」
「そっか、ジェリエも強くなったわね〜。わたくしのこと、守ってもらっちゃおうかしら〜」
やっぱり笑う姉さん、どんなに辛いのか想像はできないけどかなり無理をしてるのくらいは分かる。
「もう、俺の前で強がる必要なんてないのによ.....」
思わず俺はそんな言葉を呟いてしまった、姉さんだって姉さんの考えがあることは分かっているはずなのに。
「良いですね、魔王様にお伝えしたいほどです」
何故か俺と姉さんのやりとりに生暖かい目を向けてくるルイナ。
「まぁ、正直なところこの状況はすぐに回復するわ〜。お父様が動いてくれているはずだから」
「ああ、父さんも気づいてるはずだしな」
父さんの信頼感は大きい、姉さんとルイナのこの穏やかな余裕は父さんのおかげだ。
ーーーと、
「「「..........っ⁉︎」」」
突然近くで炎が上がる、その方を見ると二人の男の姿が。
「ひゃー!さいっこうだな、雑草燃やし放題だぞ!」
「必要のないことをするな、無駄な殺生は余計な恨みを買うぞ」
一人は嬉々として植物の魔族を炎の魔法で焼き、もう片方はそれを諌めている。
アイツらがつけてるのは、確か父さんが言ってた白衣とかいうやつだ。でも、敵かは微妙なとこだと聞いたな。
「なるほど、彼らの仕業でしたか。二人とも、よくは分かりませんが離れた方が良さそうです」
その二人を見たルイナが納得したと言った感じに話した後、俺たちにそう促す。
「.....分かった」
「そう、ね。なんとか、動かないと.....」
俺はそれに同意した、姉さんも頷き体を動かそうとするが一切動ける様子がない。
そんなことをしているとーーー
「おいおい、草以外の魔族がいるぜぇ?」
見つかった、それもよりヤバそうな方に。
「そうだな、放っておけ。ロイ、我々の任務は魔族を殺すことではない」
「はっ!まーったくよぉ、グンザ。テメェがどうかはしらねぇがオレの国じゃあ魔族は見たなら殺さなきゃならない。殺した方が良い、じゃない殺す!それが当たり前。任務以前の問題なんだよ!しかも弱そうなのしかいねぇ、これはラッキーなことなんだよ」
もう片方のやつが止めるも、止まる気配がない。なんでもなく、いなくなってくれそうかと思ったがそうはいかなそう。
「お二人は後ろに、ここは私が」
俺と姉さんの前に立つルイナ。
「待て、俺も戦うぞ」
どういうつもりだったのかは分からない、でも俺もただ守られてなんでやらない。そう思った。




