八十八話 三度目の遭遇
「あぁ、良い湯だったな〜」
温泉、旅行の定番だがこれまでまともに入れなかった。ゴスラークではそもそも長居をしていない、千歳京では入ったには入ったがあれは思い出したくはない。
ニュイラムでは大浴場には入ったがあれはもはや旅行ですらなかったから論外。ヘルクレナはまぁ、あれじゃあな。
「なんで毎度毎度、行く先々で巻き込まれにゃならんのだ。魔族の国ってのを差し引いてもあまりにも起こりすぎだろ」
儂は翌日の朝風呂を堪能した後、宿の廊下を独り言を言いながら歩いていた。
「おや、どうもぉ。ふわぁ〜.....良い朝ですねぇ」
そんな儂の前にある男が現れる、やたらと眠たげな瞳と緩み切った声。
「ネミルか、どうした?」
そう、つい昨日この国の案内役をやってくれた奴だ。相変わらず眠そうな様子でフラフラしながら、そこに立っていた。近くにあの浮くベッドは見当たらない、中では普通に歩くのだろうか?
ん、コイツ立てたのか。いや、流石にそうか。
「ルイナ様よりぃ.....伝達を承りぃ.....ました。ジェリエ様とメルルナ様と先に宿を出ているとのことぉ、すぅ.....」
「ーーーっ⁉︎おい、待て待て待てっ!」
ルイナからの伝言を話したネミル、終わるや否や立ったまま寝落ちをかまして体が大きくふらついた。倒れそうな姿を見て、思わず体を支えに行ってしまった。
あっぶなっ!本当に倒れる様なことはないんだろうが、心臓に悪すぎる。
「あぁ、あなた様の手を煩わせてしまい.....申し訳ない〜」
「おまえ、大丈夫か?」
そんな様子のネミルにまたも思わず言葉が漏れてしまった。
ーーーと、
「ん、父か。おはよ、どこか行くのか?」
そんなこんなネミルと話していると、背後から声がかかる。見るとミロが後ろに立っていた。
そういや、コイツだけ伝言の中に含まれてなかったな。おおかた面倒くさいとかで二度寝でもしたんだろう、コイツも目が開き切ってない。
「お前こそ、おねぇちゃんたちに着いていかなかったのか?」
「まだ朝早かったし、二度寝した。昨日はよく眠った、良い朝」
思った通りだった、昨日あんなに寝たのにのによく寝れるものである。
儂なんかまだ日が上がってない時間に目が覚めたというのに.....
「とりあえず出るか、今日はとりあえずぶらぶら歩こう」
せっかくの旅行、宿でダラダラしているのは勿体無い。儂はミロを連れて宿を後にする。
「申し訳ない、僕には少し仕事がぁ.....残っていまして〜」
その際、ネミルとはここでお別れということになった。まぁ、引き続き案内役を任せても正直安堵したのは本人には内緒だ。
「.....そういや、あの木は結局行かなかったな」
宿を出た儂はふと上を見上げる、その瞬間目に飛び込んできたのは頭上を覆い尽くさんとする緑。魔力を豊富に含んだ土壌から生まれた規格外の大樹、ユグドラシル。
「馬鹿でかい木だよな、こんな木他じゃまず見れない。せっかくだから根元まで見に行ってみるか?」
「えぇ、遠そうだから嫌ーーー」
「よし、行くか。行くぞ、ミロ!」
明らかに嫌そうな顔をしながら拒否の言葉を返そうとしたが儂は無理矢理遮る。
聞いておいてなんだが、答えは決まってるんでな。悪いが付き合ってもらうぞ、ミロ!
「おや、そこにいるのは魔王様では?」
突然、声がかかる。今回は知らない声だ、聞いたことのない男の声。しかも魔王と呼びやがった、すぐに声を聞こえた方を見る。
「誰っーー!だ.....あ、あぁ」
その姿を視界に収めた瞬間、変な納得感で声に力がなくなる。それもそのはず、その声の主は白衣を着用していた。そして二人いる。
十中八九ジンカイの関係者だろうな、しかも魔王って呼びやがったよ。もしかしたらしてないかもとか思ってたが、そりゃ情報共有ぐらいするか。
「その反応、傷ついちゃうッスよ。いやなに、俺は別に仕返ししてやろうってんじゃないッス。魔王が第七研究所を襲撃したってんで、そんな行動的な魔王をこの目で見てみたかっただけッスから」
「..........」
男と女の白衣ども、男のほうがずっと喋って女のほうはずっと黙ってる。その喋っている男のほうだが、青年といった出立ちで髪はオールバックで透き通る様な水色である。あとはやたらと装飾がジャラジャラしているのが気になるくらい。
多分目に見えて嫌そうな顔をしてたんだろう、それは仕方ないと思う。ジンカイにはかなりしてやられたからな。
「まぁなんつーか挨拶ってやつッスよ。一応悠也とは同じ国に所属してるもんで他人事に出来なくて、なかなかに曲者なお偉いさんからの条件をほとんど引き受けてくれてたんでこれから忙しくなっちゃいそうなんスよねぇ」
な〜んか、話してるがこっちとしたらどんな理由だろうともう二度と出会したくはなかったな。




