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思い出



オレが帰ると、ナナシノコ(名前を聞く機会を失って何となく聞きづらいから心の中で幽霊だかわからない彼をこう呼んでおく)はちょこんと部屋の床に座っていた。


(正座…)

足痛くねーのかな…そう思ったけど幽霊なら痛いとかないのか。


「おかえり」

「…あ、ああ、うん、ただいま」


幽霊(仮)に言われると何か変な感じだ。






「なあ」

先に口を開いたのはオレだった。


きょとんと首を傾げながら彼が先を促すので続ける。


「お前…あそこに住んでるのか?」

「神社に?」

「そう」


なんとまあ突拍子も無いことを言ってしまったことだとは思ったけれど、なんとなく何でここにいるのとか、何者なんだとか聞いたらいなくなってしまう気がした。


「うーん。あそこ、じゃないけれど近くには。君も来た事あるかも」

「そっか…ってお前の家に!?」

「そうじゃなくて…近くにってこと」

「あ、ああ、そっか…そうだよな、うん」


どうやらオレは自分で思っているよりテンパっているようだった。




その日、結局核心も何も知ることはできなかった。

変わったことと言えば。


「ショウ~!」

ナナシノコがオレになついたことくらいだろうか。

会ったときに感じた不思議な雰囲気もなにもない。

ただ、甘えてくる姿はずっとずっと前からの友達であったような懐かしさと安心感を感じだ。


抱きついていくる彼のさらさらした髪に指を通すと自然と笑みがこぼれる。


(ああ、違うな…)


弟みたいだ。




オレが知りたかったことを聞けたのは、次の日、学校で少し勉強をして家に帰ったときだった。

家にいるとナナシノコとダベって勉強ができないと思ったからだ。

昨日がそうだったし、明日からは本当にテストが始まる。危ないと思ったんだ。


家に帰ったのは八時を過ぎていた。



「え?」

今、なんて?

「…ボク、湖の近くに住んでたんだ」


そこはきれいな湖でね、水が透明できらきらしていて、飲んでも大丈夫そうなくらい。

あ、どんなにきれいでもそのままは飲んじゃ危ないんだけどね。

湖の底には青々とした水草があって宝石みたいに湖を通して太陽の光を受けて輝いてた。

小さな魚や、虫とかが生きている姿をみてると一日を忘れそうなくらい。

そんな日を過ごしながら神社で君たちと遊んでた。


あのころは楽しかったなあ…。

かくれんぼをしたり、鬼ごっこしたり、歌を歌ったり、探検したり…。

毎日が全く違ってて飽きなかった。


ナナシノコはその時の楽しさを忘れられなくてまたオレんとこに来たらしい。

それを聞いたら、オレは不思議と納得してしまった。


オレが感じていた喪失感。

きっとオレもあの頃の楽しさを忘れてなかった。

けれど、大きくなるにつれて次第に遊ばなくなっていった。

気づいたら、コイツのことも忘れていた。


すとん。

心の中にすっぽりと収まった。



「ごめん…」

「…?」

「オレ…忘れてたのって…」


気になって当たり前だ。

あの曲はコイツに教えて貰った。

詠っていた詩につくメロディー。やさしくてあったかくて、歌を教えて貰った。


うなだれていると、ナナシノコがオレの頭をぽんぽんとなでていた。

ゆっくりと顔を上げる。


「ショウ。ありがとう」

泣きそうな顔だったけれど、その笑顔は酷く綺麗で。

気が付けばオレもつられて笑っていた。

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