百一話 ユグドラル最後の決着
「.....さらに気持ち悪いことになったな」
研究者アキラから生まれた植物の化物、それを真っ二つに両断してやったのは良いが流石にあれだけで全ての植物は倒しきれなかったらしい。運良く生き残った植物がうねうね蠢いている。
繋ぎ止めてた何かは斬れたみたいだから脅威はないだろうがだからってほっとけないしな。
「さて、どうするか。ちまちま斬ってくか?いや、それは面倒くさいな」
「パパ、それ私が食べちゃって良い?」
残った植物の処分に頭を悩ませていると、ふと背後からニュイの声が。見ると、植物の方を見て何やらうずうずした様子のニュイ。
ああ、その手があったか!良いタイミングだ、ニュイ。
「良いぞ、残さず食べなさい」
「じゃ、食べちゃうね」
儂の言葉を受けて、待ってましたとばかりに一口で飲み込んだ。
「よし、これで終わりだな」
「魔王様、ご報告があります」
一件落着、そう口にした儂の前に一人の人物が現れる。それはネミルだった、何やら手には拳ほどの大きさをした球根のようなものが。
今度はなんだ、まだ何かあるとか言い出さないだろうな。
「こちら、この一件の原因です」
ネミルは球根をこちらに差し出し、そんなことを口にした。
「は、どういうことだ?」
「こちらの球根ですが、どうやら寄生型で宿主の魔力をただただ吸い続けるというもののようで。ユグドラシルのてっぺん付近にこれでもかと張り付いていました」
儂の問いに丁寧にも答えてくれるネミル。
なるほどな、魔力を分け与えることができる大樹だ、もちろん吸うこともできるか。この大樹も生物だ、流石に自分の魔力が枯渇してきたら自分のために動くよな。
「.....!あの化物と戦っとった最中に体が軽くなったのはお前のおかげだったのか。でもなんで気づいたんだ?」
「幸いにも魔王様とレンセツ様が気を引いてくださっていたのでそういったことに専念できたのです」
「ありがとう、あれは本当に助かったぞ」
彼がいなければ戦況は厳しいものになっていただろう、しっかりと礼は言っておく。
ーーーと、
「彼女は、亡くなられてしまったのですね」
そう突然背後から話しかけられる、この声には聞き覚えがない。
「誰だ!.....っ!お前は、まだ残ってやがったか!」
振り返った儂の目に映ったのはたなびく白衣、それを見た瞬間には体が動いていた。思い切りそいつに剣を振るっていたのだ。
「おっと、勘弁してくださいよ。私は第五研究室の一職員、そちらの第八研究室の方とは面識こそあれ、何もする気はありません」
儂の剣を避け、その人物はそう語る。
今の儂の剣を避けた?手加減はしていなかったはず、コイツは他のやつとは違うな。
「第五研究室ってことはもう一人のシンザンとかいう奴のところの」
「はい、グンザと名乗っておきます」
今の儂の剣を受けて嫌に冷静なこの男、綺麗な白衣の下はところどころ破れた革製の服とズボンといった服装をしている。そして髪は白く、肩ほどまで。なんか白衣の連中はみんなこんな感じで堅っ苦しいのだろうか。
「私たちの目的はあくまで彼女、第八研究室室長の行く末を見届けること。それ以上の業務は指示されていませんので」
「お、おう.....ん、たち?」
圧倒されるほど淡々とした様子のグンザ、しかし一つ引っかかった。
二人以上できてるのか?確かシンザンの方は帰ったはず。
「ふざけやがって、あのチビィ!絶対に燃やしてやる!」
次の瞬間、やたらと怒気の強い声が響いた。こっちも覚えのない声、見るとそいつも白衣だった。こっちは真っ赤な長い髪の男、白衣の下は上下真っ黒な服装である。
「彼はロイ・ソレール、私と同じ第五研究室の所属です」
グンザが軽く紹介してくれた、驚くほど冷めた目をしている。
なんかやたらキレてるな、アイツ。てか片っ端から周りの魔物を焼いてるがあんなことしてたら.....
「アナタ、ユルサナイ!」
「ドウホウヲ、ホフッタオマエヲ、コンドハワレワレガメッシヨウ」
「何?テメェら植物がオレに何するって?やっと動いたと思ったら今度は気持ち悪い声で、って何をしやがる⁉︎」
それまでやられっぱなしだった植物の魔物たちが突然動き出し、言葉を発したかと思えば瞬く間にツタのようなものでロイをかためてしまった。
あーあー、やりすぎたな。アイツらも生き物だ、そりゃやり返しぐらいはする。にしてもここまで敵意剥き出しなのは久しぶりに見たな、温厚な奴らで滅多に怒らないから。
「おい、グンザ!オレを助けろ!」
「.....お断りだ」
なんか上から目線に助けを求め始めたロイ、それに対してグンザは少しの沈黙ののち、拒否した。
「なんだと?テメェはわかってるはずだ、オレを助けなければお前は処分を受けることになるぞ!」
「いやぁ、もうね、お前がいなくなるならどんな処分でも受けてやるよ!ハハハハハァァァ!」
ロイの強気な言葉にグンザは突如豹変したかのように笑い出した。よっぽど迷惑をかけられたのだろう、さっきまでの冷静な姿が嘘のようだ。
「.....っ!テメェェェァッ!!」
その言葉にロイはさらに激昂、怒号と共に巨大な炎が周りを包む。それによってロイを囲んでいた魔物たちが全て焼き払われる。
おいおい、まじか。あの炎、広がったらまずい。まさかもう一戦させられるんじゃねぇだろうな?.....いやこれは、
「ハハ、やったぞ。覚醒しやがった、オレはやっぱ天才なんだよ。これでグンザ、テメェをーーー」
ロイが上機嫌になり、グンザに対して殺意を向けようとしたその直後だった。ロイを中心として巨大な爆発が起きた。
魔力の流れがおかしくなってたのを確認した、あれは、
「な、何が起き、やがった」
爆発の中心からボロボロのロイの姿。
「ぷっ、あっははは!あれは覚醒じゃなく、暴走だ。バカが、借り物の能力で調子に乗るからだ!」
その姿を見たグンザは大いに笑う、あの冷静な姿が笑いものにならないほど崩れてしまった。
ロイとかいう奴、ありゃあ生きてるだけ奇跡だな。
「グン、ザ、テメェ絶対に殺してやるぞ」
大笑いするグンザにさらに殺意を高めるロイ。
すごいな、この状況でまだ強気でいられるとは.....っ⁉︎なんだ、この感じ、悪寒か。
「わたくしの妹にあんなことをしたのは、貴方ですね」
「メルルナっ⁉︎」
思わず儂は声が出た、無事でいたことへの喜びと様子がおかしいことへの驚き、二つの感情で思わず口から出てしまった。メルルナは儂には気づかず、ハンマーを両手に握り、ただロイの方を見ている。
「は、なんーーー」
ロイもメルルナの姿に気づくも言葉を発した瞬間にはメルルナによって殴り飛ばされた。あまりにも早く、あまりにも殺意のこもった一撃。ロイの体はユグドラルの外の森にまで届いた。




