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お金は大事です。(真顔)
しかし毎回街道に出るのに偵察しないといけないとなると、せっかくライに転移使ってもらっても、時間かかりすぎるような……。
もう少し森の縁に近いところに小屋か何か立ててみる? 転移ポイントみたいな感じで。
「それならいっそ、諸々カムフラージュできるように、小さくて良いから家建てちゃえば?」
「ティン、そんなお気軽に言うけど……」
「いや、良いかもしれない。前に話したと思うけど、不帰の森といえども人の出入りがないわけじゃない。辺縁部ともなれば尚のことだね。特に皓月が細くなってくると、魔力溜り付近にできているかもしれない魔晶石のかけらを狙ってやってくる人間は増えるし、そうでなくても、薬草なんかを採りにくる人間は一定数いるから」
そういや最初の頃にそんなことを言っていたような。
「君の複製を使えば、好きな家を建てられるんじゃないのかな」
「簡単に言ってくれますけどね。例えば猟師小屋的なものにしたって、それなりに人の目があるかもしれないことを考えるなら、いきなり建ってるって、めちゃくちゃ不審がられるのでは?」
「その辺りは問題無いと思うよ。言ったでしょう。複製は君だけが持っているわけじゃないって」
「あ、そっか。複製して建てたのなら1日有ればできるか」
「家みたいなものを、そんな簡単に複製できるのは君くらいのものだと思うけど、それでも一から建てていくよりはずっと早くにできるよ」
「んー……。まあ、とりあえずはこちらの仕様とか見てからにしたいですね。次って言ったってそんなに早く来るわけじゃないでしょうし」
「今回は、この世界の身の回りを整えることが目的だしねー」
「だね。まずギルドで登録して、次は全員分の鞄を買うでしょ。1つくらいは時間の止まるやつ欲しいなぁ」
「織葉殿、忘れたのかもしれぬが、仕立屋の所も行かねば、後が煩いと思われる」
「……忘れてたわけじゃないんだけど、忘れたままでいたかったような気がしないでもない」
「諦めた方がいいと思うよ?」
……はい。
翌朝。
お宿のお父さん手作りの、とても美味しい朝ごはんをいただいてから、『朝』と言うには遅めの時間にギルドへ向かった。
入り口から覗き込んでみると、人が居ないわけではない。けど、昨日書いてもらった紹介状もあるし、と中に踏み込んだ。途端に集中する視線や注意を向けられる気配に一瞬身構えそうになったけれど、なんとか平静を装うことに成功する。
ちょうど手が空いたらしき受付に向かうと、あちらから声をかけてきた。
わー、うさ耳獣人さんだ!
「あ、この前の方ですね! 今日はパーティで来られたんですか?」
明るい声に、ルチルが戸惑っているのがわかる。
「あのね、パーティとかじゃないんだけど、とりあえず、これ見てほしいんだ」
ティンが紹介状という名の助け舟を差し出した。
「あら、隊長からですか。じゃあマスター呼んできますね」
そう言って奥に向かうお嬢さんの耳が、若干萎れたように見えた。
「あ、織葉殿耳を……」
「おー! 来てくれたかー!!」
み、耳が……。キーンって、キーンって……。
「……すまぬ」
「ルチルのせいじゃ無いし……」
わたし達だけでなく、受付のお嬢さん達はおろか、周りの冒険者さん達まで耳を押さえているところを見るに、今日は特別大声だったんだろうし……。
ああ、うさ耳さんなんて、耳押さえてしゃがみ込んでるし。あの耳であの距離であの声は、さぞかし辛かろうて。
「マスター、今日はまた一段と声が……」
よろよろと立ち上がりながらのうさぎ耳さんの苦情もどこ吹く風。
「お、すまんすまん。嬉しくてつい、な。とりあえず奥に行くからついてこい」
カウンターから出てきたマスターさんは、また別の扉へ向かいながら、ちょいちょいと手招きをした。
慌てて追いかけると、扉のところで待ってくれていた彼は、フード越しに、わたしの頭をワシワシと撫でくりまわした。
「おー、嬢ちゃんも登録してくれんのか? けどなー、まだちーっと早いかもなぁ。せめて十にはならんとな!」
……ふ、フード脱げる、首もげる……っ! てーか幾つに見えてんだ?!
即座にルチルがマスターさんの手を払い除けてくれて助かった。
「主に無礼を働くな」
「え、あんたの主ってこっちじゃないのか?」
と指したのは、まあ当然っちゃ当然ながらライの方で。
「違う。この方は小柄だが、きちんと成人しておられる」
「わたしは20歳です!」
でっかい声で宣言したら、なぜか背後……こちらを伺っていた冒険者さん達の方からも、どよめきが聞こえた。なんか文句あるか。
「それは重ね重ねすまんかったな。人間だと思い込んでたからつい。まあ、続きは奥で話そう」
いや、人間ですんで。
奥の部屋に入ってしばらく、マスターさんは紹介状に添えられた手紙を黙々と読んでいた。
「……待たせたな。改めて、俺がこのギルドでマスターを務めているバーナだ。で、クリスからの手紙読んだけどよ。ホントに嬢ちゃんが?」
あれ、普通の声だ。
「あの声は半分威圧だからな」
「残りの半分は?」
「素だ」
大真面目な顔で何言ってくれてんですか。
「だいたいあの声のままじゃ、ここに移動したところで、表に話筒抜けだろうが」
それもまあ、確かに。
「俺は見魔じゃねぇからよ、魔力煌が見えるわけじゃねぇ。けど、あいつがそうだって言うなら、こっちもそう扱うだけだ。ただ、そうでなかったとしても、あんたは美人だしスタイルもいい。そのくせちっこくて攫いやすそうだからな。誰彼構わず顔見せて歩くのは危険だろうよ」
「美人云々はともかくとして、信頼されてるんですね」
「してなきゃお互い困るだろ」
ごもっとも。
「さて登録なんだが、誰か字は書けるか?」
全員で頷くと、マスターの目が一瞬眇められた。なんだ?
「まあいい。じゃ、この紙に名前と年齢を書き込んでくれ。後は受付で審理の珠に触れてもらう。あれは移動させられねぇんだ」
「「「「はい」」」」
当然のことながら、審理の珠に引っかかることもなく、無事に登録は完了しましたよ。
……爪先立ちしても、窓口のカウンターまでしか手が届かなくて、ライに抱っこされましたが。
「わー、これがカード……」
「初回はタダだが、破損したり無くしたりすると、再発行に金がかかる。破損で銀貨5枚、紛失は銀貨10枚するから気を付けろ」
「わかりました。ありがとうございます。……ところで、今回も買取をお願いしたいんですけど」
「おう、何がある」
ルチルの鞄から、売れるなら売ろうと思って持ってきた物を出してもらう。
「……これ、どこで狩って来た」
「言わないとだめですか」
「普通なら言わなくてもいい。だが、これな」
と言って指差したのは、一際大きく、褐色の中に、銀色の混じった狼の毛皮とその牙。
「こいつは、もしかしたら討伐依頼が出てたやつかも知れん。そうなると、本当はクリアされてるってのに、いつまでも残っちまうだろ」
「ああ、なるほど……。ええと、狩ったのは不帰の森です。こっちの牙や毛皮は、その時群れでいたので、一緒に狩りました」
「だったら当たりだ。街道に現れちゃあ、商隊なんかが襲われてたからな。クエストの処理するからちょっと待ってろ」
ところで、登録したての冒険者が討伐のクエストを受注する、ということは、基本的にできないらしい。
普通は、登録から街の中の雑用やごく近い場所での採取で経験を積み、最低1つはランクを上げてからなんだとか。
今回の場合は、事後報告的に解決されているため、例外ということで処理をされた。
「危険ですから、あまりこんな例外は作らないほうがいいんですけどね」
「なんだかすみません」
「いいえ。だからといって、例外を一切認めないとなると、あなた方のように、実力はあるけれど、単に登録していなかっただけの方に不公平でしょう? そこらへんの調整は我々の仕事ですし、お気になさらず。あ、私はギルドの受付をやっております、キツネ獣人のトーラと申します。隣のウサギ獣人はセレナ。もう1人、今日は非番ですが、パーシーというイタチの獣人がおりまして、3人で受付を担当しています。あっちのエルフがウィド、買取の査定や鑑定をしてくれます。基本的に関わりがあるのはこれくらいですかね。他に何かあります?」
「今のところ、特には無いですね。依頼の掲示板とかは、見てたら大体わかってきましたし」
「わかりました。何かまたわからないことが出来たら聞いてくださいね。……そろそろ査定も終わるかしら?」
「うん、今回もすごくいい状態だから査定にプラスしておいたよ」
と言われた、その瞬間。
「なんで俺の査定はマイナスで、今日初めて来たチビのがプラスなんだよ!」
真後ろから怒鳴り声が。
ぴゃっ、と反射的に首を竦めてしまったら、ライが庇うように抱き寄せた。
それを見て、怒鳴り声の主は更にヒートアップする。
「どうせ倒したのはそいつらなんだろ?! 主とか呼ばれてんだし! 後ろで眺めてるだけの奴の評価が上がって、必死で倒して来た俺が評価されねぇなんて納得できるか!」
「倒したのも、解体したのも主なのだから、正当な評価だと思うが」
極冷のルチルの言葉でも、熱は下がらない。
「お前が言ったって、信用なんかできるか!」
ま、そうだろうね。
「ルチル」
一言呼んで手を伸ばす。
「銃ちょうだい」
さっと出された馴染みの銃を、受け取ると同時に構えた。
「……疑うなら、その身で経験してもらっても、良いんだけど?」
100%、口先だけの脅しのつもりでそう言うと、ただ構えただけだというのに、脂汗を垂らし始めた。
あれ。と思っていると
「嬢ちゃん、そこまでにしといてやってくれ」
マスターさんが割って入ってくれた。
うん、正直助かった。どうしようかと思ったよ。
「撃鉄が起きてるわけでもないし、ただの脅しだってのはわかるが、見慣れてない奴にはわからん。それから、お前は常々言われてるだろ。倒し方も皮の剥ぎ方も雑なんだよ。いいか、特別に見せてやる。見比べたらバカでもわからぁな」
そう言って、空いていたテーブルに広げられたのは、さっき持ち込んだばかりの、銀色混じりのオオカミの毛皮。周りにいた他の人達からまで、小さくはないどよめきが起きた。
「これは……」
「討伐依頼の出てたアレだ。で、お前の持ち込んだのがコレ」
隣のテーブルにバサリと広げられたのは、むしろ、どうやったらこんな傷だらけにできるんだ、と思うくらいボロボロの毛皮。鞣しの状態もあまり良く無い……ていうか、こんな傷だらけの皮、綺麗に鞣すのは至難の技だとは思うけど。
「どうだ。一目瞭然だろうが」
ぐ、と言葉を詰まらせ、悔しそうに唇を噛み締めていた彼は、わたしを睨みつけた後、ぷいと踵を返して出て行ってしまった。
「……すまんかったな」
「いえ、マスターさんが謝られることでは無いですよ。こちらこそ、面倒だからって短略的なことしてすみません」
「むしろ謝るのは僕の方ですね。アイツがいるのをわかってたのに、余計なことを言いました」
ウィドと呼ばれたエルフの青年が、ペコリと頭を下げた。
「稀にみる状態の良さだったもので、少々浮かれてました。不要なトラブルを起こして申し訳ありません」
「次から気を付けろな」
「はい」
「で、だ。今回のも中々いい値段になるし、小切手の分も改めてギルド預かりにさせてもらえると助かるんだが」
頭を掻きながらそう言うマスターさん。
そう言えばパーティの場合、そのお金ってどうするんだろう。
うん、わからないことは素直に聞いてしまおう。
「マスターさん、パーティの場合、お金ってどうなるんですか?」
「その前に。マスター『さん』はやめろ。名前で呼ぶかマスターと呼ぶかのどっちかにしろ。で、金の方は全員で割ってそれぞれ個人で持つか、パーティ共有ってことで誰のカードででもおろせるようにするかだな。前者の方が多いのは確かだが、絶対じゃねぇ。そこは話し合って決めてくれ」
と言われて、振り返る間があったかどうか。口を開いたティンが
「織葉さんに全額でも良いくらいなんだけど」
などと言い出した。
こらこら、全員で頷くんじゃない。
マスター……バーナさんが、呆気に取られた顔をしてるのが、視界の端に引っかかる。
すみません、うちの子がアホなこと言い出して。
「だって狩ったのも解体したのも織葉さんだし」
「こんな綺麗に狩れるのは、ティンのサポートがあるからでしょ。みんなで暮らしてるんだし、そもそもわたしが街に来れない時はどうするのさ」
「あ、その問題があったっけ。じゃあ共有で良いんじゃない?」
「むしろそうじゃないと色々困るでしょうが」
なんか、ギルド内の空気が生温くなった気がするのは、気のせいであっていただきたい。
「ということなので、前回の小切手共々、全額パーティ共有の預金でお願いします。でも、色々買い物したいので、現金でいくらかいただけると助かります」
「わかりました。いくらお渡しすれば?」
「あー……。異次元ポケットの、少しいい奴買いたいんですよね。あと細々したものも買う予定なので、それぞれに10テルム、共有で5テルムの45テルムなら大丈夫ですか?」
「大丈夫です。祭りも近いですからね、普段は来ないような土地から来ていたり、変わった物も出てますよ」
「じゃあ、そのうち1テルムを崩してもらえますか。共有用も同じく」
「わかりました。では、登録作業がありますので、一旦皆さんのカードをお預かりします」
「はい」
カードを渡すと、何やら石板のような物に乗せて、その縁に触れては放す。それを繰り返すこと全員分。
「はい、どうぞ。あとこちらがそれぞれ9テルムと10アズロ、これが4テルム10アズロ。祭りで人も多いですから、スリにお気をつけくださいね」
「わかりました。財布に紐つけておきます」
かなり真面目に言ったのに、冗談だと思われたのか、クスッと小さく笑われた。
「じゃあこれ、一袋ずつ渡しておくから、それで好きなもの買ってね。これで足りないような高額なものを買う時は、みんなで相談しよう」
「我のポケットが5テルムだった」
「なるほど。僕もそんな感じのが欲しいし、とりあえずは鞄屋さんだね!」
小袋の紐をベルトに結びつけて、とりあえずスリ対策。
ルチルは前回もらったと言うお財布にしまって服の隠しに入れていた。紐をボタンに引っ掛けてあるのが偉い。
さあ、楽しいお買い物の時間だよ!
色々買えると思うんだ。
バーナは声に威圧をのせることができますが、そうすると自動的に大声になってしまうのです。
耳の良い獣人さんたちにとっては試練の時かもしれません。




