八十話 戦う甘味
シャノンの魔法はお菓子を戦わせること、そのお菓子の攻撃を受けると直に胃にお菓子が投入されるらしい。
なるほどな、シャノンが言った満腹というのはまんまその意味だったわけだ。したら何か?シャノンと戦う場合、体力云々より胃の総量がものを言うのか?
「うぅ.....んな、アホなぁ」
さっきの飴でできたドラゴンがかなり効いているらしい。暗鬼はうめき、立てずにいる。
「見るに7、8分目ぐらいと見える。卿、それ以上は動かないことを強く推奨する。小生も卿の嘔吐は本意ではないのだ、見ている可愛い子らにトラウマを抱かせかねない」
「ふ、ふざけとんちゃうわ、こんな間抜けな敗北があるかいな!まだ、やれる」
シャノンの提案、それをを却下して暗鬼は立ち上がる。決意を込めたような瞳で、強敵に屈さないと言わんばかりの勇士のような。
すごいな、どっからどう見ても暗鬼が間抜けにしか見えん。
「おやめを、意地ややる気でどうにかなるものではーーー」
「鬼の代謝速度を舐めたらアカン、甘味が腹パンパンぎりぎりまで溜まっとるんが何や!んなもん、すぐに消化したるわ」
暗鬼が立とうとするのを止めるシャノン、そんな言葉虚しく暗鬼は思い切り立ち上がった。
ん?さっきまでもうちょっと腹が出てなかったか?
「それにそう簡単に吐いたるかいな、女の体液は有料やで」
「.....卿の覚悟、理解した。では小生はこれより本気の一品をご馳走しよう」
強がりだろう言葉に感銘を受けたらしいシャノン、何やら手を前に出して生成を始める。さっきまでチョコやら飴やらすぐに出したのに今回は時間がかかっている。しばらくしてようやく出来上がったのは。
白いドレスを着た.....人間?
「へぇ、見た目に反して随分と可愛らしいの作るやん?待っとった間にもう十分消化できたのに、ちょっと攻撃しにくいなぁ」
それを見た暗鬼は嫌味が混じっていながらも褒めた、それくらいには現実離れしたものが目の前にあるからだ。シャノンが作ったのは白い髪、白いドレスの精巧すぎる人間の女。指から顔の造形までまるで生きているかのような出来、手にはこれまた真っ白な剣が握られている。かろうじて異常なほど真っ白なおかげで作られたものだと理解できる。
チョコの騎士やら飴のドラゴンやら、あんなものは序の口だったのか。本気を出したらここまでのものを作れるとは。
「ぜひ召し上がっていただきたい、卿にはその権利がある。そう小生に言わしめたのだ」
シャノンは嬉しそうに両手を広げ、そう告げた。一体どういう感性が働いたのだろうか?理解はできそうもない。
覚悟も何もただの嫉妬と負けを認めたくない頑固さから出た強がりにしか見えんかったが。
「おもろいやないか、所詮甘味は甘味っちゅうことを教えたる!」
そう言いながら暗鬼は爪を構えて突っ込んでいく。
「..........」
それに対して純白のそれは静かに剣を構える。流石に最高傑作と言えども発声機能はついていないらしい。
「くらいや、私の一撃!」
数秒後に二人、いや一人と一つがぶつかる。
「.....っ!な、何ちゅう力や.....」
爪と剣の押し合いが始まった、暗鬼の方がじわじわと押されている。全くと言っていいほど返せていない。
「ケーキ3ホール分を贅沢に使用した逸品。名はそうですな、『純白の姫君』などどうでしょう?」
「知るか、誰もんなこと聞いとらんねん!たかが甘味、負けてたまるかぁーい!」
次にシャノンが話した内容にツッコミ、それによって力が入ったか剣を一気に押し返す暗鬼。ついには純白の姫君を後退させた。
「流石ですな、ですがーーー」
「ですがも何もない、こうなったらこっちのもんや!」
「.....なっ⁉︎」
賞賛を述べ、さらに続けようとしたシャノンの言葉を遮る暗鬼。退いたその一瞬に横をすり抜け、暗鬼はシャノンに迫っていく。さっきのを作り出した影響か、シャノンの周りには何もない。
「あんなもん、ちょっと隙を作れればええねん。隙さえできればそこに無理矢理にでもねじ込む!」
「練る時間はないか、材料が足りるかーーー!」
爪が迫る、焦った様子で即座に両手を地に叩きつける。すると、瞬時に茶色い壁が形成される。
「は、またチョコか?こんなもん、武器もいらんわ。ぶっ壊したる!」
目の前の壁を見て、そう言った暗鬼は鉤爪をつけている方とは反対の拳を叩き込む。バキバキと音を立て、あっけなく崩れるチョコの壁。
「素手で、壊したのですね」
「はぁ?何のーーーっう⁉︎」
「攻撃のために製作したお菓子は攻撃によって胃に送り込みますが、防御のためならばそれは逆となる。ただし、触れさえしなければどう壊しても例外となった。もう動かないほうがいい、お互いのためにも」
暗鬼はもう一度腹を押さえ膝をつく、最悪の大失敗をしてしまったのだ。もうしばらくはまた立てないだろう。
シャノンもちゃんと距離を取ってる、これは決まったな。
「.....はは、勝った気んなるんは、早いで」
まだやるか、暗鬼は無理がある笑いと共に袖に手を入れ、短剣を取り出す。
「無駄だ、長さが足りない」
「それはどう、やろ、な!」
シャノンの言葉にギリギリといった様子で返し、短剣の切先を向ける。だが、その間には絶望的な距離がある。流石に届くわけはない、そう誰もが思うその瞬間にそれは起こった。
「ーーーっ⁉︎」
短剣の刀身が射出された、驚愕の顔を浮かべるシャノン。シャノンは反応できていない、これはやったか?
「「..........」」
沈黙が走る、結果は届かなかった。シャノンは反応できなかったが、反応した奴がいた。まだ残っていた、純白の姫君が。
「すまない、小生の勝利のようーーーっ⁉︎」
そんな中、口を開いたシャノン。勝ちを宣言しようとしたその瞬間だった。暗鬼の持つ短剣は二重構造だった、それはシャノンの肩に刺さった。一発目を弾いた状態で止まっていた純白の姫君にはそれの対処までは間に合わなかった。




