八十五話 植物種の国
「あ、ああ、どうしたもんかこの状況」
ヘルクレナを出発後、儂らは次の国へと向かう馬車に揺られていた。ジェリエは何故か睨むのをやめ、儂の右隣に座っている。左隣にはミロ、ここまではいい。
「なんで儂を挟んで二人で菓子を食べとるんだ?ああ、ポロポロと膝に」
「気にしなくてもニュイが食べてくれるだろ」
菓子の受け渡しのたびに膝にカスが膝に落ちる、儂の言葉にジェリエからそんな言葉が返される。そこに鋭さはない。
「ジェリエと仲直りできたようね〜」
正面に座るメルルナはさっきから微笑むだけで止めてくれない。
いや、違うな。メルルナは儂がそれを望んでないことを察しているのだろう。嫌われていた理由も改善した理由も分からないが、不覚にもこの状況を心地良いと感じてしまっている。
「だが、流石にそろそろやめてくれるか。儂の膝が見るに耐えない状態になっとるから」
心地が良いといってもこれ以上は儂のズボンが持たない。
「ああ、流石に止めるか。ミロ、袋ごと渡して」
「ん、分かった。はい、ジェリねぇ」
聞いてくれるか少し不安だったがあっさりと引いてくれたジェリエ、前までとは天と地の差である。
.....そういえば、この二人の距離も縮まってるような。まぁ、儂が見てないところでは案外こうだったのかもな。どちらにしろ、娘が仲良さそうなのは見ていて嬉しくなるものだ。
「あ、取り込み中申し訳ないのですがもうすぐ到着いたします」
そんな話をしていると、ルイナの声が聞こえてきた。
もうか、楽しい時間は過ぎ去るのが早いな。まぁ、この様子なら観光も楽しくできるだろうし大丈夫か。
「へぇ、もう着くのか。もぐもぐ.....」
「次はなんの国なのか、とりあえず.....むぐうむ、面倒なことにならないならいい.....んむもぐ」
なんか両隣から咀嚼音が絶えない、二人とも儂に寄っ掛かっとるせいで儂にもポロポロと。
目的地に着くようだから二人にはそろそろやめさせるべきか。この状況は儂にとって天国だが、それじゃためにならんだろう。
「ミロ、ジェーーー」
「二人とも、お父様が好きなのは良いことだけどそろそろこぼしたそれ片付けようね〜」
儂が口を開いた直後、メルルナの言葉にかき消された。
「姉さん、そうだな。ごめん」
「むぅ、メルねぇ.....分かった」
やはり儂よりも二人とは長く付き合っていたのだろう。メルルナは慣れたように注意をし、二人もおとなしくいうことを聞いている。
ーーーそれから数分程度で車窓の景色が深い森へと変貌する。道はあるがそれ以外は樹木がまるで自然そのものが如くどこまでも生い茂っている。
「入ったか、ここからはしばらく景色に変わり映えがなくなる。これから行く国の話でもするか」
「お、気になってたやつ。早速教えろよ、父さん」
儂の言葉に一番に食いついたのはジェリエ。本当に前までの敵意がどこへやら、目をキラキラさせているのが分かる。
ジェリエ、結構グイグイくる性格だったのか。正直なところ、この反応狙いで話題を出したから嬉しい結果だ。っていうか、ジェリエ以外は積極的に話しを聞いてくれる子じゃないからな。
「まず国の名前は『ユグドラル』、簡単に言うなら植物の楽園。アルラウネ、マンドラ、その他多くの植物種の魔族が住む.....いや、自生している」
「わたくしも前に一度訪れたけれど、花の香りに包まれた心地の良い場所でしたわ〜」
儂の言葉に続けてメルルナが付け足した、確かに前ここを訪れた際に同行させた覚えがある。もちろん他の二人も行かないかと聞きに行った、その時は断られたが。
「この国は他と違って王が存在しない、建物はあるにはあるがほとんどは樹木と花畑が占めてる。植物種のやつらに家というものが必要ないからな。後国を守るための壁なんかは一切ない、あるのは今通っている森が国を囲っているくらいか」
「それって国か?」
そこで疑問が頭に浮かんだらしい、確かにここまでの話を聞いただけでは植物の魔物が集まってるだけの森としか思えないだろう。
「国って体裁をとってるだけだ、そもそもここには上に立とうと思う奴はおろか国というものに執着がないしな。いうなら観察だな」
「観察ってなんだよ、実験でもしてんのか?」
「ええと、そうだな。四天王補佐がやる主な仕事は知ってるか?」
次にジェリエから発せられた質問、これを説明するためにはまずこれについて知っている必要がある。
「前に聞いたことがあるな、四天王が管轄にしてる国の視察と管理だっけ」
そう、四天王はそれぞれに国を管理する役目も担っている。だが、四天王は通常は魔王城に常駐していなくとはならないために実際に国を見ることはほとんどできない。
その時に必要になってくるのが実際に見て報告する役目、それが四天王補佐ってわけだ。まぁ、今屋根にいる鬼はこれをサボってるが。
「知ってたか、なら話は早い。そりゃ最初はただの森でしかなかったが、国レベルで数が増えれば話が別。管理までは行かずとも観察は必要と判断されたわけだ」
この国は例外的に国にされた。故に観察者はいても統治者はいない、ちょっとおかしな性質を持つ国である。
ーーーと、
「魔王様、そして娘さまがた。もうすぐ森を抜けます」




