お祭り!
寝込んでた間に、実は祭りは始まっていたらしい。
主なイベントというか神事とかは神殿で行われるとのことで、興味がないわけではないんだけど、見魔がわんさか居そうな所へわざわざ突入する気はないのでパス。
代わりにというかなんというか、明日パレードみたいなのがあるのでそれを見て帰ろうと言うことになった。
なによりそのパレードがメインイベントらしいので、それを見ないことには意味がないとかなんとか。
なんでもこの街の領主様がお出ましになるらしい。あと各ギルドのマスターも出なきゃいけないとかで、ため息をついている人が約1名。お偉いさんは大変だね。
魔法を使って花を宙に撒いたりもするらしく、かなり華やかな感じがする。
うん、楽しみだ。
逸れたり拐われたりしないように、ライがずっと抱っこするって言って聞かない以外は。
でも実際のところ、わたしの身長だと人垣の向こう側なんて見えないし、足の問題があるからぴょんぴょん飛び跳ねたり爪先立ちしたりなんてのも無理。そう思うと抱っこされてたらちゃんと見えるし足の不安もない。こう言っちゃなんだが見た目的にも問題は無いので、残るはわたしの羞恥心だけなのだ。
はい、もうおわかりですね。
──今日のわたしは子どもです!
年端も行かない子どもならずっと抱っこされてても不思議じゃない。あ、ほらあそこにも肩車されてるお子がいるじゃないか。
「肩車がいい?」
「そう言う意味じゃないってわかってるくせに」
遠い目になるのは許してほしい。
「織葉さん、ねぇほらあれ! 焼き魚に醤油塗って売ってるよ」
「食べる」
思わず即答。
買ってきてくれたそれにかぶりつくと、焦げた醤油の香ばしい匂いが鼻に抜けて、熱々でふわふわな身からじゅわりと脂が染み出す。
「んまぁい」
川魚らしいのに特有の臭みもなく、良く脂の乗った美味しい魚だ。
ライはわたしを片手で抱っこしたまま器用に食べている。
「食べさせてくれても良いんだよ?」
「ご遠慮申し上げます」
流石にそこまで羞恥心を捨て切れないもので。
残念、なんて言いながら笑ってるライを、ティンとルチルが呆れ顔で見ている。
なんか言ってやって。
「ライ様さ、最近結構遠慮無くなってきてたけど、あれから本気で無くなったよね」
「うむ。だが織葉殿も嫌がってはおらぬようだから構わぬだろう」
え、お? なんか妙な方向に飛び火したぞ。
「粘り勝ちってやつかな」
「自分でそう言うこと言っちゃうんだ」
「いやぁ、最初の頃なんて野生動物でももう少しマシじゃないかなって思ってたし」
待て、誰が獣だ。
「いや本当に。良くここまで慣れてくれたなあって思うと感慨深い」
「というか食べてる時くらい下ろしてもらっても良いんですがね」
「駄目。そんなこと言って目の前で拐われたりしたら今度こそ発狂するよ」
「洒落にならないこと言わないでください」
「本当のことだよ」
やめて、狂い神なんて本当に洒落にならないから!
抱っこされたままこっそり慄いていると
「織葉殿、あちらに何やら光る花が」
つんつん、とルチルがわたしの背中をつついた。
「え、どれどれ? あ、ほんとだキラキラしてる。なんだろうこれも魔法? 綺麗だねぇ」
「花祭りで身につけると幸運を呼ぶんだって」
「良いね、みんなでお揃いにしよっか。シディルさんにもお土産にしよう」
色合いは各自が好きなものを選び、花の形をお揃いにして、それぞれ身につける。
わたしを抱っこしているライのは流石につけてあげた。だって片手で四苦八苦してるんだもん。
なんでこういう時は素直につけてって言わないのか謎だけど。
パレードは流石の華やかさ。歓声の中進んでいく行列には、ジャグリングや曲芸師のアクロバットもあって、見てるだけで楽しい。
不意に、わああっと一際大きな歓声が上がって、今までとは比にならない量の花がぶわりと宙に舞った。おや、シャボン玉みたいなのも飛んでる。綺麗だなぁ。
「あ、あれが領主様なのかな」
恰幅の良い、優しげだけど一癖ありそうな気配を持った中年男性が、和やかに微笑みながら観衆に手を振っていた。
「いや、あれは……」
目を細めたライが呟くのとほぼ同時に、その男性のすぐ後ろに居た冒険者ギルドのマスターとばっちり目が合った。
あれ、なんかすごい顔色悪いよマスター。
「そりゃあいきなり王の護衛なんてさせられたら、いくら彼でも普段どおりじゃいられないだろうね」
……ライさんや、今なんて?
「おう?」
「あれ、領主じゃなくてこの国の王だよ。まったく何しに来たんだか」
「……なんかものすごく嫌な予感がするんで、さっさと帰ります?」
いざとなったらライの転移で神域に逃げれば良いだけだからなんとでもなるけどさ。余計な火種は起こさないに限る。
「私はそれでも良いけど、おるはは満足した?」
「ええ、十分楽しみました。むしろ余計なことに巻き込まれる前に『あー楽しかった』で終わりたいかなって」
「じゃあ帰ろっか」
決めるなり人波を離脱すると、そのままカルの農場へ向かう。
こうなると、昨日のうちにシリシャの所へ行っていたのはラッキーというより他にない。お世話になったお宿のご家族にはチェックアウトの時にきちんと挨拶したし。
カルのところで牛さんの代金について一悶着あったものの(だって品種改良の講義代だって言ってお金受け取ってくれないんだもん)無事に引き渡し完了。
新しい種とわたしが好きだとうっかり言ってしまったからか、ケレスの苗木もくれた。
なんか貰いすぎな気がするけど、カルは
「次からは金取るから安心しろ。今回は受け取らねえ」
の一点張り。
結局根負けしたのはこちらだった。
牛さんドナドナしながら祭りだパレードだとごった返す街を抜ける訳にもいかないので、農場側の門から街の外に出る。
わたしはこの辺りの地理に明るくないけど、どの道人目が無くなったらライの転移で帰るのだから無問題。
こうしててんやわんやのわたしの街行きは幕を閉じた。
次に行くのは夏かな。
シリシャに頼んだワンピースが着られるうちに引き取りに行かなくちゃね。
そういえば、シディルさんに聞いた魔女と魔導師の違い。
簡単に言うと、他者に害を為すかどうかで分かれるようで、魔導師には薬師や医師として働いている人もいるらしい。
なるほど。そういや善き魔女とも言ってたっけ。
お土産を渡しついでに色々と起きたことを話すと、精霊使いのユーディに出会った事とシバリンガム家の当主代理さんに会った事の件で、シディルさんは頭を抱えてた。
精霊使いは、シディルさんが下界にいた頃は(何年くらい前の話なのかはともかくとして)まだ、結構あちらこちらで見られる存在だったらしい。集落もそれなりにあったのだと。
けれど、魅魔に狙われまた魅魔に堕ち、純然たる精霊使いは次第にその数を減らして行ったそうだ。そしてユーディの言っていたように、集落を棄てて流浪の民となった。
「そのうち我が家に来るような気がします」
「そうですね。精霊の恵みを受け取れる人物であれば、あの辺りの目眩しにも騙される事はないでしょう。なんでしたら、精霊たちに言付けておけばいいんですよ。オルハ様に似た女性が来たら案内してくれって」
なるほど、その手があったか。
「精霊たちは気まぐれですが、オルハ様の願いを無碍にする事はないでしょうから」
……ユーディの誤解が加速しそうなお言葉だなぁ。
シバリンガム家については、やはりかなり有名な古い家系だったらしい。でもこの世界ではやはり男性が家を継ぐ方が圧倒的に多いみたいだ。
「女当主となればこの先苦難の道となるでしょうね。継いだ経緯が経緯ですし」
うん、そうだろうな。
でもね。
彼女はきっと負けないと思う。
男装に身を包み、凛と立っていた彼女を思い出す。
確かに茨の道ではあるだろうけれど、彼女はきっと大丈夫。
わたしとの約束もちゃんと果たしてくれると信じてる。
「ライがあんな脅しをかけたのだ。大丈夫だと思われる」
うん、祭りに王様が来てたのは何かの手違いだったんだと思っとこう。
そもそも、不帰の森の深層部にある我が家に来れる人材がそうごろごろいるとは思えないし。
……山狩り(森狩り?)とか、ないよね?
お読みいただきありがとうございました。




