非日常から日常へ
まったり。
カルのところからドナドナしてきた牛さんはセラと名付け、なぜだか一緒に来た雌鶏さんにはルジーと名付けた。
ルジーはセラに手綱をかけていたら背中に飛び乗ってきてそのまま落ち着いてしまい、どうしたもんかと思ってたら、カルが笑いながら連れて行けって言ってくれちゃったので、ありがたく連れ帰ってきたのだ。
「おはようセラ、ルジー。今日もいい天気だよ」
小屋の中でセラの乳搾りを終えたら、杭とロープで簡単に作った囲いの中へ。
一部森の中を囲ってあるから、彼女たちは適当に下生えを食べたり木陰で休んだりとのんびり過ごしている。ライの結界を広めてもらったから、魔物対策もバッチリだ。
卵は毎日産んでくれるしミルクも十分な量が出ているし、2匹ともストレス無く生活できていると思ってもいいかな。
彼女たちのおかげでうちの食卓は飛躍的に豪華になった。
だって卵とかクリームとか出来立てバターとかが使えるんだもの。買ってきたローガの一部がそのまま種菌になって、新鮮なヨーグルトも食べられている。食の充実って本当に大事だよね。
今朝はポテトパンケーキにカリカリになるまで焼いたイノシシベーコンをトッピングした野菜サラダ。それとコンポートにしたケレスをたっぷり入れたローガにミルクティー。
ちなみにルチルがメインに腕を振るうと洋食寄り、ティンがメインになると和食寄りになることが多い。
ティンが担当した昨日はご飯と焼き魚、お味噌汁という純和風な朝食だった。
ん、わたし?
わたしの場合、和洋折衷というかチャンポンというか、適当にありあわせで作るので、何風と言うのが難しいのだな。強いて言うなら日本食?
そうそう、ライにがっつり見張られながら植えてみた各種果実の種。
スモモみたいな味で気に入ってたあれ、実はプルナだったというオチがついた。
グレープフルーツくらいのサイズかなと思ってたら、もう一回り大きくて私の顔くらいある。でも味はスモモという不思議感。文句があるわけじゃないんだけど。
ちなみに皮を剥いたプルナを氷室に入れてキンキンに冷やすと、どういうわけかシャリシャリのシャーベットみたいになってすごく美味しい。
収穫した果物はコンポートにしたりジャムにしたりドライフルーツにしたりと様々に加工している。リームンでは塩レモンも作ったし、今回もらった種の中にトマトに似た実物野菜があったのでドライトマトや塩トマトなんてものもやってみた。
手前味噌だけど、結構美味しくできていると思う。
ユーディの言っていた『魔力を溜めた実』についてニーアに聞いてみたところ
「ここのアーフェルは、どれもそこそこの魔力を蓄えてましてよ?」
と予想に違わぬ返事だった。
他の果樹も似たり寄ったりだとかで、ユーディがここに来たら卒倒するんじゃないだろうか。
「そもそもオルハ様の魔力で育っておりますし、毎日のようにあんな魔力の水をやってれば、どんな木でも魔力を蓄えるようになりますわよ。お陰であたくし達の調子も良いのですけども」
そんなこと言われたって、魔晶石から出してると思ってたんだもん。
魔晶石って使用者当人の魔力を水や火に変換する為の媒体らしいんだよね。つまりは私の魔力を注いだり燃やしたりしているようなものなんだって。
魔道具に付けられてる物はまたちょっと違って、起動する時に魔力を注いだら、本体内部でその魔力を増幅・循環させるそうだ。
知らなかったよそんなこと。誰も教えてくれなかったもんよ。
いやでも今わかって良かったんだと思っとこう、うん。
そういや最近ニーアの美人度が増してるような気がすると思ったら、私が撒いてる魔力水のおかげでパワーアップしてるからなんだってさ。
なんでも力が強くなればなるほど容姿が美しく、服装も豪華になっていくらしい。
ってことは、この辺りの精霊達はみんな美形揃いになるってことかねえ。
グローシュは元々可愛かったから、そもそもの力が強かったってことなんだろうな。
相変わらず魔力を見ることは叶わないながら、使い方はシディルさんにも褒められるくらいには上手くなってはいる。
ムラなく無駄なくがモットーです。
この世界で魔法を使うにはイメージが重要だと言うのは以前にも聞いていたから、目に見える物……水とか火とか土とか、そういう物を使えば制御を覚えるのは割と簡単だった。
街から帰ってきてから畑を広げたし、果樹園なんかも作ったから、水遣りするのに雨降らせられたら楽だなーとか思いましてね。
実験と称して人工的に雲を作って雨を降らせたりしてみたら、やっぱりシディルさんが頭抱えてた。
相変わらずわたしの魔力の使用法はこの世界の非常識らしい。
ところで、見魔の能力が後付けで発現したりするのか聞いてみたら
「オルハ様ほどの魔力が有れば、普通は見魔の能力を有しているはずなんです。だから『もしかしたら』ですが、見えるようにはなるかもしれません。意識してみたらいかがでしょう」
とのこと。
別に魔力は見えなくても不便はないしいいんだけどね。精霊達に毎回姿を見えるようにしてもらってるのがなんか申し訳なくてね。
魔力煌とやらが見えるとなると視界がうるさそうだから、とにかく精霊達を視認できるようになりたくて、ニーアやグローシュを相手に日々訓練している。
グローシュはもうかなり成長して、わたしは身長ではすっかり追い越されてしまった。言葉もかなり流暢になってきたけれど、わたしを呼び捨てにするのでルチルとライが若干渋い顔をしている。
「オルハ、ここ! ぼくがみえる?」
「んー、やっぱり見えないなあ」
「じゃあ、これは?」
「う? うーん……。あ、待てよ。なんかこの辺り違う気がする」
「ざーんねん、ちょっと近い」
時々おかしな言葉になるのはご愛嬌。
ちなみに今わたしが触ろうとしたところはグローシュから10cm程離れていた。確かにちょっと近い、かもしれない。
面倒じゃないか聞いてみたことがあるんだけど、隠れ鬼してるみたいで結構楽しいらしい。
迷惑じゃないなら良いんだけど。
「オルハ様のお相手をするのに迷惑だなんてありえませんわ」
とはニーアの弁だけど、彼らにとって私の存在って一体何なんだろう……?
一度きっちり話してみたほうが良いかもしれないな。
認識のズレって、どこでどんな作用するかわかったもんじゃないし。
ユーディがいつ頃来るかはわからないけれど、そう遠くない未来にはやってくるだろう。
その時またあの精霊王云々の話を蒸し返されちゃ堪んないもんね。
精霊達には確かに良く懐かれてるし、関係性も良好だと思う。
でも、精霊王だなんて大層なもんじゃない。
そもそもわたしは人間だし。……だよね?
ちょっと時々自分でもただの人間だという自信が無くなったりすることもあるんだけど、人間辞めたつもりはない。
うん、わたしは魔力こそおかしな量を持ってるけど、精霊に懐かれたりもしてるけど、ただそれだけの人間だから。
「そうやって誰にともいえない言い訳してる時点で普通じゃあ無いよねえ」
ティン、うるさい。
お読みいただきありがとうございました。




