八十二話 エフトの妨害
馬車の後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この声はエフトだな、アイツは暗鬼を連行していた筈だが。
「今すぐその馬車置いて行ケ、さもなくば攻撃すル!」
一体何があったのか、怒りと焦りが入り混じったような声で警告を受ける。しかも馬車を所望してきた。
「おーおー、あの娘かなり怒っとるぞ?何をしたんじゃ、主よ」
「いや、特に身に覚えはないが。なぜ馬車を?話してみるか」
馬車の上にいるレンセツがエフトを確認、どうやらかなり怒っているらしいが一旦話を聞いてみることにし、馬車から降りる。
「出てきたナ、やっぱりいタ。いきなりで悪いけド、その馬車を破壊すル!」
「すまんが、話が見えてない。暗鬼はどうした?」
殺気に近い怒りを感じる、同時に何かに焦っているようにも見える。
「暗鬼は千歳に強制的に帰すことになっタ、てっきり待つものと思っていたが切り捨てるとハ」
思っていた数倍重い罰を受けたらしい、まさか国に強制送還されることになるとは。
なんか人聞きの悪い言い方されてるな、側から見たらそう見えるのはしょうがないか。まぁそれはいい、問題なのは。
「馬車を破壊する、と言ったな。理由を聞かせてもらっても良いか?」
「その馬車が気に入らなイ!」
馬車に不満があるらしい、いや何故?
意味がわからん、これも暗鬼が言ってた龍族の理不尽なのか?
「今すぐその馬車をこっちに渡セ、とにかく破壊すル!安心しロ、少し時間はかかるが代わりの馬車は用意すル!」
焦った様子でなんとか説得しようとしていることだけは伝わる、しかし中身が無さすぎる。
冗談じゃない、そんなバカみたいな理由で馬車を破壊させる訳に行くか!
「何か理由があるなら言ってくれ、できる限り協力する」
「分かっタ、もういイ!実力行使にでル、悪く思うナ」
次の儂の言葉にエフトは我慢の限界がきた子供の如く、無理矢理に会話をぶった斬り腰の二本の剣を徐に引き抜く。
メチャクチャだ、何の事情があるのか知らんがとりあえず落ち着かせんことには話にもならん。
「レンセツ、仕事だ」
あっちが剣を抜いたからにはこちらもそれ相応の対処せねばならない、儂は護衛のレンセツを呼ぶ。
「ほう、酒は?」
「買っている、ここの酒の中でも上等品らしいやつをな」
「そうこんとな、良いじゃろう。我が相手をしよう、竜とやり合うのは久方ぶりじゃのう!」
報酬の話を今するか、とは思ったがそこは飲み込んだ。レンセツは嬉しそうに馬車から降りてきた。
「鬼が相手カ、良いヨ。でも、まずは馬車を守れるかだよネ!」
意気揚々とエフトの前に立ったレンセツ、そこでかけられた言葉は何かありそうな.....
おおかたレンセツを通り抜けて馬車を狙おうとか考えてんだろうが甘いぞ。
「聞いたことぐらいあるだロ?龍のみが持つこの特別な力ヲ!」
双剣の片方を空に掲げ、そう告げた。次の瞬間、エフトの後方から巨大な波が現れる。その後ろに川や湖といったものはなく、突然水が波の形でその場所に現れたのだ。その進行方向は当然のようにこちらに向いていた。
ああ、知ってる。龍族とは何度か戦ったこともあるからな。龍族の咆哮は災害を呼び出せる、あれは龍族の中でも水龍種が持つ能力。これの厄介な点は叫ぶこと自体は生物全てに許された行為であること、つまりあれは魔力の消費を必要としない。
「こりゃ大したもんじゃ、ここまで立派な咆哮を出せる奴はそうはおらん」
レンセツは感心した様子でしばらく目の前の波を見つめる。
龍族は確か大きく分けて三つの種族がいる、目の前の水龍種、火龍種、雷龍種。確か能力の他に種族同士で思想や派閥でも分かれていたか、今は関係ないが。
「手加減はなイ、調子こいてたら流されるゾ!」
「はは、そうじゃのう。そろそろ動くとしよう、我は受けてやっても良いんじゃが今の我は守るのが仕事」
余裕をこいていたレンセツ、波が目前に迫ってやっと刀を構えた。そして徐に刀を振るう、たちまち波は一刀両断するとともに全ての水がエフトの方へと吹き飛ぶ。
「はぁ⁉︎ーーーっ!」
エフトは自分の生み出した水の横殴りに襲われる、しかしその時頭にあるのは別のことだろう。
レンセツのことはもとより心配していない、別の心配はあるがな。
「な、何をしタ?斬撃だけで全ての水までは返せないはズ、今のはまるで跳ね返した見たいニ.....」
「やはりそう見えるか、不正解じゃ。跳ね返した、じゃなく押し返したが正しいのう」
エフトは今起こったことの異常さに気づいたらしい。
確か前にレンセツを風魔法の使い手だとか言ってた奴がいたが、そうじゃない。レンセツは風魔法ではなく衝撃魔法、というあまり聞き馴染みのない魔法の使い手だ。




