↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界生活の基礎知識  作者: 彩瀬水流
街であれこれ。
PR
48/59

45

可愛くても好きでも限度はある。

 宿に戻って、直ぐに延泊の申し込みをしたら

「お祭り、見ないのかな、って思ってたです」

 と、看板娘のベルデちゃんに言われ、苦笑い。

「長期で泊まってくれるですから、お風呂がサービスになるです。鍵がいるのは変わらないですから、入る時には声をかけてくださいです」

 わぁ、ありがたい。

 明日は農場行って、ギルドで買い取れる項目をもう少し詳しく……肉の買取はあるのかとか聞いて、くらいかな。

 農場が楽しみだなぁ。

 牛を譲ってもらえたら最高だけど、そうじゃなくても触れたら嬉しい。

 昔、手伝いに行ってた牧場で馬に乗ってたこともあって、牛や馬は怖くない。むしろ久しぶりに触れ合いたい。


 翌朝。

 今日もお宿のお父さん、オウロさんの美味しい朝ごはんを頂いた後、準備を整え出発。ルチルの案内で街外れの農場を目指す。

 途中でギルドも覗いてみたものの、かなりの人でごった返していたので、後にしようと諦めた。用事といえば質問だけなんだし、クエストに出る人たちの邪魔はしたくない。無駄な注目も浴びたくないし。

 少しゆっくりめに市をひやかしつつ通り抜け、住居街も抜ける頃、唐突に視界が開けた。

 青々とした草が、緩やかな風に波打つ。向こうに見えている金色は稲穂だろうか。春だから麦かな。

 昔見た景色に似たそれに、思わず足が止まる。

「織葉殿に、この風景を見せたいと思ったのだ」

 ルチルが呟く。

「きっと好きであろうと思って。間違いではなかったようであるな」

「うん、すごく好きだね」

 それだけ答えると、また景色に目をやった。

 緑の海が波立つ様に、どうしようもなく郷愁を煽られる。

「……懐かしいねぇ」

 ぽろりと零れた声は、やけにしみじみと響いた。


 そのまま景色を堪能していると、人影がこちらへ向かってくることに気付く。

「誰かと思えば、あんたか。今日は大所帯なんだな」

「先日は世話になった。今日は主も一緒に来たのだ。織葉殿、こちらがカル。カル、我が主の織葉殿だ。そちらがティンとライ。我の同僚だ」

 ライまで同僚で括っちゃったよコノヒト。

「あ、ああ、主さんってこっちか。俺はカル、よろしく。果樹は上手く根付いたかい?」

 握手しながら真っ先に聞かれたことに、思わず笑いがこみ上げる。農家さんらしい。

「織葉です。おかげさまで、すくすく育ってます」

 まだ、美味しい実が鈴なりです、とは言えない時期なので、上手く育っていることだけ報告。嘘じゃないし。

「……あんた、こんなちっこい身体なのにちゃんと自分も作業してんだな」

「はい?」

「手。ちゃんと肉刺がある。主、なんて言われてるから、こいつらにやらせてんのかと思ってたよ」

 悪かった、と頭を下げられて軽く慌てる。

 いやまぁほらね、この見てくれとルチルの言動からして、そう思われても仕方ないと思わなくはないから。

「そんな感じのことは、よく言われますし、慣れてるから大丈夫です」

「悪いな。で、今日はまた別の種を買っていくか?」

「それも欲しいですけど、牛が欲しくて。こちらなら、伝手をお持ちじゃないかなと思ったんです」

「牛、ねぇ……」

 おや? なんか面白いイキモノを見る目になっておられる?

「まあいい。とりあえずこっち入りな」

 入り口の柵を開けて、迎え入れてくれた。

「で、牛ってこちらには?」

「居るぜ。牛も馬も居る。なんだったら鶏もいるが」

「卵用?」

「当たり前だろ。まぁ年いったら潰すけどな」

「ああ、はい」

「……こういう話しても大丈夫なのか」

「わたし猟師ですから」

「は?」

 ぴた、と足が止まる。

 振り返り気味に見上げると、黄褐色の瞳がまん丸になっていた。

「織葉殿は腕の良い猟師であるぞ。皮の買取にプラス査定がつく程度と言えばわかるか」

「鞣しの腕が良いってことじゃないのか?」

「それも当然だが、元の皮に余計な傷がないのだ。ギルドの査定係が浮かれるくらいには良い状態であるようだ」

「……はー。見かけに寄らねえもんだな」

「それもよく言われます」

 真顔で返すと、思いっきり苦笑された。

 そんなこんな話しながら麦畑を抜けると、ふっと動物の匂いがした。

 見回すと、やや離れたところにもまた柵があって、その向こうに牛や馬が放牧されている。

 許可を取ってから近付くと、1匹がすぐ傍まで近付いて来た。

 ホルスタインの茶色版、って感じの斑模様。

「こんにちは」

 下から手を差し出して、匂いを嗅いでもらう。

 怖くないよー。何にもしないから撫でさせてくれると嬉しいな。

 首を下げて鼻先を手のひらに押し付けてきたから、そのまま手を滑らせて顎の下を掻いてやる。ふんふんと鼻息が当たるのが擽ったい。

「へぇ。そいつ手懐けられるんだ」

「大人しくて良い子じゃないですか」

「いやいや、そいつ一番聞かん気でわがままな奴だから」

「えー」

 と、なぜか次々に挨拶と言わんばかりにすりすりしにくる牛さん馬さん。

「わ、わ、わわわ?」

「……大人気だな」

「織葉さんてば牛や馬にまで好かれるんだね」

 ティン、感心してないで助けておくれでないかい。

 一際体の大きな黒毛の馬にすり寄られて、とうとうよろけてしまった。

 とたん、後ろからひょいと抱き上げられる。

「だめ」

「ライ?」

「おるはの側が心地いいのはわかるけど、怪我させたら怒るよ」

 はっきりと威嚇するライの前に、全員が整列して首を垂れた。

「なあ、こいつ何者?」

「ライは……」

 ルチルがなんと言ったものかと言葉を濁す。

「動物の扱いに慣れているだけだよ」

「いや慣れてるだけじゃこんなんならねぇって」

 だからってまさか神様だとは言えないしね。ユーディの時とは色々違う。

 ライに抱っこされたことで、体の大きな子達ともあまり変わらない高さに顔がきて

 ぺろん

「わっ?!」

 舐められた! 手はいいけど、顔はちょっとやめていただきたいぞ。

「あ、こら! お客さんに何してる!」

 カルが叱るけど、知らんぷりしてる。

「いつもはこんなんじゃないのに、なんなんだよ、ったく」

 なんて愚痴ってるけども。

 あっ、背後からなんかおっかない空気が!

「怪我させなきゃ良いって話じゃないからね……?」

 落ち着かなげに身動ぎする動物たち。

 うん、実はわたしも抱っこされてるのちょっと落ち着かない。

 ので、ちょっと強引だけど話を逸らす。

「えっと、で、お譲りいただくのってできるんでしょうか」

「あ、ああ、うちは構わないんだが」

「だが?」

「あんたの気に入られ度合いからして、1頭だけ選ぶのが大変そうだなと」

 ……確かにちょっと思わなくもないけど、それを改めて言われましてもね。

「わたしはどの子でも良いんですけどね」

 そう言うと、あからさまにそわそわしだす。

 ライが睨み効かせてるからか、押し寄せては来ないけど。

「サルファ、お前はだめだからな」

 そう言われて、あの一際大きな馬がしょんぼりと項垂れた。

 馬は飼うつもりなかったから、別に問題は無いんだけど、なんでわざわざご指名?

「ちなみになんで駄目なんですか?」

「こいつは預かり物なんだ。確かにうちにはいるんだけど、うちの馬じゃない」

「それは駄目ですね」

「ああ、馬は要らないみたいだけど、もし要るとしたら、こいつ以外から選んでもらうことになってた」

「だって。ああ、うちは森に近いから、獣に怯えない子がいいかもです」

「森って……」

「不帰の森の辺縁部です。わたしは森の獣を狩って生活してますから」

 実際住んでるのは辺縁部どころかど真ん中だが。

 もう何度目か、絶句したカルと、森と聞いて別の意味でそわそわし始めた子を後目(しりめ)に、選定を開始。

 結果、最初にご挨拶した、茶白の斑の子にいたしました。

 聞かん気でわがままとカルは言っていたけど、中々図太そうでもある。

「じゃあ、帰る時に一緒に連れて行くので、それまで預かっててもらって良いですか?」

「ん、わかった。種とかもその時に一緒に渡せるようにしておく。1頭だけで飼ってるとだんだん乳の出が悪くなったりするから、普通ならここへ刺激を与えにくるといいんだろうけど、刺激には事欠かないかもしれねえな」

「確かに。でも、ありがとうございます」

「あとその口調どうにかなんねぇか」

「はい?」

「俺にそんな丁寧な言葉で話さなくていい」

 あー、まぁ、くせみたいなものなんだけど。

「わかった。じゃあ遠慮なく崩させてもらう」

「その方が良い」

 ニカッと笑ったカルは、どこか幼く見えるくらいには、無邪気な表情(かお)をしていた






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。