百三話 帰ってきた魔王城
「ふぅ、帰ってきたな」
儂は自室で一人呟いた、なんとも言えない脱力感を感じながら。
「娘たちもそれぞれ自分の部屋に戻っていることだろう」
自分の部屋に無事に戻ってきたのを確認し、ホッとするような寂しいような感覚が押し寄せてくる。
今回は久しぶりに娘とちゃんと話ができた気がする。楽しかったな、次はいつ行けることやら。
「まぁ、しばらくは無理だろう。.....今は寝るとするか」
遅れて旅行の疲れが一気に来たらしい、ユグドラルであれだけ寝たがやはりこういった疲れは別物らしい。ベッドへと身を預け、抗えぬ眠気に襲われて目を閉じた。
ーーー何時間経っただろうか、
「魔王様、至急お伝えしたいことがございます!」
ルイナが部屋の戸を叩いた。
「ん、んん.....あ、ルイナが来たのか。焦ってるのか、声が」
儂はゆっくりと体を起こし、違和感を感じながら扉へと向かう。
「ルイナか、どうした?」
「遅いです!はっ⁉︎.....ゴホン、申し訳ありません」
出るや否や、取り乱した様子のルイナ。言った後にハッとした様子で謝罪をしてきた。こんなことはこれまでに見たことがないほど、これには流石に驚いた。
「ど、どうした。随分と取り乱してるな、何度か扉を叩いたのか?」
「かれこれ半刻ほどは.....」
儂の言葉にそう答えるルイナ、冷静に見せながらも不安の見え隠れしているのがわかる。やはり何かおかしい。
だがまさか、そんなに気づかないくらいに深かったのか。儂が思っていた以上に体には疲れが溜まっとったらしい、こんなことは初めてだ。
「い、いえ、そんなことはどうでも良いのです。至急お耳に入れておきたいことが!」
続けて口を開くルイナ、儂が余計なことを聞いたせいか焦りが戻ってきてしまっている。
「あ、ああ、そうだな。また焦りが出ているぞ、お前らしくもーーー」
「メルルナ様とジェリエ様、そしてニュイ様の姿が見当たらないのです」
「..........は?」
次に聞かされたその言葉を受け、長い長い沈黙の後にそんな言葉を漏らしてしまった。
「どういうことだ⁉︎詳しく聞かせろ、ルイナ!」
儂も大いに取り乱してしまった、ルイナの両肩を掴み問い詰める勢いで言葉を飛ばしてしまう。
まさか、儂の魔法に何か不具合が起こったか?いや、別々に送ったならともかく同じ泡で飛ばしたのに効果が変わって働くのは考えられない。なら、どうして?
「はい、私自身は自室に戻ったのですがその後すぐ、他の方々の安否の確認をしにいっておりましたーーー」
それで順に確認をとったところ、姿を確認できたのは儂を除いて二人のみ。ミロとレンセツ、それ以外の三人はどこを探せど姿を見つけられなかったとのこと。
ルイナのことだ、しっかり探していることだろう。だが、本当にどうして?
「せめてニュイがいれば探せたのに、あいつまで一体どこに.....ん?いや、待て」
「どうかなさいましたか、魔王様?」
ニュイの名を出したところで一つ気づいた。
「ニュイの場合は多分違う、アイツの帰る場所は今やここじゃないからな」
そう、アイツには自分の国がある。儂のあの魔法は始まりの場所へ返すもの、それは間違いない。しかし、その意味は本人が帰る場所と認識している場所なのかもしれない。ニュイには別に帰る場所がある。
そう考えると少し寂しいような、分かっているつもりではあったんだがな。これが親離れをされた親の気持ちというやつか。
「いや、待て!今はそんなことを考えている場合じゃない、メルルナとジェリエを探しに行かねば!」
そんな感情もすぐにどこかへと吹っ飛んでいった。
本人の帰る場所へと帰す魔法だったにせよ、あの二人がいないのは絶対におかしい。便利な帰還魔法だと軽く考えてたが、こうなるならもっとこの魔法を試しておくんだった!
「一体どこに行く気じゃ?二人して騒がしくしおって」
焦っているところにレンセツが現れた。
なんだコイツ、珍しく会話に割り込んできたな。頼んでもやりたがらないくせに、こんな明らかな面倒ごとに自分から首を突っ込んでくるか。
「まぁ、実のところ話は聞いとった。ジェリエの方は分からんが、メルルナの方なら心当たりがある」
儂が何をいうまでもなく、レンセツはそう語った。その顔は今までに見たことがないくらいに真剣。
「本当だろうな?」
「無論、まだあの場所を帰る場所だと考えていたらだが」
「.....分かった、教えてくれ」
違和感なほど冷静で、気持ち悪いほどに真面目なレンセツ。だが、今は突っ込んでいる余裕はない。
「気持ちは分かるが、そう急くな。準備はいるじゃろう、我は外で待っとる」
レンセツはそう言い残して儂らの前から去っていった。




