八十九話 第八研究室室長
「改めまして、俺は第五研究室室長『深山 京路』、シンザンと名乗っているのであなたもそう呼んで欲しいッス。そしてこの人はーーー」
「第七研究室室長『仁海悠也』、および重要職員『筒那 菜々瀬、特別職員『マイズ・ソレール』、その他職員372名」
男の方が名乗った、次に隣の奴のことも紹介しようとするも本人がいきなり三人の名前をあげた。その女の方だが、こっちは落ち着いている印象。深緑色の綺麗な髪をしており、長いそれを後ろで三つ編みにしている。白衣の下は緑色を基調としたピシッとした服を着用しており、七色の花が連なった様な首飾りをかけているくらいである。
な、なんだいきなり⁉︎多分ジンカイのとこの連中を言ってるんだろうが、三人目は誰だ?
「初めまして、魔王様。私は第八研究室室長、アキラと申します」
開口一番に被害人数を口にした女はアキラと名乗った、どうやら室長だったらしい。二人もくるとは、研究所一つを壊したことは相手にとって儂が思っていたよりも深刻らしい。
にしては片方の態度が緩い気もするが。
「あ、本名は『暁 瑞珠』ッス」
「は?何勝手に私の名前言っちゃうわけ?」
「だって、俺はちゃんと名乗ったのにお前だけずるいと思ったんだよ」
シンザンがアキラの本名を口にしたのがお気に召さなかった様だ、ちょっとした口論が始まった。両方が早いこと名前を明かしたが、やはり偽名というか通称みたいなものを使っているらしい。
まぁ、そこはジンカイと同じ様に通称呼びでいいか。それよりも気になるのは、こいつらの素性だ。
「.....おそらく悠也との一件で察してるとは思うッスけど、俺たちはいわゆる『異世界人』と呼ばれる存在ッス」
儂の含みのある視線に気づいたか、シンザンの方がこちらを向く。
異世界人といえば、百年と少し前くらいから人間たちの国で始まった召喚術により呼び出された別世界の住人のことだ。あの時魔力反発が発動しなかったのは、魔力そのものが存在しない場所から来た人間だったから。案外早く答え合わせできたな。
「そうか、だが儂の記憶が正しかったらあの召喚術は国に一つ、世代ごとに勇者の召喚を一回のみだと決まっているはずだが。本来自由に出てこられる身分じゃないだろ」
「流石、よく調べてるッスねぇ。まぁ、人間側にも色々あるってことで」
一体人間は何を考えているのか、疑問は解消されたがそれによって新たに生まれた疑問ははぐらかされた。
「まぁ良い、今儂は大事な用事の真っ最中だ。さっさと消えてくれると助かるが?」
「はは、その様で。まぁでも気づいてるッスか?残念なことに、俺『は』なんスよ」
儂の言葉にシンザンが不穏なことを言いやがった。
「そろそろ良いかしら、私の目的はシンザンとは違います。単刀直入に言いましょう、あなたには本組織へ手を出した代償を支払ってもらいます」
まあ、いきなり被害人数言い始めたところから怪しかった。
「代償って、俺はどっちかというとジンカイ側が手を出した方だと思うんだけど。国からもお上からも何も言われなかったしさ」
「どちらが先に、は問題ではなく手を出されたのに何もしないこと。元の世界ならばそれでも良かったでしょう、でもこの世界は違う。手を出しても何もしてこないと思われるわけにはいかないのです」
「本人を目の前にしても気持ちは変わらず、か。魔王様、俺はここらで失礼するッス」
シンザンとアキラはしばらく話したが、結局考えは変わらずシンザンは諦め魔道具を使用して姿を消した。
無理矢理にでも連れ帰って欲しかったな、さてどうするか。
「くるかもとは思ってたが、こんなに早く報復が来るとは.....ん?」
儂がそう呟いた時だった、背後から自分に向かって飛んでくる何かの気配を感じた。だが、問題はない。こっちには魔力反発がある、それが届くことはーーー
「っ⁉︎まずいっ!」
ないはずだった、後ろから飛んできた何かは弾くことができなかった。幸いすぐに気づき、即座に掴んだ。
「これは、矢か」
掴んだそれを目の前に持ってくる、それは鉄のやじりがついたごくありふれた矢だった。魔力を纏っていないために弾けなかったらしい。
後は.....森か。姿は確認できん、木々の間から狙撃してきたみたいだな。
「おいおい、こういうことしてくるか。手を出したなら、覚悟はあるな!」
こっちに理由がなかったため、できればやり合う根は避けたかったが仕方ない。
「今ので倒せるとは思っていませんでしたが、無傷とは。では、こちらも本気で」
「何をする気.....なっ⁉︎なんだ、いきなり体が重く!」
アキラの言葉の後、突然体を倦怠感が襲ってきた。




