百二話 帰還
「はぁはぁ.....っ!」
「あ、あ〜、メルルナ?」
ロイとかいう研究者の男を殴り飛ばした後、その場で静かにしかし確かな怒りを込めて肩で息をしているメルルナ。
メルルナがこんなにキレてるのは初めて.....いや、なんかこの様子のコイツを前にも.....
「はっ⁉︎はぁ、お父様、いえ何もありませんわ。はぁはぁ、もう終わりました」
「いや、まぁ見てたからな。それより本当に大丈夫か?」
「ええ、もう、はぁはぁ.....終わりました。終わりましたから」
平静を装おうとしてるが、息はいまだに荒いまま。
全く怒りがおさまっていない感じだ、妹に何かしたとかいってたがジェリエかミロに何かあったのか?気になるが、聞かない方が良さそうか。
「ふぅ、お父様、ご無事で何よりでしたわ」
「落ち着いたか?あれ以上怒ってても怒りの矛先はすでにいない、珍しいもん見たよ」
少しの時間の後、メルルナは胸に手を当て一呼吸。やっと落ち着いた様子で話しかけてきた。
「ふふ、今のは忘れてくださいな。後わたくし以外の皆も無事なので、ご心配なく」
「そうか、そう言うならこれ以上は聞かんでおこうか」
ちょっと恥じるように小さく笑うメルルナ、いつものコイツだ。
「どうも、失礼します。楽しそうに話してらっしゃるところ誠に申し訳ないのですが」
そんな話をしていると、誰かが話しかけてくる。見ると、そこにはグンザの姿。元の敬語口調に戻っているが、笑いでも我慢しているのか口角がたまにひくついている。
あれ、コイツは確か飛んでったロイの様子を確認しに行ったはずだが。わかり切ってはいたが、一人ってことは。
「まず始めに一言、ありがとございました!」
案外簡単にさっきの感じに戻った、満面の笑顔で大きな感謝の言葉。
「いやぁ、ロイの奴見事に死んでましたわ。スッとしましたねぇ、ありゃあ。死に顔がまた傑作ったらもう」
「そ、そこまで喜ぶか。一様形だけでも取り繕っといた方が良いんじゃないか?人間じゃ、そういうの良くないだろう」
あまりにも曝け出しすぎなグンザ、流石にさっきのロイとかいう奴が可哀想になってくる。
死んだ奴にそこまで言うか、まぁ温厚な植物種を怒らせてたしな。
「関係ないですね、あんなクズ。アイツのせいで何度迷惑かけられたか、身分が高いからって好き放題!私はもう自分の気持ちに嘘つくのはやめるって決めてたのに、こっちに来てまで上下関係に頭を悩ませられるなんて」
相当溜まっていたらしい、何故か本来敵なはずの儂の前でそんなことを語り出したグンザ。
この人間、随分変わってるな。ここまで平然と魔族に話しかけてくるやつなんざ、見たことがない。大体は怖がるか、話したとしても奇異の目をしてるかだ。
「まぁ、これでどんな処分でも笑って受け入れられそうですわ。じゃ、ここらで帰りますね。人間のつまらない話を聞かせてしまってすみませんでした」
「ああ、いや、大変だったな」
グンザは話終わるなり、さっさと退散していった。儂は終始呆気に取られていた。
なんか言いたいこと一方的に言って帰っていったな。ジンカイと言い、アキラと言い、訳がわからん。
「よく分かりませんが、あの方わたくしたちを別のものとして見ていませんでしたね」
「ああ、多分そういうのがない場所から来たんだろうな。想像はつかんが」
転生者、ここ数百年じゃ珍しくもない。
ーーーと、
「あ、父、見つけた」
「父さん、こんなところにいたのか」
しばらくして聴き慣れた二人の声が、ジェリエとミロである。
「ああ、二人とも無事でよか.....たぁ⁉︎」
二人の声を聞き、安心して二人の方に視線を持っていった瞬間思わず変な声が出た。
「じ、ジェリエ!一体何があった、なんちゅう格好を!」
「あ、やべ、忘れてた。って、見てんじゃねぇよ!」
ジェリエの服装がとんでもないことになっていた、びりっびりに破けてまるで焼けたかのような酷い有様だ。
うおっ、久しぶりのキッツい目。やっぱこえぇ。
「す、すまん。だが、本当に何があった?」
ジェリエの言葉を受け、儂は即座に後ろを向く。
「そうですね、ジェリエ様のお召し替えどういたしましょうか」
「おわっ⁉︎ルイナ、お前いたのか」
隣からいきなり声が、二度目のびっくりをかましてしまった。
ーーーなんやかんや色々あったが、一旦落ち着いてみんな集まった。
「さて、全員いるな?」
儂はユグドラルの大樹の前で改めて確認する。メルルナ、ジェリエ、ミロ、ルイナ、レンセツ、そしてジェリエの手の中にニュイ。うん、全員いる。ちなみにネミルはあの後、見にいったらもうぐっすり寝ていた。
「もう帰るのか?もっとやらんか、魔王なんじゃからやろうと思えばいくらでもできるじゃろ」
そこで口を開いたレンセツ、だるそうにしてたくせにまだ続けたいらしい。
「元よりここまでで終わらすつもりだった、他の国は危険だったり娘を連れて行くにはよろしくないところだからな」
そう、そろそろ魔王城に帰るのだ。楽しかったこの旅行ももう終わり。これまで何度か使用したあの紫の泡で全員をゆっくりと包み込んでいく。
行く先々で色々巻き込まれて疲れもしたが、まぁ楽しかった。




