第2話
「どこに住んでるの?」
明白は聞いた。
「どこにも住んでない。家はない」
家はないと言う割には着ているものもそれほどボロボロではない。裕福な家庭とは言い難いが、それでもちゃんとした衣服だった。
「本当に?」
「家はない。何回も言わせないで」
「悪い。だが、帰る家がないなら放っておくことはできないよ。うちに来るか?」
「……いい。俺はここで死ぬ」
明白は困った。しかし、あることに気がついてくすりと笑う。
「君に名をあげた。なのに安安と死なせることはできない。君のことは何も聞かない。詳しく聞くことはない。ただ、僕のそばで生きててくれないかな」
明白の言葉に春蕾は目を丸くした。
「……求婚してるみたいになってるよ」
「えっ?」
明白が驚く。すると、春蕾はくすりと笑った。
「無自覚? ふふっ、お兄さんいい人そうだね。あなたの名前は?」
「名は明白、字を清陽という」
「ふーん。どっちで呼んでほしい?」
澄んだ目が明白を見て尋ねる。その瞳に吸い込まれそうになりながらも、明白は答えた。
「明白、と」
「分かった。明白、よろしくね」
「ああ」
そう頷いて、明白は立ち上がった。
「さあ、帰ろう」
「うん、帰ろう」
春蕾は橋の向こう側を見つめた。
おそらくそっちには本当の家があるのだろう。しかし、春蕾は寂しい顔をすることなく、どこか笑顔で背中を向けた。きっともう、後悔はないのだろう。
それなら、いいのだ。
「嫌いな食べ物はある?」と、明白は言った。
「何でも食べるよ」
「私はきのこが嫌いなんだ」と言えば、信じられないものを見たかのような顔で春蕾がこちらを見た。
「美味しいのに!?」
「美味しくないよ」
「えー、信じられない」
「美味しいと思う人のほうが信じられない」
そんな話をしながら、明白の隣を春蕾は歩いていた。春蕾を見れば、頭の上に桜の花がついていた。
明白はその桜をつまんでとった。
「ん?」と春蕾がこちらを見る。
「ついてた」
「ふふ、ありがとう」
少し照れたように笑う春蕾が愛らしく、明白はその笑みを見つめたまま笑い返した。




