七十九話 シャノンの魔法
ついさっき暗鬼の肩をチョコの騎士の槍が掠めたはず、しかし暗鬼の口から出た疑問の言葉。血どころか、痛みすらないらしい。見たところ服は破けている、槍に当たったのは間違いないはずだ。
まぁ、何が起きたのは気になるところか。
「ははぁ、さては私の肉体を傷つけられへんかったんや。たかがチョコレートやなぁ!」
ーーーは?
「.....ふむ、それはどうでしょうな」
自分には一切の傷がない、そこから自分が硬すぎて通らなかったのだと結論づけて煽り倒す暗鬼。それに対してシャノンは少し考える仕草をしたのち、答えを濁した。
これはバレたからわざとらしく振る舞っているのか、それとも本当に何かあるのか。まぁ、見てれば分かるか。悪魔の含みは考えても分からん。
「図星か、これでよう分かった。攻撃を受けても何ら問題あらへんのなら、もっと大胆にいけるな!」
暗鬼はシャノンの様子を見て、してやったり顔で続ける。そして分かったようなことを言いながら手に持つ小刀を袖に戻し、次に鉤爪を取り出した。
「失礼ながら少し忠告致します、小生のチョコレートたちにあまり無闇に攻撃を許すのは避けることを推奨します」
「今更脅しても遅いねん、全部薙ぎ倒してお前んとこ行ったるからな!」
次にシャノンが発した注意をフル無視で騎士らに突っ込み、その鉤爪で豪快に薙ぎ倒していく暗鬼。一体を倒す間に他から斬りつけられるも、怖いものはもうないとばかりに平然とそして無理矢理にシャノンとの間を詰めていく。
おいおい、無茶なことするな。このほぼ何も考えずにとりあえず距離を詰めて間合いに相手を捉えようとする動き、鬼らしい立ち回りが出てきたな。
「は、速い!小生のチョコレートたちが次々と!」
シャノンが驚きのあまり、さっきまでの態度を崩した。
こりゃまずいな、騎士が暗鬼に全く反応できてない。ちょくちょく攻撃は入ってるが足止めまでには至ってない。
「さっきから気づくんが遅いんや、もう目の前に来てもうたで!」
そんなシャノンに一切構わず、一気に距離を詰めた暗鬼。シャノンはもう目と鼻の先、躊躇なく爪がシャノンへと向けられる。
「むぅ、これは流石に使うつもりはなかったが仕方あるまい!」
目の前まで迫ってきた爪を見て、焦りと共に何かを決断したシャノン。次の瞬間、シャノンの手の上で何かが形成され放たれる。
何だあれ、半透明な.....あれもなんかの菓子か?
「ちょ、まっ!ぐっ、つぅぅぅっ!」
シャノンの手から放たれたそれは暗鬼に直撃、この至近距離では流石に避けられなかった。そこでようやく見えたそれはドラゴンだった、少し水色がかった暗記の三分の一ほどの大きさの。羽や角、頭の形状がまさにそれであった。暗鬼は今、その小さいドラゴンの角に腹を刺されている状態である。
鬼に限ってあれで死ぬことはないだろうが、それでもダメージはでかいだろ。あれ、最悪戦闘不能じゃないか。
「これほど近い距離であれば、避けるのは至難。小生のキャンディのお味はいかがでしたかな?」
どうやらあのドラゴンはキャンディでできていたらしい。
「はは、ははははは.....!」
儂が暗鬼が倒れるかと思ったその瞬間、突然笑い出す暗鬼。
何だ、痛みで頭がおかしくなったか?
「全く痛くない、ほんま一切痛ないで!お前ほんとに私のこと攻撃する気あるんか?服にちぃと穴は空いとるみたいやけ、ど!」
暗鬼はまたも痛みを感じなかったらしい、シャノンを馬鹿にしたのち勢いよく目の前のキャンディのドラゴンを叩き割る。
「..........」
それを見たシャノンは黙り込む、これは恐怖によるものかそれとも.....
「何やだんまり決めんで、こわぁて言葉がでぇへんのか?」
「いいえ、そうではありません。おそらくそろそろ効いてくるお時間かと思った次第で」
「はぁ?何わけわからんことーーーうっ⁉︎」
黙ったシャノンを煽る暗鬼だったが、雲色が変わった。意味がわからんといった様子で話していた暗鬼が突然苦しみだしだのだ、腹を押さえながら。
いや、今何が起きた?.....あれ、なんか暗鬼の腹、さっきまでより膨れてないか?
「何やこれ、うぷっ!気持ち悪いで、何しやがったんや」
「そうですね、小生の魔法についてお教えしましょうか」
今度はもう片方の手で口も押さえ、えずくような動作をする暗鬼。そんな暗鬼から放たれた言葉にシャノンはそう返し、ゆっくりと背を向け歩き出す。その足は少しして近くの曲がり道前で止まり、建物で隠れた先へと手を伸ばす。そして、出てきたのはーーー
巨大な、袋?
「こちら、小生が今回の長期出張スイーツ販売にて用意したお菓子の材料です」
出てきたのはシャノンの二倍はあろうパンパンな白い袋、シャノン曰くお菓子の材料とのことだが。
「小生の魔法は材料からお菓子を工程を省略し、作成、ちょっとした命の吹き込みを行うもの。卿が倒したものは全てこちらの材料から生成された紛れもないお菓子。小生の作るお菓子たちに殺傷能力はありませんが、代わりにダメージ量に応じて胃に攻撃に使われたお菓子を経口を介さず摂取させるのです」




