八十六話 ユグドラル案内人
国の周りをぐるっと囲む様にできた森を抜け、馬車を停め外に出る。
「着いたな、にしても魔族の住む場所とは思えんほど落ち着く景色だな」
ユグドラル、二階建て以上の建物はなく、その景色のほとんどが自然で占めている。中央と思しき場所には巨大な木がそびえている、それがこの国の名前の由来となった。ユグドラシルと呼ばれている。
とは言っても外の奴が勝手に呼んでるだけで、実際のところこの生態系への影響はあるもののそんな大それた木でもないって話だったが。
「魔王様、先に四天王補佐に連絡を入れておきましたので案内が来るはずです」
先に降りていたルイナが儂に近づき、そう話す。
ああ、案内役を用意してくれたのか。ニュイのとこの補佐か、そういえば実際に会うのは初めてだな。何回か来たことはあったが、毎度会うことはなかったな。
「なんか自然って感じの匂いがするな」
「すぅ〜〜〜、やっぱりここはいつ来ても落ち着く香りですわ〜」
儂の後に降りてきたジェリエ、物珍しそうに見回している。その胸にはもちろんニュイが抱かれている。その次はメルルナ、大きく息を吸って満足そうに口を開く。
二人には好印象と見て良いか、後はミロだが.....
「なんか、静かそうな場所」
遅れて降りてきたミロ、言葉を聞いた限りは悪い印象は受けてなさそう。
ーーーと、
「どうやらお越しくださった様ですよ?」
そこで儂より先に降りていたルイナが口を開いた。儂はその方向に目を移す、そこにいたのは、
「すぅ.....すぅ.....」
フワフワ浮くベッドで心地良さそうな寝息を立てる青年だった。
「え、ええと.....」
なんとも気持ちよさそうに眠っている、来てくれたとは信じ難いほどにぐっすりである。輝く銀髪は手入れが全く入っておらずぼさぼさ、肩までとかなりの長さをしている。ダボっとした寝巻きの様な服装、青に星型の模様が入っている。
「寝ていらっしゃいますね、では私からこの方について説明をいたしましょう。魔王様も確かこの方とは初対面でしたよね?」
「ああ、だが大体予想はついている。ニュイの補佐だろ?」
それ以外に考えられない、さっきもそんな話をしていたしな。
だが、なんで寝てるんだ?案内役という話じゃなかったか?
「彼の名はネミル・ホワール、四天王補佐でユグドラルの案内人をお願いした方です」
「う、うぅん.....あれ?今誰か僕の名前を呼んだかい?」
ルイナの言葉で目覚めたか、目を擦りながらゆっくりと頭を浮かせてこちらに視線を向けるネミルとかいう奴。
「ふわぁ〜、えっと魔王様御一行ですね?僕はネミルと申します、この度は〜あなた方の案内を.....担当させて.....すぅ〜」
「ん?おい待て、また寝たのか⁉︎」
重いまぶたを開いてゆっくりと自己紹介をしていたネミル、しかし言い切る前に睡魔に負けたらしい。また目を瞑り、寝息を立て始める。
おいおい、大丈夫かコイツ⁉︎これで案内役が務まるのか、というかこれで四天王補佐が務まってるのかも怪しいぞ。ニュイが決めた相手だからと確認せずに通したのは間違いだったかもしれん。でも、報告書は毎度しっかり届いてたんだがな。
「大丈夫ですよ、彼の話は終わりました。さあ、動き始めましたよ、ついていきましょう」
随分と不安なネミルだが、ルイナは何故か平気な様子で話を進める。ネミルの方を見ると、ルイナの言う通りベッドがフワフワと移動を始めていた。
本人が寝てるのにベッドが勝手に動いてるな、魔道具か。半信半疑だが、ルイナを信じてみるか。
「.....どこへ向かってる?」
「すぅ〜すぅ〜」
ネミルのベッドについていく最中、話しかけてみるも深い眠りに入っているのか返事はない。
「「「..........」」」
儂の後ろには娘たちが続いている、最初こそ話していたが心地よさからか途中から静かになっていた。ちなみに辺りの様子だが人型の植物たちが多く目に入る、それ以外にもゴーレムも歩いている。これは植物系の魔物の特性だが、こちらにあまり興味を示していない様子でほぼその場で動いていない。
本当、人型をしてる以外はただの植物って感じなんだよな。危機が迫らないと動かないし、喋らない。話しかけりゃ喋ってくれるが、結構度胸がいる。不気味な特色はあるが景色や空気が良いからな、旅行先としてはそれなりに人気があるんだよな。
「彼は『バク』という少し特殊な種族です、こんな様子ですが真面目な方なので安心してください」
「ああ、バクか」
バク、その名をつけられた種族は他の種族に比べてかなり特殊な生態を持っている。それは一生のほとんどを睡眠に費やすというもの、一日中寝っぱなしというのもあるらしい。ネミルのこの様子も納得である。
しかも寝ながら魔力の操作だったり体を動かすこともできるって話だ、ただ喋るのだけは起きる必要があるらしいが。てっきり怠慢かと思ってたがなるほどな。




