湖
次の日。
テストの日だった。今日はひとつの教科しかない。
やったと思った。
オレはナナシノコのことを思い出した。
けれど、名前だけはどうしても思い出せなかった。
聞く機会はいくらでもあった。けれど、何となく自分で思い出さなければいけないと思った。
ナナシノコはオレの名前を何度も呼ぶ。
けれど、オレは一度も呼んでない。
おかしな話である。けれど、ナナシノコは何も言わなかった。
自分の名前を呼んでくれるのを…待ってくれている気がした。
なんとまあ自分勝手で都合の良い解釈だと思われる。
けれど、オレは根拠もない確信があった。
だから、さっさとテストを終わらせようと思っていた。
今日は、国語。そんなに得意ではないが、苦手でもない。そこそこな感じ。
楽に終われるかななんて思っていた。
はやくしないと、間に合わなくなる。
「え…?」
何が?何が間に合わなくなるんだ?
自分で考えてて驚いた。
「………そんなはずないって…」
「高城、どうかしたのか?」
「…!?」
後ろを振り向くと、テストの監督の先生が立っていた。
「悩むのはいいが、答えを口にするなよ」
「は、はい、す、すんません…」
テストだというのに控え目ではあるが、がやっと笑い声が教室に響いた。
テストが終わった後、オレは気になったことがあって学校の図書室を訪れていた。
(あいつ…湖の近くに住んでいたと言ってた…)
その前には神社の近く、とも。
しかし、あの神社の近くに今は湖はない。
昔は。あった。
オレがまだ小学生の低学年の頃までは。
「確か…開発で埋め立てられてしまった…」
綺麗な湖だったから、反対の声もあった。
けれど、結局は埋め立てられた。開発と言っていたが、別に何かがあるという訳でもなく、木々が生い茂っていて小さな森のようになっている。
森は立ち入り禁止で入れないから実際中がどうなっているのかはわからない。
不思議だった。
どうしてあいつは湖の近くに住んでいると言ったのか。
湖はもうないのに。
極めつけは、彼を、オレ以外が見えないと言うこと。
「もしかしたら…あいつは…」
一つの可能性にたどり着いたオレは、真実であるのか確かめるべく図書室である本を探している。
目的の本を見つけた頃にはもう、あたりは薄暗くなっていた。
思ったよりも時間がかかってしまって急いで家に帰ると、部屋にナナシノコはいなかった。
「え…」
どうして、と呟いて直ぐに気付いた。
もしもオレが考えている仮説が正しかったらきっと彼の居場所は…
「くそっ…」
杞憂であればいい。しかし焦燥がおさまることはない。
「なんで…」
普通に家に帰ったと思えばいい。元々家に勝手に入ってきたんだから勝手に帰ってもなんら不思議じゃない。
気になったオレはあの神社へ行くことにした。しかし、
「ちょっと!ショウ!?どこへ行くの!」
「え!ちょっと…そこま…」
「テスト期間くらいふらふらしてないで家で大人しく勉強していなさい!どうせ今日また部活の助っ人とか出てて勉強していないんでしょう!」
「ちが!流石に出てねーよ!!」
「じゃあお友達とテスト勉強?今まで見逃していたけれどあんたがまともにテスト勉強していないことはわかるからね!」
「ぐっ…」
テストしてればもっともっといい点が取れるだろうと言いたいのだろう。
もしくはオレの部屋に入ってノートとか見たのかもしれない。
確かにそれならテスト勉強してないだろうといわれるのも頷ける。だってしてないから。テスト勉強しているという証のノート、問題集はないから。
「って!オレの部屋勝手に入って確かめたのか!?」
「そんなのあんたみてればわかるわよ」
「ええー…」
親の勘というやつですか。
それから、オレは母にうまーく言いくるめられて結局家から出ることは出来なかった。
仕方無しに教科書と問題集を開いている。
しかし、あいつが気になって内容は全く頭に入らなかった。




