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第41話 Before Searchman, After Searchman

美咲を喜ばせるために考案されたサーチマンでしたが、

その誕生は穏健派に思いもよらぬドラマをもたらしました。

今回は、その「サーチマン以前」と「サーチマン以後」に分かれる転換点の物語です。

サーチマンのお披露目会が行われるより数週間前のこと。

ヘレンは島の自分のアトリエで、ひとり構想を練っていた。


机の上にはサーチマンの試作パーツ、壁には未完成の絵画と設計図。

芸術家なのか技術者なのか、本人にもよくわからない空間だ。


「ふむ……水中シーンをVTRで挿入するのはどうかしら」

ヘレンはペンを走らせながら、勝ち誇ったように笑った。


「その時にグラビア撮影も同時に行えば……マーガレット姉様の要求も満たせるわね」

姉からは「姉妹で収録に参加したい」と頼まれていたのだ。


「この件は、メアリちゃんに相談っと」

ノートに大きく丸をつける。


◆メアリとろぼみの執務室

その頃、穏健派の執務室ではメアリとろぼみが事務作業に追われていた。


「ふーーー……あらかた片づいたかな。ろぼみちゃん、そっちはどう?」

「バッチリ片づけたのです!」


「よかった。それじゃあ休憩にする?」

「望むところなのです!」


メアリは大きく伸びをした。

ろぼみはリラックスしたのか、執務室の壁に飾られたポートレートを順番に眺めている。

(あたいの写真も飾ってほしいのです……)

そんな妄想をしていた。


コンコン、とノックの音。


「はい?」

「メアリ様、お茶をお持ちしました」


技術部長も一緒に入ってきた。


「私もご一緒してよろしいですか?」

「ええ、どうぞ」


メアリは大人にどう話しかければいいのかわからず、

とりあえず無難そうな質問を選んだ。


「サーチマンの方は順調ですか?」


技術部長は苦い顔をした。

「それが……ですね。実はここに来て暗礁に乗り上げている次第でして」


「まあ、そうなんですか……」


そこから先、どう慰めればいいのかわからず沈黙が落ちた。


その沈黙を破るように、メアリはぽつりと語り始めた。


「ここにいるろぼみちゃんは、実は家を追い出されて、私が預かっているんです」


「そうだったんですか……」


「ええ。静香ちゃんのお父さんにあらぬ疑いをかけられて……」


同情の視線がろぼみに集まる。

しかし当の本人は目を閉じて、

(あたいの写真はこのへんに飾るのです……)

などとレイアウト案を妄想していただけだった。


視線に気づいて目を開けると──


「え?あたいは番犬ロボからメイドロボット、今度は秘書型アンドロイドへと出世したんです!」


感動の雰囲気を一瞬で吹き飛ばした。


妙な沈黙が再び訪れた、その時。


◆

水着にパーカー、ビーチサンダル姿のヘレンが勢いよく現れた。


「メアリちゃん、相談があるのです!」


島では見慣れた姿だが、制服姿しか知らない技術部長は呆然とした。


ヘレンは空いている席に座るやいなや、

「私にもお茶を」


技術部長が同席しているとは思わなかったらしい。


「わ、私は決して遊んでいるわけではありませんのよ!」

パーカーの襟元だけを正しながら言い訳する。


そしてメアリに、VTRの件を相談した。


技術部長はヘレンの熱意に圧倒され、

「必ず完成させます!」としった激励を受けて意気揚々と戻っていった。


◆翌日──合同報告会

サーチマンのお披露目収録が行われた翌日。

宇宙人勢力の強硬派と穏健派による合同報告会が開かれようとしていた。


静香の父は強硬派の代表として早めに会場入りし、席に座っていた。


「ふん、ヘレンめ。あれだけ大見得を切っておきながら、しっぽを巻いて逃げ出したか」

「やはりただの変わり者の穏健派に過ぎなかったわけだ」


ヘレンの席は空いていた。

マーガレットは気にする様子もなく、隣の席の人物と優雅に談笑している。


報告会が始まり、穏健派の定例報告が述べられた。


「近所の公園でおりずと釣り具の手入れをした」

「釣具屋で1時間リールを吟味したが結局買わなかった」


もはや恒例となった美咲関連の観察記録だ。


「以上で穏健派の定例報告は終わりですが、今日は特別のお時間をいただき技術部長の発表会を行います。技術部長、どうぞ前へ」


技術部長が壇上へ上がる。


「我々穏健派は、強硬派の生命反応観測装置に代わる新しい探査装置──サーチマンを開発しました」


サーチマンを高く掲げると、

「おおおおお」

会場から静かなどよめきが起きた。


「従来の観測装置は、人間側が使用した場合、我々はNot Humanと表示されてしまうという重大な欠点がありました」

「穏健派はこの点を改良し、我々とヒトを同一視します」

「試作品は既に完成し、量産も可能です」


そして──


「先日取り行われましたお披露目会の模様を記録したフィルムをご覧ください。これは本日は欠席されているヘレン様が直々に手掛けたものでございます」


上映が始まる。

ビーチのシーンでマーガレットが注目されると、

彼女は照れ笑いを浮かべながら自分の演技を見ていた。


上映が終わると、

穏健派・強硬派の区別なく、割れんばかりの拍手と喝采が巻き起こった。


技術部長はマーガレットの元へ歩み寄り、

マーガレットは満面の笑顔で握手を交わした。


歓声が渦巻く会場の中、

静香の父だけが沈痛な表情で頭を抱えていた。


ヘレンが報告会を欠席したのは、決して計算された作戦ではありません。

今の彼女にとって政治は二の次で、

創作と演出こそが何よりも大切なのです。

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