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異世界生活の基礎知識  作者: 彩瀬水流
第1章 異世界生活始まるよ?たぶん
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気分は子守

 ルチルを送り出してからも、わたしは延々と保存食を作る作業に追われている。

 うっかり作ってしまった赤子の頭サイズの大量のジャガイモサツマイモについては、1個ずつ残してあとはとりあえずむしろに包んで地下室へ運び入れてもらった。

 サツマイモは後で干し芋にでもしようかな。

 そして最も急務であるイノシシジャーキーの製作に取り掛かる。

 燻製用の塊は調味液に漬けこんでいる最中だ。

 ただ、どうも魔力の調節がうまくできず……。

「織葉さん、風強すぎ! 乾く前に全部飛んでっちゃうよ!」

「これでも抑えてるのにぃ」

「使う魔力が多すぎるんだろうね。魔晶石の使い方は上手なのに、なんでだろう」

「そんなこと言われましても……」

「ねートライン様ー。織葉さんの魔力って、モノづくりに特化してるような気がするんですけど」

 うん、わたしもそんな気がしてきた。地面に注ぎ込むのは調整要らずだから楽なんだけど。

「……複製は、ものすごく繊細な魔力制御が必要なんだけど」

「だからモノづくりに特化してるんじゃないかって言うんですよー」

 ティンの言葉に、トライン様が考え込むように顎に手を当てる。

 わたしも考えながら、とりあえず日干し組の方に白の蚊帳布をかけに行く。直射日光当てすぎるとそれはそれで白茶けてしまうし。

「……視界共有が上手くいかなかったのもそれか?」

「織葉さんの事だから、たとえ一時的にでも、ルチルさんに負担をかけるのが嫌だ、って思ったんじゃないかな」

 ティンの言葉を反芻する。

「……そう、かも」

 あと、わたしが目を瞑っても、ルチルが目を閉じない限りは映像が見え続けるという、あの違和感たるや……!

 あんな体験をまたしたいとは思えない。

「それもおかしな話なんだけどね。目を瞑る=見たくないという事だろう? マスターの意思に反してる」

「暴走してるんじゃないですか?」

「ティン、なんとなく言っているようだが、それはそれでかなりの問題だ」

「「そうなんですか?」」

「君達ね……」

 そっくり同じ反応をしたわたし達に、なぜかトライン様が膝から崩れ落ちる。そんなこと言われても、知らないものは知らないもん。

「あれ、でも今の風って乾燥させるためだよね?」

「そうだけど」

「モノづくりの一環だよね? なんで?」

「そんなことわかるわけないじゃないか」

 とはいえ、仮説なら立てられる。

 その1。日干しにするものだと思い込んでいる。

 その2。風で乾燥させる場合、地球では結構な強さの風で乾かしているのを何かで見た覚えがある。イカとかタコとか。

 その3。やっぱりただの制御不良。

「やっぱりアレか。乾燥籠作らなきゃダメなのか」

「ダメとは言わないけど、むしろ籠ごとどっかにぶっ飛ばさない限りは大丈夫だし、良いかも」

 うーん。

 唸りながら、水切り用に作った目の粗い籠を手に取る。

 そうそう、この世界にも竹に近い植物があるんだよね。ただ、それをこういう形に細工するという発想はないようで、シディルさんがびっくりしてた。これも売れるかなぁ。


 取り合えず、試しに2つの籠をタコ糸で結び合わせてみる。ちょっと歪だけど、球体に出来そうなそれに、干し肉にしたい肉をざらっと放り込んだ。更に数か所タコ糸で結び合わせて開かないように固定してやると、球状の籠の出来上がり。

 両手で数回転がしてから、手の上にごく小さなつむじ風をイメージする。

 あ、出来た。

 おお、これ楽しいかも。

 ほらアレだ。こうパイプみたいなやつの先っぽにすり鉢形のカゴがついてて、吹いたらボールがぷかぷかするおもちゃ。

 浮かせながら両手のひらの上でふいふいころころと転がすうちに、

「ずいずいずっころばし・・・・」

 鼻歌までこぼれてくる。

「ご機嫌治ったならいいけど……」

 ティンの小さな声が聞こえた気がするけど、これ結構楽しいから、聞こえなかったことにしてあげよう。

 籠ボールはふわふわと浮いているように見えるのに、中の干し肉は風に煽られてかなりの速度で舞っているらしい。ぐるんぐるん回ってる。

 空気送り込んだ透明のドームの中で舞い踊ってる三角くじっぽいな。

 あれ、なかなか掴めなくて意外に難しいんだよね。かといって空気圧弱めたらそもそも宙に浮かないし。

「・・・お茶碗欠いたのだーぁれ」

 キャッチ。軽く振って中身を確認してみる。

 ……うん、うまくいきそうだな。全体的にムラなく風が当たってるみたい。

 じゃあこの方法でいいかな。

「イメージ掴むと制御も完璧ってどうなの……」

 トライン様の呆れたような声を聞きながら、しばらくお手玉遊びに興じる。手遊びの童謡って、ほどほどの長さだしリズムもいいし、こういう時にはぴったりだね。

 とはいえ何度も繰り返し歌えば流石に飽きてくる。

 うーん。茶壺は短すぎるか。

「アルプス一万尺小鑓の上で・・・」

「ねえ」

「はい?」

「さっきから歌ってるの、なに?」

「あ、ええと……」

 トライン様の方を向いた瞬間、びっくりしたあまりに籠をキャッチし損ねた。転がっていきかけた籠は不自然にぴたりと止まって、止まったのに右へ左へゆらゆら揺れている。

 ん?

 や、それよりも! なんでニーアとトライン様が並んで覗き込んでくるの?!

 それに……

「なんか妙に空気が濃ゆい気がするんですけど……」

「うん、そうだね。だから何かなって」

「日本の童謡っていうか……ええと、子どもの手遊びで歌うんですけど」

「それになんで精霊が寄って来るの」

「あ、精霊さんが集まってるんですね。……じゃなくて、なんでってわたしが聞きたいです」

 それに答えを返したのは、ニーアだ。

「精霊たちは、楽しいことが大好きなんですの。オルハさまのご様子が楽しそうでしたから、この子たちは遊んでいると思ったのではないかと」

「はー……。ああ、じゃあそこで籠が止まった挙句揺れてるのは」

「はい。みんな興味津々ですから」

 ぴこん。

「ねえ、じゃあさ、さっき私がやってたようなことって、みんなできる?」

「できますわよ?」

 ことんと首を傾げるニーア。

「水の子とかでも濡れたりしない?」

「力を振るうと意識しなければ大丈夫ですわ。あたくしもそうですし」

 ……確かに。

 そのわたし達を見て、にやりと口の端を持ち上げるトライン様。

「何か思いついた?」

 やだなぁトライン様。わたし別に、手抜きしようとか思ってるわけじゃないですよ?

「どうせなら、人数居ないとできないことしようか」

「はい?」

「ティン、おいで。見本見せたげよう」

「もしかしてまさかの蹴鞠?」

「蹴らないよ?!」

 わかっててそういうことを言うティンを引っ叩きながら、少し離れて向かい合う。

 指先から弱く風を紡いで籠を浮かせ、とん、と弾くようにティンの元へ送り出した。

 感覚とかイメージとしては、紙風船や羽根つき。

 ティンはティンで、器用に片手でキャッチすると指先でつつくようにしてこちらへ返してくる。

 向こうの世界では、こんな体格差でやると、結構な確率でえらいことになるんだけど、そこは魔法が補ってくれる。ティンも簡単な魔法なら使えるみたいだし。

 トライン様とニーアは、不思議そうな顔で右へ左へ籠の動きを追いかけている。

 何回かそうやってやり取りして、籠をキャッチした。

「こんな感じ。わかる?」

「わかりましたけど、あたくし達はどうすれば?」

「ええと……。わたし達でまず四角形を作ろうか。大きめに」

 そうして、後はわたし達の間を埋めるように円形に並んでもらう。

 わかりやすいように、がりがりと地面に線を引いた。

「で、他の子はこの線に沿って並んでね。ていうかどれくらいの人数がいるんだろ」

「結構いますけど……」

「悪いんだけど、わたしはみんなの姿が見えないからさ。この大きさなら、間に2~3人が入るくらいが楽しめるかな」

「じゃあ、まず最初は姿を現すことができる子からにしましょうか」

「え」

 その声に、確かに何人かが、ぼんやりとだけど姿を浮かび上がらせた。濃淡があるから、そこらへんが力の強さの違いなのかな?

「これならいかがかしら」

「あ、うん。わかりやすいけど、無理してない?」

 心配になって尋ねると、ニーアが目を瞬かせた。

「これだけ力の強い土地ですから、この程度で力が足りなくなる方が難しいですわよ?」

「え?」

「この場所はオルハさまの力が溢れていますから、力を持っている子は、それを少しお借りするだけで、姿を現すことができるのです」

「へぇ?」

 そっと横目で見てみると、子どものような姿を取った精霊さんが、少し不思議そうな顔をしながら自分の手をにぎにぎしている。

 ……かわいい。

「あれ? 人型?」

「ええ、上級への鍵を手に入れている子たちですね」

 へー。

「上級精霊になる子って、生まれつきなの?」

「そうとは限りませんが、やはり生まれ持った力の強い子は鍵を手に入れやすいようです」

「ふぅん。まぁ無理してないならいいや。みんな、身体は動く?」

 そろってこくりと頷く。

 いやー、なんかうちに来てた子供達を思い出すねぇ。

「じゃあ、線に沿って、わたし達の間に2人か3人かずつ入ってね」

 そうして、風を纏わせた籠はひたすら宙を舞い、よほど楽しいのか途中何度か確認の為に手を止めるとわちゃわちゃ周りに群がって来るようになった。

 何度目かの確認で1枚取り出して裂いてみると、いい感じの断面が見えた。

 齧ってみると、硬さはちょうどいいんだけど、肉の味が恐ろしく濃い。なのに何か物足りない。

「織葉さん、どぉ? できてる?」

 覗き込んできたティンに、無言で一切れ渡す。

 や、もぐもぐしてるところだったからね。

「肉の味濃いねー。でももうちょっと何か欲しいような……」

「うん。まぁ妥当なラインで塩とか醤油とか、あとはハーブソルトで臭み消しつつ塩味追加とか?」

「臭みと言うほどのものはないけど、風味の問題?」

「そうだね」

 そんなことを話しながら、隣で目茶苦茶ワクワクしているトライン様には一切れ渡すけれど……

「ニーア、あんたも食べるの?」

「なんの問題もございませんわ!」

 キラッキラした目で食べ物(干し肉)見つめる精霊ってどうなの。

 つか精霊って固形物食べられるんだ。霞ってか魔力食ってるイメージしかなかったよ。

 そいでもって……

「この子たちも?」

 じーーーーーーっと見上げられている。

 正直、視線に温度があったら焦げてそうだ。

「ええ、まぁ、大丈夫かと……」

「じゃあ、お手伝いしてくれたご褒美ということで。でもいっぱい食べるとお腹痛くなっちゃうかもしれないから、ちょっとずつだよ?」

 後半は、ぱあぁっと目を輝かせた子ども達……じゃなくて精霊達に向けて話しかける。

 目をキラキラさせてこくこく頷く様は、可愛らしい以外の何物でもない。

 一切れを大体3つくらいに裂きながら、お行儀よく並んだ精霊さん達に渡していく。……幼稚園とかのおやつの時間を彷彿とさせるな。

 ん、と。あれ?

「なんか最初より人数増えてない?」

「だって増えたもん」

「へ?」

「途中から、ちょっとずつ実体化できる子が増えててね。君の魔力が無尽蔵にこの辺に撒き散らかされてたから、たぶんそのせい」

 撒き散らかされたって人聞きの悪い。

「今回は特に何もしてませんけど?」

「相も変わらず自覚なし、と。あのね、魔力纏わせた籠、あれだけあっちこっち飛び回ってたら、空中散布してるようなものだって思わない?」

 うーん。

 でも、じゃあ逆にさ……。

「上位精霊の子がこんなに生まれてて大丈夫なの?」

「問題ありませんわ。位階が上がったからと言って、性質も仕事も変わるわけではありませんし、そこで変に(おご)るような子は、そもそも上級に上がれません」

 なるほど。

 でも、わたしが触れるくらいにまでしっかり実体化出来てる子は、数人しかいない。視認できる程度の半透明の子はいっぱいいるけどね。

 触れる子たちの頭を撫でてやると、嬉しそうに笑ったひとりが、腰に抱き着いてきた。

 可愛いなぁ。

 ほのぼのしていると、べり、とトライン様が精霊さんを引っぺがす。

「くっつくな」

 大人げないその行動にふにゃりと泣きそうな顔をしたその子の姿が、次の瞬間、ふぅっと掻き消えた。

「え?! ちょっとトライン様なにしたんです!?」

「何もしてないよ?」

「それならなんで消えちゃったんですか!!」

「オルハさま、大丈夫ですわ。この子は消えたのではなくて、萎縮したあまりに姿を保てなくなっただけですから」

 ふわりと宙を撫でる仕草をするニーア。きっとそこにさっきの子が居るのだろう。

「大人げない」

 じろりと睨みつければ

「私でもなかなか触れられないのに、簡単に触れさせるから」

 しれっとそんなことを言うのだから、頭が痛い。

「わたしのせいなんですか」

「そうとも言う」

「いや言いませんからね? 大体なにこんな子供にやきもち焼いてるんですか」

 そう何気なく口にしてから、その内容が頭に残る。

 やきもちを焼いている? そう、感じられた? というか思った?

「織葉さん、顔、真っ赤だよ」

 ティンにツッコまれるまでもなく、自分でもわかった。

 いやだってつまり、それって、やきもちを焼かれるくらい想われてるって思ってるってことで。

 あれなんか日本語おかしい?

「君ってホントに鈍感というか無意識に煽り過ぎというか……」

 ため息交じりにトライン様。

「ティン様、オルハさまってもしかして……」

「ニーアさん、その前に僕に『様』付けやめて。僕は織葉さんの眷属なだけだから」

 ものっすごく居心地悪そうに身を捩るティン。

 対するニーアはといえば、可愛らしく口を尖らせて

「だったらわたくしも『さん』付け無しにしていただかないと」

 などと言っている。

 お互いに拗ねたような顔で睨み合って何やってんだか。

「僕の『さん』付けはデフォルトなんだから仕方ないでしょ。諦めて」

「あたくしはただの精霊ですのよ?」

「『ただの』じゃないでしょー」

 あーもう。

「はいはい、もうふたりともお互いさん付けでいーでしょ。一歩ずつ譲んなさい」

 そこでぶーたれない。

「呼び方なんてどうでもいいでしょうが。いくら様付けしてようが敬う気持ちが無きゃ意味なんてないし、逆に呼び捨てもまた然りなんだからさ」

「そりゃそうだけど」

「そうかもしれませんけど」

 あら息ぴったり。

「だから、呼ぶ方と呼ばれる方でそれぞれ1個ずつ譲んなさい?」

「……はぁい」

「かしこまりました。ではティンさん? オルハさまって、もしかしなくてもものすごく鈍い方ですの?」

 酷い言い草だな。

「そーだよ。鈍いって言うか、自分に向いてる好意の質を理解してないっていう方が正しいかも。そこら辺だけは子供っていうか、マセた子の方がわかってるかも」

 さらに酷いなおい。

「あんたたちね」

「いやー、流石にうまい言い方するねぇ」

「トライン様まで……」

 ちょいと、みんな酷すぎやしないかい?






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