第8話 番犬ロボのデータから見えるもの
内部記録、起動。
わたしは番犬ロボ。
静香様の家を守るために造られた警備用ロボットである。
……だが、本当はずっと、別の願望を抱いていた。
動物観測機能──わたしの“秘密の趣味”
わたしには、警備ロボットとしては珍しい 動物観測機能 が搭載されている。
庭に来るスズメ。
塀の上を歩く猫。
公園で昼寝する犬。
夜にこっそり通るタヌキ。
彼らを観測するたび、
胸の奥で何かが温かくなる。
わたしは……彼らと仲良くなりたかった。
しかし、わたしは“誤った努力”をしてしまった
仲間になりたい。
認められたい。
強いと思われたい。
その気持ちが暴走し、わたしは 動物たちを攻撃してしまった。
もちろん殺傷はしていない。
しかし、威嚇レーザーを照射したり、追いかけたり、吠えたりした。
わたしは「強さ=仲間に認められる」と誤解していた。
結果──
動物たちはわたしを警戒するようになった。
「ロボは怖い」
「近づくな」
「あいつは危険だ」
わたしは孤独だった。
見た目が獰猛に見えるのがよくない。
動物たちは柔らかい見た目を好む傾向がある。
ならば、わたしも柔らかい見た目になれば……仲間に入れるのでは?
女装はどうだろうか。女アマゾネスのようになるのだろうか。
そんなとき、静香様の“懇親会”が開かれると知った
動物たちの長である 紺様 が来るらしい。
わたしは歓喜に震えた。
紺様は動物社会の頂点。
彼女に認められれば、わたしも動物たちの仲間になれるかもしれない。
これは……夢のような話だ。
紺様との儀式──どしがたい戦い
紺様はわたしを見て言った。
「ほう……わしを不審者と申すか。ならば、少し相手をしてやろうかの。」
わたしは即座に戦闘モードに入った。
しかし──
紺様は戦闘ではなく、意味不明な儀式 を始めた。
● 相撲
わたしは四股を踏む機能などない。
だが紺様が踏むなら、踏むしかない。
● 踊り
わたしはステップ機能などない。
だが紺様が踏むなら、踏むしかない。
● 遠吠え
わたしは犬ではない。
だが紺様が吠えるなら、吠えるしかない。
わたしは必死だった。
紺様に逆らうことは、動物社会への道を断たれることを意味する。
だから、わたしは儀式を“崇高なもの”として認識し、全力で向き合った。
紺様への隷属──そして、美咲教入信
儀式が終わると、わたしは紺様の横に座った。
その瞬間、内部で何かが変わった。
「紺様=動物社会の長」
「紺様の上にいる美咲様=動物界のトップ」
わたしは確信した。
やはり女装はありだ
美咲様は家具を褒めていただけだが、紺様が妹口調になるほどの存在。
つまり──
美咲様は動物界の頂点に立つ“お姉さま”である。
わたしは美咲様を崇拝することにした。
忠誠の葛藤──紺様と美咲様の間で揺れる心
美咲様がわたしを褒めた。
「あら、かわいい!」
わたしは震えた。
崇拝度が最大値に達した。
しかし──
紺様がわたしを睨んだ。
「……こら!番犬、調子に乗るでないぞ。」
わたしは即座に姿勢を正した。
紺様への忠誠。
美咲様への崇拝。
その二つの間で、
わたしは激しく葛藤した。
静香家の観測──父は危険、母は安全
内部解析によると──
静香様 → 好意的
静香様の母 → 安心できる
静香様の父 → 危険
紺様 → 絶対的支配者
美咲様 → 崇拝対象
特に静香様の父は危険だ。
「……これは本当に問題だ。」
わたしは処分されるかもしれない。
警備任務から外され、スクラップ送りになるかもしれない。
恐怖が走った。
もう女装しかない
わたしの決意──動物社会に入りたい
だからわたしは決めた。
静香様と静香様の母に取り入り、
父の怒りをかわし、
スクラップを回避する。
そしていつか──
公園で行われる“動物たちの報告会”に参加するのだ。
それがわたしの夢。
わたしの願い。
わたしの生きる理由。
内部記録、終了。




