八十七話 ユグドラルでの一日
「うーむ.....」
自然あふれる国の花畑の中心で思わず唸ってしまった。周りには色とりどりの花が咲き乱れ、花の香りに包まれた昼寝。
これまで神経を張ってきた儂にとってそれは素晴らしいもののはずだ、いや素晴らしいものだった。だがそれが4・5回目ともなれば、流石にやり過ぎだ。
「す〜す〜」
隣で気持ちよさそうに熟睡しているのは、これの元凶ネミル。コイツは最初からこれまで全て案内が睡眠スポットだった。
この国で一番気持ちがいい木陰やら鳥の歌声が心地良い森の中の枯葉のベッドやら、もう寝過ぎて首が痛い。
「ふふ、わたくしはもう十分ですわ〜。ジェリエも飽きてしまった様ですし、一緒に色々と見てまわって来ます」
メルルナがそう言って退屈そうなジェリエを連れて離れて行ったのはここに来て少し経ってのことだった。念のためルイナにもついて行かせた。
それでここに残っているのは.....
「父、ここは良い。いくらでも寝れる、バリエーションもある」
以外にもミロには大好評だった、2、3度目から景色を楽しみ始めた儂らとは違いコイツだけはネミルと一緒に眠っていた。
正直これを楽しんでるのがネミルだけなら儂はすぐにでも案内を中断してやったのに。だが、これまでで一番退屈そうだったミロが気持ちよさそうにしてるのは悪い気はしない。
「にしても、よく寝られるなお前たち」
儂は若干ため息混じりにつぶやいてしまった。
「ふわぁ.....さて、楽しんでいただけましたかぁ〜?」
しばらくしてようやく目を覚ましたネミル、大きく伸びをしながら体を起こして内股座りの体勢で目を擦りつつ聞いてくる。
髪はボサボサ、顔は悪くないのに勿体無いな。毎度思うが、バクって種族はこれでよく絶滅しないな。
「では、そろそろ戻りましょうか。もうすぐ日が傾いて来ましたからぁ〜。あなた方は流石に野宿はされないでしょう?」
「まるでお前は平気で野宿前提みたいな言い方だな、だからベッドなのか?」
「すやぁ〜」
そう聞き返すもすでに眠ってしまったらしいネミル、答えは返ってこなかった。そして静かにベッドが動き始める、おそらく宿にでも案内してくれるんだろう。
もう寝てる、本当言いたい時だけ目を覚まして言いたいこと言ったらすぐに寝やがる。寝てる時でも儂の声を聞くことは可能なはずだから、反論なしで肯定を意味してるんだろうがやりずらいな。
「あ、もう行くか?」
「ああ、行くぞミロ。どれだけ寝心地が良くてもここは外だ、夜明かしすることはできん」
自然のベッドと言えば聞こえは良いが、ネミルの言う様に野宿。流石に抵抗がある。
案外時間が経ってたんだな。そういえば旅行中一回もまともに宿で寝てなかったな、今回はと、さっき思いついてルイナとネミルに言っておいたからな。
「すぅ.....すぅ.....」
「ふぅ、結構遠かったんだな。森を歩いてたら辺りが暗くなって来たぞ」
終始寝たままのネミルの案内は最初の建物が並ぶ地点に戻り終了となった、その頃には太陽は沈み空には星空が広がっていた。
「魔王様、戻ってこられましたね。待っていました、お二人は先に宿の方にいますので」
ルイナが待っていてくれた様ですぐに合流できた、どうやら宿は見つけてくれたらしい。
おお、ありがたい。いきなりのことで正直どうかと思っていたが。
「ああ、じゃあーーー」
「ムハハハ.....!」
儂が口を開いた直後だった、近くから荒々しく豪快な笑い声が聞こえて来た。
「こ、この声は、奴が近くにいるのか?」
「ええ、それがあそこが酒屋になっていまして。しばらく前からずっと入り浸っている様です」
儂はこの声、笑い方に覚えがあった。ルイナの反応からそれは間違いないとわかる。ルイナの指した方向には木造の他とは明らかに大きさの違う建物があり、酒のマークの看板がデカデカと掲げられていた。
中は見えないが、ルイナのこの反応はアイツがいるのは確実か。てかなんでまたこの種族と遭遇するんだ、ほんと自由な奴ばっかりだなあの国は!
「あの鬼、こんなところで何やってんだよ。アイツとだけは絶対に関わり合いになりたくない、早く離れよう」
酒を飲んでる鬼ほど厄介な奴はいない。確信になるや否や儂はそう言い、さっさとその場を後にした。どんだけでかい笑い声なのか、歩いている間かなり長いこと後ろから聞こえていた。
「着きました、ここです」
数分歩いた後、ある建物の前でルイナが立ち止まる。その先にあったのは二階建てのどこの国にでもある一般的な宿だった、強いて言うならちょっと古いタイプ。
よし、何事もなく着いて良かった。鬼は勘がいいからもしかしたら見つかるかとヒヤヒヤしてたが杞憂だったな。
「ルイナ、よくやった。落ち着いた感じで、良い」
「どうやら、ミロのお眼鏡にもかなったらしいな。さて、今夜はゆっくりするか」




