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街へ行くのも一苦労。
神域でシディルさんに街へ行くことを伝えて、(ものすごく心配されながら)再度転移した先は、川の傍の、少しばかり開けた空間。
木々の隙間から、遠くに時計塔らしき高い尖塔が見えた。
「森から出る時だけは、人の目に注意した方がいいであろうな。我とティンだけなら、不思議がられることもないだろうが、織葉殿は無理だ」
「むぅ……」
「仕方ないよ、織葉さんいろんな意味で目立つもん」
だからフード付きのマント作ったじゃないか。一応、魔力遮断加工までしたんだぞ。シディルさんにも見てもらって、ちゃんとできてるってお墨付きもらったんだからね。
とはいえ、スカートの今日はライに抱っこされるしかないのも事実で、これが目立つか目立たないかで言えば間違いなく目立つのはわかっている。
だから大人しくしてるっていうのにさ。
「おるはが大人しく抱っこされてくれてる」
なんて口に出しちゃう残念な人が居るのだよ。
「森を抜けたら降りますからね」
「えー、ずっとこのままで良くない?」
良いわけあるか。
「足が悪いわけでもないのに、いい年した大人が、抱っこされたままで良いわけがないでしょう。森の中はお願いしますけど、抜けたら降ります。自分で歩きます」
「ちぇ。可愛いのに」
どういう理屈だよ。
川沿いにしばらく行くと、木立が薄くなってきた。
足元の草も、様相が変わっている。
「そろそろ、ちょっと偵察してくるね」
「我も行くか?」
「うーん。……いや、大丈夫。ルチルさんはこっちの警戒してて」
「うむ、わかった」
「いってきまーす」
なんて呑気な台詞を残して離れていくティン。
だけどさすがは元猟犬。気配の消し方がえげつない。
取り立てて忍び足なんてしてる風でもなく普通に歩いてるっぽいのに、足音がほとんどしない。木々の向こうに姿が隠れると、途端に居場所を掴みにくくなる。
しかしそろそろ小腹が空いた。偵察結果次第だけど、ティンが戻ったら軽く何か食べるかな。
「ライ、ちょっと下ろして」
「どうして」
「下りたいからです」
「えー」
えー、じゃねぇ。
「ライよ。ヘソを曲げられると、今後抱き上げられなくなるのではないか」
「それは困るから下ろすね」
「おい」
じとりと半眼になったわたしは悪くない。
「ただいまー! ……って、なにこの空気」
「いや別に。おかえりティン、どうだった?」
「んー、それがね。街で何かあるのかもしれないんだけど、人の動きが多くて、なかなか途切れないんだ。出ていくのは少し待った方がよさそう」
「我が行った時にはそれほどでもなかった故、何かがあると思った方が良いであろうな」
「そっか。じゃあちょっとお腹も空いたし、一休みしよっか」
「賛成ー」
ルチルの鞄からお茶とおやつを出してもらって一服する。
うん、美味しいおやつは気分転換にもってこいだよね。
何度か偵察をはさんで、ようやっと動けたのは、日も暮れた時分になってから。
もしかすると閉門があるからかと心配したんだけど、閉まってしまった大門の脇に小さな出入口があって、夜間でもそちらから出入りできるらしい。
よっぽどの理由がないと、認められないみたいだけど。
ちなみに、身分証は破損したポケットに全員分まとめて入れていたことにした。
家族や身内のグループとかではよくある話らしく、
「まぁ、財布が無事で良かったなぁ」
とは門番さんの言。
でないと通行料というか、そういう料金が払えない。その時はその時で入れないわけではないんだけど、別の手続きがあって、それが若干面倒らしい。
わたし達、そもそも身分証持ってないんだけどね。
門番さんはとても親切で、お勧めの宿やら食事処やらを教えてくれた上に、この街のことを良くわかっていなさそうなわたしの反応(一々行き方とか道を確認する)を見るや、簡単な地図を出してきてくれた。
「これは?」
「初めてこの街に来られた方で、ご希望の方にはお渡ししてます。スラムなどの、あまり近付かない方がいい場所も描いておりますので、ご活用ください」
ふーん。羊皮紙じゃなくて、目は荒いけどちゃんと紙だ。初期の和紙っぽいかも。
「ありがとう。使わせていただきます」
「祭りの前で、騒ぎも起きやすいですから、何かあったら、ここのような各門の脇の詰所か、ギルドに行くと良いですよ」
「わかりました。気をつけます」
「ちっちゃい子連れてるんだから気をつけなよ」
「「ぶふ」」
ティンとライが吹き出しやがった。腰のあたり目掛けて、ぐーで殴ってやる。
「いてて……」
「嬢ちゃんいいパワーしてんな?」
「……わたしは20歳です!」
「あー、それは失礼した。小人族か。にーちゃんたちが人間だからつい。すまんな」
小人族でもないんだけど。人間なんだけど。も、いいや。めんどくさい。
だってここの人達って、女性でもかなり背が高い。比較的小柄に見える女性でも多分170cmくらいある。男性となると、ルチルでも小柄に見えるんだもん。ライが標準、ティンがやや大柄って感じかな。
しかしフード被りながら話するのって辛い。なにがって顔が見れない。他に人もいないのに。
「ねぇ、フードとっちゃだめ?」
「織葉さん、フードの意味」
「うぅ……」
小さく呻くと
「なんだ、訳ありか? まぁ、女なら顔に傷とかあったら気になるか?」
「大丈夫ですよ。ここにいる奴らにそんなことを気にする奴は居ませんし、そもそも、ギルドに行くつもりなら、どのみち取らなければいけませんし」
と、門番さん達は豪快に笑い飛ばしてくれた。
「え?」
「そうなの?」
「審理の珠で犯罪云々はわかるけど、それ以前の問題でな」
「犯罪者とかそういうわけではないんですけどね。まぁ、それなら今とっても一緒だよね」
ぽい、とフードを払い除けて目の前のでっかい門番さんズを見上げると、息を呑むのがわかった。
「……街中では出来る限りフードを取らない方がいい。登録も個室を使えるように紹介状書いてやるから、ちょっと待ってろ」
今まで口を開かなかった、オオカミのような鋭い空気を纏った門番さんが奥に引っこみ、わたし達4人は顔を見合わせる。
「あのぅ……?」
「隊長、見魔なんだよ。見魔が街にいるのは珍しいけど、居ないわけじゃないからな。あの人があんな反応するってことは、あんたかなり変わった魔力持ちなんだな?」
否定できません。そして見魔ということは、(今は姿を消してるけど)ついてきてるはずのグローシュにも、気付いたかもしれない。
「……これをギルドマスターに渡せ。いいか、この街にも魅魔は居る。気を付けろ」
しばらくして戻ってきた隊長さんは、封緘された書類をこちらに渡しながら、低く呟いた。
「特に今は、祭りの前で人の出入りも物の出入りも激しいからな。あんたみたいにちっこいと、荷物の中に紛れ込まされたら、見つけるのは至難の技だ。気をつけてやれよ」
最後の一言は3人に向けられたものだったけれど、真剣な顔で頷いている。
「よくよく肝に命じておくよ。この子に何かあったら生きていけないからね」
「……そういうことかよ。お熱いこって」
いやわたしに何かあったら、ライだけじゃなくて貴方も無事じゃ居られないんで。世界巻き込んで心中、とか洒落にならないんで。十分に気を付けます。はい。
「色々ありがとうございました」
「ホントにどうもありがとう」
頭を下げるわたしの横でにこにこと愛想よくティンが手を振ると、ようやっと門番さんの顔が綻んだ。
「脅すようなこと言って悪いな。でも、花月の祭は華やかで女性好みだと思うから、その時までここに居るなら楽しんでいきな」
「はい、ぜひ!」
にっこり笑顔を返して、ごそごそともう一度フードを被る。
しっかり身支度を整えて、詰所を出た。
途端に押し寄せる、久しぶりの人熱に、軽く当てられる。
「織葉さん、大丈夫?」
「大丈夫。ちょっとびっくりしただけ。すごい人だね」
「前回は昼でもここまで多くはなかったし、夜になればなお減っていたのだが……」
「ホントに大きなお祭りなんだね」
「そうだね。冬を乗り越えて迎えた春を寿ぐと共に、豊かな実りを祈願するためのものだからね。秋の収穫祭も賑やかだけど、門番の彼が言ったように、華やかさでは春祭りの方が上かも」
流石にライは詳しい。
というか、祀られてるはずの本人がこんなとこにいるだなんて、誰も思いもしないんだろうなぁ。
なんて思うと、軽く笑いがこみ上げる。
「今日はもう、宿をとって休むようにした方が良いであろうな。この時間からギルドに向かうのはトラブルの元だと思われる」
ルチルが言うには、ギルドは食堂と宿を兼ねてたりするので、夜になると戻ってきた冒険者達がお酒飲んで騒いでるそうな。
確かに、わざわざそんなとこに行く必要はないな。
「問題は、宿が空いてるかどうかだね」
「そうだね」
とうっすら心配をしていたのだけれど、ラッキーなことに、最後の1部屋が空いていた。シングルじゃ無いからかな? と思ったら、部屋がかなり広いため、お高いそうな。
こちらはでかいのが3人もいる4人組だから、広いのはむしろ助かるのだけど。
「何泊されるですか?」
「5泊お願いします。継続したい時は、また言えば良いですか?」
祭りだと聞いたので、長めに押さえておこう。
「はいです。できれば前日までに言ってくれるとありがたいです。お食事は、朝だけついてるですが、朝に言ってくれたら、夜もつけられるです。お昼は、前の日の夜に言ってくれたら、お弁当ができるです。それと、お風呂は別料金になってるです。入りたい時に声をかけてくれたら、お代金と引き換えに、浴場の鍵をお渡しするです。何かわからないことがあったら、また声をかけてくださいです。では、こちらがお部屋の鍵になるです。お出かけする時には、こちらに預けてくださいです」
特徴的な口調がなんとも可愛い受付のお嬢さんは、頭にフワッフワの三角お耳が生えた、三毛猫の獣人ちゃん。
うーん、お耳ぴこぴこがめちゃめちゃ可愛い。
ほのぼのと視線だけで愛でていたら、部屋に向かう時ライに抱っこされそうになって、必死で抵抗する羽目に。
なぜだ。嫉妬の基準がわからん。だって相手は女の子なのに!
部屋に入ると、ティンがちょっぴり寂しそうに
「僕らも耳と尻尾あった方が良い?」
なんてことを言い出した。
「いや、なくて良いけど。てかそんなことできるの?」
「イメージさえできれば」
「なんと」
一瞬興味を持ってしまったのがバレたらしい。深々とため息吐かれてしまった。
「いやいやホント、しなくて良いから。大体獣人って、その獣の能力供えてたりするんでしょ。人間なのに耳と尻尾生えてる方が色々ややこしくなりそうだから却下で」
「わかった。じゃあ、おうちでやる」
人の話聞いてるか?
三毛猫、いいですよね




