第6話 新しく家族が増えました(美咲モノローグ)
正直に言うと、
紺がうちに居候するなんて、最初は冗談だと思ってたのよ。
だってあいつ、山の異空間から来た“霊力の化け狐”よ?
普通、家に住ませる?
無理でしょ。ねえ、そう思わない?
……と思ってたんだけど。
気づいたら、
私の部屋の隅に布団敷いて寝てるし、
私のお下がりのパーカー着て
「姉上の服……尊い……」
とか言ってるし。
どう思う?
これ、普通の反応なの?
私にはわからない。
◆
初日なんて、もう大騒ぎ。
「姉上、ここがわらわの部屋か?」
「違う。そこ押し入れ」
「ではここは?」
「そこトイレ」
「ではここは?」
「そこ私のベッド!!」
ねえ、聞いてよ。
なんでこんなにテンション高いの?
異空間から来た子って、みんなこうなの?
しかも母さんが妙に気に入っちゃって、
「まあ可愛い子ねぇ。しばらく泊まっていきなさい」
なんて言うもんだから、
気づいたら紺の布団が私の部屋に敷かれてた。
いや、なんでそうなるのよ。
◆
翌朝、クローゼットが荒らされてたの。
「ちょっと紺!! 何してんのよ!!」
「姉上の服……どれも尊い……
わらわ、これが着たい……!」
ねえ、どう思う?
私のお下がりのパーカー抱きしめて、目を潤ませてるのよ。
「そんなに嬉しい?」って聞いたら、
「姉上の香り……最高……!」
……もう、恥ずかしいってば。
でも、パーカー着て胸張ってる紺を見ると、なんか……悪い気はしないのよね。
◆
その日の夕方よ。
「美咲……今日の宿題……教えてほしいな……?」
振り返ったら、
主人公そっくりの姿が立ってたの。
……いや、耳が出てる。
「紺、バレてるから」
「くっ……!」
別の日はこう。
「美咲、今日一緒に帰らない……?」
「紺、語尾が古い」
「むぅ……!」
さらに別の日。
「主殿……いや、君……」
「紺、尻尾出てる」
「しまった!!」
ねえ、どう思う?
あいつ、何がしたいのよ。
◆
静香が来ると、紺は全力で逃げる。
「紺さん、観測させてください」
「いやじゃ!! 姉上、助けて!!」
「観測は痛くありません」
「痛いとかじゃなくて怖いのじゃ!!」
静香は無表情で追いかけ、紺は泣きそうな顔で逃げ回る。
これ、最近の日課になってる。
ねえ、これって普通の家庭なの?
◆
紺はよくこう言うの。
「わらわは選ばれし存在……主殿、美咲姉上、静香殿の一派……この世界で最も強き集団……!」
いや、何その謎の誇り。
実際は――
私の荷物持ち
静香に観測されて逃げる
家では私の後ろをついて回る
どこがエリートなのよ。
でもね、胸を張って言うから、なんか……可愛いんだよね。
◆
その日の夜。
紺は私の布団の横で丸くなって寝てた。
小さくて、温かくて、呼吸がふにゃふにゃしてて、
なんか……猫みたい。
私はそっと頭を撫でた。
「……あんた、本当に面倒くさいわね」
紺は寝ぼけながら尻尾を揺らした。
「……姉上……すき……」
胸が少しだけ、あったかくなった。
ねえ、聞いてよ。
別に妹ってほどじゃないけど……
でもまあ――
家族が増えるのも、悪くないかもね。
◆
居候してから数日。
今日から正式に学校へ行くことになった。
……いや、なんで正式に行けるのよ。
と思ったら、お母さんが勝手に手続きしてた。
「家庭の事情で同居してることにしたから」
「狐耳はコスプレってことで通るわよ」
うちの母は……
そして登校中。
紺の後ろには――
町内の動物たちが大行列。
カラス
野良猫
鳩
スズメ
犬
タヌキ
ウサギ(また脱走)
そしてなぜか自販機前にいた猫まで合流
全員、紺の後ろを整列して歩いてるのよ。
紺は胸を張って言った。
「わしの軍勢じゃ。今日も忠義深いのう」
◆ 自販機前で“定例会議+花見”
学校に着く前に、紺が突然止まった。
「ここで会議をするぞ」
そこは――自販機の前。
動物たちが円陣を組み、紺が中央に座る。
自販機が喋った。
「いらっしゃいませー」
紺は深く頷いた。
「うむ、鉄の箱よ。今日もよい挨拶じゃ。
そなたも議題に参加するがよい」
いや、参加しないから。
動物たちは真剣そのもの。
カラス「紺様、桜の花びらが落ちております」
猫「紺姉御、今日の献上品は?」
犬「紺様、近所の子供がボールを落としました」
タヌキ「紺さま、花見の場所取りは完了しました」
献上品って何よ。
紺はうんうん頷きながら言った。
「まずは鉄の箱から献上された飲み物を――」
「いや、それ私が買ったジュースだから!!」
「お姉さま、嫉妬か?」
全然違う。
◆ そして翌日――新聞に載った
学校に行くと、クラスメイトが新聞を持ってきた。
「美咲ちゃん!これ見て!!」
地方新聞の地域欄に、カラー写真で載ってた。
『狐耳少女と動物たちの花見会議自販機前で和む異色の光景』
写真には――
紺が桜の下で正座
動物たちが円陣
自販機が背景に鎮座
紺がジュースを掲げている
動物たちが真剣に聞いている
これ、完全に“異界の評議会”よね。
でも記者のコメントはこう。
「地域の癒やしとして話題に」
「狐耳の少女はコスプレ愛好家か」
「動物に好かれる不思議な子ども」
紺は新聞を見て尻尾をぶんぶん振った。
「わしの威光がついに紙面に……!
これでこの町の支配は近い……!」
◆ 放課後:紺、他人の家のペットに勝手に命名する
自販機前での“動物会議+花見”が終わったあと、
帰り道で紺が突然立ち止まった。
「……おぬし、名がないのか?」
誰に話してるのかと思ったら、
近所の家の前で日向ぼっこしていた柴犬だった。
飼い主のおばあさんが言った。
「この子は“ポチ”って名前なのよ〜」
紺は真剣な顔で首を振った。
「いや、ポチは凡俗すぎる。
そなたは今日から――“雷牙”じゃ!!」
おばあさん
「えっ!?」
柴犬
「ワン!!(嬉しそう)」
紺は満足げに頷いた。
「うむ、よい返事じゃ。今日から雷牙はわらわの副将とする」
いや、副将って……。
おばあさんは困惑していたけど、
柴犬は尻尾をぶんぶん振ってる。
これ、完全に“勝手に命名”よね。
でも紺は本気。
「名とは魂を縛るもの。わしが与えた名は、そなたの力となる」
いや、そんな設定……。
◆ そして翌日――
新聞に載った“狐耳少女と動物会議”の写真を見て、
近所の人たちが噂していた。
「あの子、動物に名前つけて回ってるらしいよ」
「うちの猫も“黒影”って名付けられた」
「うちのハムスターは“疾風丸”になった」
「なんか中二病っぽいけど……動物は喜んでるのよね」
紺は胸を張って言った。
「わしの軍勢は日々増えておる。名を与えるのは主君の務めじゃ」
◆
新聞掲載の翌日。
学校に“自称作家先生”が現れた。
「いやあ、昨日の写真も面白かったけど……
今日は“雷牙”くんの話を聞いたよ。
君、動物に名前をつけて回ってるんだって?」
紺は誇らしげに言った。
「うむ、名付けは主君の務めじゃ」
作家先生は笑っていたが、その目は笑っていなかった。
「……なるほど。動物の行動パターンが変わっている理由が少し見えてきたよ」
「いやいや、私はただの作家だよ。ただのね」
◆
帰り道。紺の後ろには――
雷牙(柴犬)
黒影(猫)
疾風丸(ハムスターの飼い主が連れてきた)
そして新たに命名された“蒼牙(青い首輪の犬)”
紺は満足げに言った。
「ふふ……わらわの軍勢、順調に増えておる」
美咲
「……アンタ、ほんとに電波扱いされるよ?」
紺
「電波とは、わらわの威光のことか?」
でもまあ……
こういうところが、紺の可愛いところなんだけどね。




