第45話 過激派一味捕獲作戦
『美咲が行く』の収録で、ヘレンは思いがけない“新たな脅威”を見出しました。
その危険が静かに迫る中、彼女はついに決意します──
穏健派として、そして美咲の味方として、次の一手を打つ時が来たのです。
『美咲が行く』の収録から数日後、ヘレンは穏健派の執務室を訪れていた。
「メアリ、あなたはあの男が何者か知っているんですか?」
「……あの人たちは私を追いかけていて、美咲ちゃんの収録現場によく現れるんです」
「やはり彼らの目的はあなたで間違いないのですね」
「ええ、私から情報を引き出すのが狙いのようです。ヘレンさん、どうするつもりですか?」
「我々穏健派であの男を捕まえます。
私は『美咲が行く』のお手伝いもできるようにディレクターに頼むことにします。
あなたは強硬ビルの収録とこの執務室以外は顔を出さないようにしてください」
「でも……美咲ちゃんは現場のスタッフさんと勘違いしているみたいです」
「美咲ちゃんには捕獲作戦完了後に知らせることにしましょう。
私は至急、作戦部隊を編成し、お姉さまの許可を得ます。
ろぼみ、あなたはエージェント・モードで捕獲作戦に加わってください」
「了解しました、なのです!」
ヘレンは執務室を後にした。
メアリは美咲の身を案じたが、この件に関しては何もできなかった。
◆
ヘレンは強硬ビルに立ち寄り、ディレクターに『美咲が行く』のアシスタントを志願した。
おりずには事情を説明し、捕獲作戦の隊長を一任する。
「後はお姉さまの許可を得るだけだわ」
ヘレンはマーガレットの元へ向かった。
◆強硬ビル・社長室
静香の父は考え込んでいた。
ヘレンのチーフディレクター任命の件は失敗に終わった。
「果たして穏健派はどう出るのだろうか……」
コンコン、とノックの音。
「社長、たいへんです!
穏健派の腕っぷしの強いやつらがリズの元へ集まっています。
何か事を起こすに違いありません!」
「何だと?ヘレンはどこにいる?」
「ヘレン様は急用で帰られたようです」
「マーガレットの元で間違いない。
ヘレンめ、とうとう本性を現したか」
◆
「過激派一味を野放しにはできません、お姉さま、私にご命令を!」
「落ち着くのです、ヘレン。
私たちは穏健派なのです。事を荒立ててはなりません」
「それでは美咲ちゃんの身が危険なのです!」
そこへ静香の父が帰宅した。
「おいおいヘレン!穏健派の物騒な動きは知っているぞ。
君はいったい何をするつもりなんだ?」
「お兄様、強硬派は過激派一味のことを知っていながら、なぜ手を打たないのですか?」
「その件なら今は泳がせている段階だ。警察も嗅ぎ付けていながら静観している」
「それなら美咲ちゃんはどうなるんです?」
「美咲ちゃんは……言わば囮だよ。彼らを引き付けるためのな」
「何ですって?静香、あなたは美咲ちゃんがどうなってもいいのですか?」
大人のやり取りを黙って聞いていた静香は、発言の機会を得ても少し沈黙した後で言った。
「一切の手出しは無用。
美咲は……あの男の餌付けに半分成功している段階」
静香によれば、美咲は過激派一味を手なづけ、自分の配下にするつもりでいる。
遅かれ早かれ男は美咲の前に屈するのだと言う。
(この娘は狂っている)
予言を通り越した荒唐無稽な妄想に、ヘレンと静香の父は同じ感想を抱いた。
しかしマーガレットだけは娘の洞察力に感服していた。
「とにかく、乱暴はなりませんよ」
マーガレットに釘を刺され、ヘレンはうな垂れた。
◆
『美咲が行く』の収録当日、美咲一行は最寄り駅に到着していた。
美咲、紺、静香の3人である。
メアリは執務室、ろぼみはエージェント・モードで離れた場所から待機していた。
「ふー、やっと着いた……」
美咲は大きく伸びをした。
「あ、おじちゃん!」
「え?」
駅前の雑踏の中から男を見つけると、美咲は手招きした。
「今日は泊まりで荷物が多いのよ。タクシーまで半分運んで」
「今日もメアリちゃんはいないの?」
「ん?今日も用事があるって。それより早く早く!」
荷物に手を出そうとした時、男は四方を穏健派の捜査員に囲まれていることに気付いた。
(取り囲まれた。このままではまずい)
(美咲を盾にするか……)
ふと脳裏をかすめた瞬間、事態は変化した。
◆
待機中のろぼみは離れたところで美咲一行を確認し、ターゲットの男を取り押さえようとしていた。
突然、「動くな!」と通信で命令された。
その瞬間、意識はそのままフリーズした。
命令は紺によるものだとすぐにわかった。
あらゆる通信は遮断され、付近の信号はすべて赤。
捜査員たちも事態の変化に動きを止めた。
遠くの方から数千もの鳥が飛んできて、建物の上に止まり、こちらを凝視している。
不気味な光景だった。
男はこの空間を支配している人物の目を見ていた。
いつも収録現場に美咲に同行しているコスプレの少女──
今までそう認識してきたが、自分の目の前にいるあれは人間ではなく恐ろしい妖怪だ。
紺の瞳は、空間そのものを命令しているようだった。
そして今、審判は下されようとしていた。
◆美咲の一撃
美咲は荷物の仕分けに夢中だったが、周囲の様子がおかしいことにようやく気付くと、
荷物の中から台本を1冊取り出し、紺の方へ歩いていった。
「ま待って、だめだ……」
男は美咲を止めようとしたが、恐怖で声が出なかった。
美咲は台本をくるっと丸めると──
パン!
「あんた、こんな場所で何するつもりなの!」
紺の頭を叩いた。
その瞬間、緊張は解かれたが、その場にいる誰もが動けずにいた。
まだ鳥たちの影も残っていた。
事態が収まったと判断した男は、一目散に逃げ出した。
「ああ、ちょっと、おじさん!」
美咲が慌てて呼び止めたが、男の姿はもうそこにはなかった。
◆
必死に逃げながら男は今の出来事を反芻した。
とてつもなく恐ろしい力を持つ妖怪。
それを使役する少女。
今まで宇宙人勢力との徹底抗戦だけを視野に入れて戦ってきたが──
真の敵は美咲だったのだ。
美咲には誰も勝てない。
今までは執行猶予の段階で、今日のは最後通告だったのだろうか。
◆
一部始終を見ていたろぼみは今日の出来事を分析しようと試みた。
執務室に戻れば報告を求められるだろう。
しかし数値化できない。それほど紺の力は圧倒的すぎた。
強硬派でもなく穏健派でもなく──
美咲についていく。
ろぼみは改めてその決意を固めた。
美咲のためなら、紺は本当に手段を選びません。
通信を遮断し、信号を止め、空間そのものを支配し──
過激派の男は、ようやくその“本当の姿”を理解しました。




