第44話 美咲、再び三恐洞窟へ挑む
穏健派の台頭を良く思わない静香の父は、昨夜から思案を続けていました。
マーガレットの告白を受けて揺らいだ彼の心は、次にどんな一手を選ぶのでしょうか。
その答えは、意外な人物との対話から始まります。
強硬ビルの社長室で、静香の父は次の一手を考えていた。
「変人のヘレンと話すのは気が進まないが……やってみるか」
彼はヘレンを呼び出した。
「お兄様、何の御用でしょうか?」
「いや、忙しいところ呼び出して申し訳ない……
サーチマンの件はお手柄だった。私の負けを認めようじゃないか」
「ありがとうございます、お兄様。お褒めの言葉と受け取ります。そもそも勝負ではありませんのに」
「君もリズも謙遜家だなあ。とにかくお見事だった。そこで提案があるのだが……」
「提案とは……何でしょうか?」
「この番組の正式なチーフディレクターに君を任命しようと思う」
「私がチーフディレクターに?」
ヘレンは考える間もなく断ろうとした。
番組制作には関わりたいが、地位などいらない。
「せっかくのお話ですが、執務との兼ね合いもありますので、考える猶予をください」
「そうか……」
(今更執務もない。まさか引き受けないつもりか。やはり変人だ……だが侮れない)
ヘレンは話を終えると、ディレクターの元へ向かった。
◆ヘレンとディレクター
「私をここのチーフディレクターにという打診でした」
「おめでとう!僕もうれしいよ」
「いえいえそんな。それに私はあなたを推薦したいのです」
「現場経験から判断しても、私よりもあなたの方が適任です」
「それはありがたいけど、君はそれでもいいのかい?」
「ええ。その代わりに、次回の『美咲が行く』のディレクターを私に任せてください」
「それは構わないが、次回は三恐洞窟で美咲ちゃんを脅かす第2弾だよ。君は反対だったよね?」
「問題ありません。洞窟の安全性は確保されました」
こうしてディレクターは正式にチーフディレクターへ。
ヘレンは三恐洞窟収録の監督を務めることになった。
◆収録当日・三恐洞窟
「美咲ちゃん、そろそろ始めてOKですよ」
怖がりな美咲は、安全だと聞かされていても乗り気ではない。
洞窟の入口付近でもじもじしている。
美咲の様子を見かねたおりずは、ヘレンの元へ駆け寄った。
「ヘレン様、あのような場所に美咲ちゃんを入れては危険です」
「宇宙ボタルの件なら強硬派により駆逐されました。穏健派も後の処理と調査を終えています」
「今日の収録は不思議スポットの探索です。何かありそうで何もない。
もしもの時はあなたと私、静香もいます。問題ありません」
「ですが美咲ちゃんは……」
おりずが言いかけたその時──
「お弁当でーす」
収録現場に一人の男が現れた。
ヘレンとおりずは一瞬で悟った。
──過激派の一味だ。
目的はメアリの捕獲だろう。
メアリとろぼみは執務室にいる。
「ディレクター、あの男は?」
「え?いつもの弁当屋さんだよ」
「何ですって?」
ヘレンとおりずは顔を見合わせた。
「速やかに排除しなさい!」
「はい!」
「おいおい!排除だなんて物騒な」
慌ててディレクターが止めた。
「美咲ちゃんはあの人を現場スタッフと勘違いしているんだよ。まあ見てて、きっとおもしろいよ」
「おーい!おじちゃーん、こっちこっち!」
美咲は男を呼び寄せた。
◆美咲と過激派の男
美咲は説教を始めた。
「この前はよくも途中で逃げ出してくれたわね。あの後あたしは大変だったんだから……
今日という今日は、この前の分まできっちり手伝ってもらうからね。はい、これ」
懐中電灯を手渡す。
「おじちゃん先にあっちを見てきて」
男が行って戻ってきて「何もない」と言うと、
「へぇ、あっそ」
どくようにジェスチャーする。
そしてカメラの前へ立ち、
「それではあっちを見てみようと思います。ドキドキしますね!」
何もなかったように振る舞う。
その後は美咲のやり方で続行された。
「あっちを照らせ」
「先に見てこい」
「もっとゆっくり歩け」
男の姿は後ろ姿か体の一部しか写らない。
美咲が年長者をこき使い、自分の手柄のように進行するレポートは滑稽だった。
撮影が無事に終了すると、
「お疲れ様でした。おじちゃん、またよろしくね!」
美咲は愛想よく声を掛けた。
「今日はメアリちゃんはいないの?」
「今日は来てないよ。用事があるんだって」
男はその答えを聞くと、
(メアリがいないなら……ここに要はない)
「そうなんだ。おっとまた急用だ、ごめん」
そそくさと退散していった。
◆収録後
「ああ、行っちゃった。何かお礼をしたかったけどまた今度だ」
美咲はすぐに気持ちを切り替えた。
「おりずさん、せっかくだから近場でちょっとだけ……釣りしてみない?」
切り替えの早い美咲だった。
洞窟の安全は確かに確保されていました。
しかし、ヘレンとおりずの前には思いがけない新たな脅威が姿を見せます。
その緊張が去った後──美咲は何事もなかったかのように、
無邪気に次の「釣り」のことを考えていました。
政治の影が差し込んでも、彼女の日常は揺らぎません。




