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守り神



その日、テストは確か…三コマあった。

くっそこんな日に限って。

普段の授業をすっぽかすのはともかく(これはこれで問題であるが)テストをすっぽかすわけにはいかない。オレはそこまで不良じゃない。

しかしイライラとテストを解き、終わった瞬間他のホームルームも全部無視して教室を飛び出したオレはやっぱり不良だろうか。


どこへ行くかは決まってた。神社だ。

相変わらず別世界のような雰囲気を纏った神社である。


「来たんだね…」

「………」

驚きはしない。ゆっくりと振り返ると少し後ろに彼が立っていた。


「もしかして…気付いた…?」

こくりと頷く。するとくすくすと微かに笑う声が聞こえ、瞬きした瞬間に彼はその姿を変えた。


服は清楚な和服に変わり、耳は魚のひれのようなものに変わり、彼の回りに透き通った不思議な魚がぱしゃんと飛び、回る。

やっぱり、人ではなかった。不思議な雰囲気は決して人の手ではと届かないもの。


「やっぱり…お前は…」

確信する。彼は湖の守り神である。


「君なら気付いてくれると思った…」

「あんだけ不思議行動してればな」

気付かない方が馬鹿だろうよ。


「ううん…ボクは何も…本当に見えるのは君だけになっちゃった…」

「え…?」

「あの子も、あの人も、みんなみんなボクを忘れていく。見えなくなっていく」

涙はないはずなのに、泣き笑い手いるような表情で小さく呟いていく。


「だから、ね。ここにいる時に君が来た時に、びっくりしたんだ。来て欲しいなと思ってたけれど、来てくれるとは思っていなかったから」


諦めたような声だった。

おそらく事実諦めていたのだろう。楽譜は多分コイツがオレに気付いて欲しくてオレの近くに落としたのかもしれない。いや、そうだ。

けれど、オレがその楽譜を気になって拾うこともなかったかもしれないし、拾っても吹奏楽のものだと決め付けて置いてきてしまう可能性だってあったんだ。

そう、考えると、最初から…本当に子供の頃からオレは心のどこかでコイツの事を忘れないでずっと覚えていたのだろう。

口には言わないが、心のどこかが暖かくなる気がする。彼も同じ気持ちなのだろうか、悲しそうであるがどこか嬉しそうな、そんな気がした。


「……湖がなくなって、仕方ないけどさ、あと少しの、ほんの少しの…間だけれど一人でいるとボクはボクが誰なんだろって…思ったりして…。…――くなる前に…誰かに見つけてもらいたくて神社に来てみたけど誰にも見えなくて…ボクは…」


誰にも見えないならそれはどこにもいないということと同じではないだろうか。



そんなとき、オレに出会ったのだという。

楽譜の件はきっと、彼が自分がここにいるという証明が欲しいという最後の本能であったのかもしれない。

無意識のうちに助けを求めていた。


「ボクは人がみんなが好きだよ。子供の頃からたくさんの子と遊んだ。けれど大きくなるとみんな見えなくなっちゃう。よくある話だよね。でも君はボクがまだ見える。覚えてくれてる。…それが…嬉しい」

ありがとう、というと彼はゆっくりと踵を返す。


「お、おいっ」

オレは咄嗟に呼び止めていた。


けれど彼は頭だけ振り返って酷く綺麗に笑って手を振った。

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