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異世界生活の基礎固め Side T-1
序章全体のトライン視点、その1です。
神であるが故の傲慢さが透けて見える表現がちょこちょこ出てきますので、そう言うのが苦手な方はご注意ください。
読まなくてもストーリー上の不具合はありません。
私たちは、ひとつの世界の創造者であり、管理者。
余程のことでもないと、他の世界と関わりを持つことはない。
だと言うのに、とある世界の管理者たるイアルから、突然連絡があったかと思えば、人間を1人、こちらに渡らせてほしいとか言ってきた。
なんで界渡り。めんどくさい。
いくら手違いがあったからって、世界を渡らせてまで救済を与えようだなんて、全く『らしくない』。
そもそもイアルのとこって、いつもどこかで戦争してるから、毎日結構な数の輪が廻る。
時には眷属を増やさなければならないとか。
だから、そんな中の1人に入れ込むだなんて、本当にありえない。
でもまあ、珍しいことではあるし、とりあえず、話を聞くだけは聞いてやってもいいか。
イアルによると、彼女側の不手際で、その子の輪廻の輪を失わせてしまったとか。
うん、聞いたことない話だね。
そう言うと、イアルが居心地悪そうに身動いだ。
省エネモードでいるのもそのせい? ああそう。
で?
輪を用意できないから、代わりに私の世界へ渡らせたい?
なんで私のところかと聞けば、その子が選んだから、らしい。
なんでもこの世界の名前は、あちらの言葉で『夢』とか『夢想』とかを表す言葉であるらしく、それが気に入ったとか。
あと、その子は私のお気に入りになるだろうって。
何をそんな予言めいたこと言ってるかな。
そう思いながら、イアルの世界で彼女……織葉を見た時、少しばかり納得がいった。
とてつもなく純度の高い魔力を示す、オーロラの輝きを纏った、小さく華奢な体。
でも、この世界に魔力は無いんじゃなかったっけ。
そう尋ねれば、極稀に魔力保持者は現れるとのこと。
ただ、使い処は皆無に近く、少しばかり運が良くなるとか、各種能力が人並み外れた成長を遂げるとか、あるいは人に好かれやすい……軽い魅了が発動するとか、その程度。
発動も無意識下であるため、私の世界のような使い方はできないし、それが可能なほどの量も強さもないらしい。
つまり、彼女の魔力は規格外。この世界にはあり得ない代物。
……これはシディルが喜びそうだ。
私も彼女を観察しているだけで、しばらくは退屈しなくていいかもしれない。
イアル曰く、彼女は無欲だと。
不遇な生を長く過ごさせてしまった上に、世界を渡ることでしか詫びられないから、と、何不自由なく生きられるようにしたかったイアルに、彼女は『生きていく上で、必要な常識と魔法の使い方を教えてほしい』と言ったらしい。能力だってスキルだって、いくらでも要求できるのに、一般人平均程度でいいし、今の自分に不足は感じていないから、必要無いと。
言語はマスタリークラスにしたらしいけど、それだってイアルが勝手にしたこと。
後で『複製』を欲しいと言われたから与えた、とは言ってたけど、あれだって、元になる物が無ければただの死にスキルだ。
人間って、もっと強欲じゃなかったっけ。無欲なのか、単なる怖いもの知らずなのか。
もしかしたら死にたいのかな? この世界だと死のうにも死なせてもらえなさそうだしね。あ、その前に消滅するしかないんだっけ。
だとすると向こうで何か与えないといけないかな。渡ってすぐに消滅したなんて、イアルに何されるかわからないし、私もつまらない。
受け取らないなら、こっそり付与してしまえばいいことだし。
いよいよ世界を渡ろうかと迎えに行き、初めて彼女ときちんと向き合った時。
私の世界に於いては、問題を引き起こす可能性の高いその容姿に、少しばかり動揺する。
イアルに目を向けてみると、それを知ってか知らずか、小さく首を傾げられた。微かに笑っていたような気もするから、わかっているのかも知れない。
……この色彩を持つ彼女に、なぜ私の世界を選ばせた? リストから除外することもできたはず。
わざわざ界渡りまでさせた彼女の身に何かあっても、イアルのせいであって、私のせいではないからね。
そうして私の世界へ降り立ってみれば、本当に『死ぬために』世界を渡ったのかと思わされた。イアルからの謝意を、とりあえず受け取るためだけだと。
礼儀正しく振る舞ってはいるけれど、なまじ整っているだけに、人形に見えそうなほどの無表情。『早く帰れ』と言わんばかりの、遠慮する言葉。
彼女の魂は、どれ程懐柔しようとしても、私の手は借りないと全力で拒絶していて、眷属の存在がなければ、いつ消えてしまうかわからないほどに、儚かった。
初めて感情が見えたのは、家に作った温泉を見た時。
きらきらと嬉しそうに笑ったことが嬉しくて、それを言葉にした、次の瞬間。
大粒の涙が、彼女の頬を転がり落ちた。彼女自身、なぜ泣いているのかわからないという顔のまま。
同時に私も理解する。
どこかちぐはぐな彼女の行動は、自分がどれほど張り詰めているのかを、全くわかっていないが故で、そのままにここまで来てしまったのだろう。この子は、どうやら恐ろしく不器用な生き方しかできないらしい。
必死で押し殺そうとする彼女が忍びなくて、世界から隠すように包み込んだ。
そうしてやって、初めて泣くことを自分に許した彼女は、それでも誰にも頼らずに、拳を握り締め、1人立ち尽くしたまま、泣き声すら抑えて、涙をこぼす。
その様子に耐えられなかったのは、私の方だ。
背中を撫でて、自分に寄りかからせて。そこまでしてようやく、私の服を掴んだ小さな手と、縋りついてくる体の温もりに、歓びが密やかに湧き上がった。
そんな感情に、自分でも戸惑う。しばらくして、泣き止んだ彼女が、きまり悪げに体を離した時、寂しいと思ったことにまた戸惑う。
泣くだけ泣いてスッキリしたらしい彼女に、イアルと約束していた加護を与えた時。
そこに来てようやく自分の容姿に気付いたらしい彼女は、鏡に映った自分に、これは誰だと叫んだ。故に、この容姿が、イアルの独断だということがわかった。
別れ際のあの仕草を見るに、この姿の持つ意味を知らないわけではなさそうなのに、わざわざ容貌を変え、ここに送り込んだ、その理由が、皆目見当もつかない。
もしも会うことがあれば、問い詰めたいところだ。
その後、彼女はなかなか多才であることを匂わせる発言をして、また興味をひかれる。
話を聞いていくと、伊達に90年生きてきたわけではないとのことで、派手な技能こそ持たないものの、しっかりと地に足の着いた生活をしていたのであろうことがわかる。そして、その技能を持つが故に、たいして欲しい技能などなかったという。
話すうちに、どんどん湧き上がる興味。
──もっとこの子を見ていたい。
だけどすぐに、彼女のとんでもなさに気付かされることになる。
確かに複製という概念は彼女の世界にだってあったようだけれど、自分で生み出すなんてことはできなかったはず。なのに彼女は、手順を全て聞くことなく複製を完成させてしまった。しかもありえない速度で。
まさか、とは思ったけれど、複製できない物のカテゴリに変化はなくて、安心する。
どうやら彼女を普通の人間として見ているととんでもないことになりそうだ。
しばらくは人の姿をした未知なるものとして見なければ。
外見はこんなに小さくて華奢で、ちょっと手酷く扱ったら壊れそうなのに。
中身はなかなかに強かで図太くて、そして得体のしれない力で満ちている。
それでも、精一杯大地に寄り添って生きようとする彼女は、とても愛おしく感じる。
この感情はいったい何だというのだろう?
高純度で潤沢な魔力と、それを高精度で制御できる彼女は、けれどもなぜか、眷属との視界共有はうまくいかなかった。なのに、指先から指向性を持った魔力の弾丸を発射してみせるとか、本当に意味が分からない。
少し探ってみると、どうやらこの子の魔力は、物を作ることに特化しているのかもしれないと、手掛かりをつかんだ。
これは、検証する価値がある。
そう判断した私は神殿に連れ帰って、研究者として私の下に居るシディルと引き合わせた。
まぁ予想はしてたけど、シディルの食いつきっぷりがすごいよね。
元々魅魔である奴は、魔力の存在そのものを不思議に思ったことから研究者としての道に入った。であるからして、こんな謎に満ちた存在を放っておけるはずがない。
彼女の年齢を聞いて、なぜか不穏な表情をしたのが唯一気になる点ではあるが、優秀な研究者である奴のこと。彼女の魔力を分析にかければ、何か掴めるかもしれない。
トラインやイアルは人間に近い感覚を持っているという設定ですが、やっぱり上位の存在ですので、多少の傲慢さは持ち合わせています。
トラインは、初期設定ではもう少しゲスい人物だったはずなんですが、ふたを開けてみれば結構純情でした。
以下、織葉への感情分類。
トライン⇒恋愛感情。ほぼ一目惚れ。甘えてほしい。ただし時々地雷を踏む。
雪花/ティン⇒姉のような存在。一番家族愛に近い。ただしそれを逆手にとってる部分在り。
ルチル⇒現状では、ただ傍に寄り添って見守りたい。純粋なる思慕。
シディル⇒過去の罪から解き放ってくれた、救い手。恋愛感情というよりは崇拝に近い。




